全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第二章

最愛

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 どうしよう。クリフさんに対する気持ちが、増すばかりだ。
 命を賭けたプレゼントをいただいて、素直に嬉しいと思ってしまった……

 私がブレスレットを付けていると、例外なくお客様に凝視された。その度に、偽物ですレプリカですと言い回った。それほどこのブレスレットは珍しく、そして恐れ多いものなのだろう。

 


 夕方、仕事を終えて王城へ帰る。少し前までは、城壁内にある家に帰っていた。だが、今はこの立派な城に帰っているのだ。それが今だに信じられなかった。

 扉から城内へ入ろうとした時、不意に男性の会話が耳に飛び込んできた。

「聖女のおかげで、白竜国に取り入ることが出来た。
 このまま、黒竜王にも取り入って、世界を我々のものにしよう」

 あまりに不穏すぎる話題のため、思わず声のするほうを見てしまった。すると、王城の陰に二人の白いローブを着た男がおり、周りを気にしながらひそひそと話をしているのが見えた。

「だが、黒竜王は聖女に全く興味がないらしい。
 おかしなことだ。聖女を妻とすれば、治癒能力を手に入れたことになる。すなわち、国の繁栄を意味しているのだが」

「黒竜王とて多夫多妻制の獣人だ。聖女が押していれば、そのうち靡くだろう」

 その言葉にずきっとする。だが、私はクリフさんの言葉を信じている。

つがいの契約の可能性は? 」

「今時、つがいの契約なんて面倒なことをする竜人族など、いないだろう」

 不意に出たつがいという言葉に、過剰に反応してしまった。それにしても、この人間たちの言うことは謎だ。つがいの契約が面倒だなんて、どういうことだろう。確かにクリフさんはつがいの契約をしてもいいと言っていたが、それは面倒なことなのだろうか。

 (私だけを愛してくれるのだから、私は嬉しかったんだけどな……)

 少し落胆している私を前に、白いローブの男たちは話を続ける。

「まあいい、聖女なんて使い捨てだから。
 今の聖女が戦で死んだりすれば、また新たな聖女を召喚すればいい」

 里果なんて大嫌いだ。だから、里果がどうなろうと私には関係ない。それなのに、”死ぬ”という言葉が胸に突き刺さる。散々里果に嫌がらせをされ、十倍に仕返ししてやりたい。だが、死んで欲しいとまでは思ってもいないのだ。




◆◆◆◆◆




「そうか。そんなことを言っていたんだな」

 私の話を聞き、クリフさんは鼻で笑った。

「まあ、そんなものだろうと思っていた」

 クリフさんはさほど気にもしていない様子だ。だが、私はどこか落ち込んでいる。里果は白竜国で戦闘に参加し、死んでしまうのだろうか。
 
「なぁ、エマ」

 クリフさんは、いつもの甘くて優しい声で私を呼ぶ。

「俺はもちろん聖女なんていらないが……エマはなぜそんなに暗い顔をしているんだ? 」

 クリフさんに心配するように聞かれ、言わずにはいられなかった。

「男たちは、里果が死んでも関係ないって言っていたから……
 里果は本当に死んでしまうのかなって思ったりして……」

 俯く私を、クリフさんはじーっと見つめた。その視線が痛い。

「エマは、あの聖女が嫌いじゃないのか? 」

「嫌いですよ」

 慌てて答える。

「でも……死んで欲しいとは思ってもいない……」



 私たちの間に、沈黙が舞い降りた。それでもなお、クリフさんの視線を感じる。
 やがて、クリフさんは再び静かに口を開いた。

「俺には、エマの考えが完全には分からない。
 憎い奴は死んでも構わないだろう?

 だが、エマが悲しむのなら、あの聖女を殺すことはやめておこう」

 クリフさんは優しい。こうして、理解出来ない私の気持ちにも寄り添ってくれるのだから。そして、こうやって大切にするたび、クリフさんを好きだと思う。


「確かに、国にとって聖女の存在は大きい。
 聖女が傷を癒してくれるから、兵や国民は安心して生活出来る。
 それに仮に聖女とつがいとなれば、竜人族は聖女の治癒能力を自ら発揮出来るようになる」

 ズキッと胸が痛む。
 つがいに関してはよく分からないが、国の繁栄と聖女は切り離せないものなのだろう。
 そして、国王が相手に聖女を選ぶという理由も理解出来た。

「だが……」

 クリフさんは、甘くて優しい瞳で私を見る。その瞳で見つめられると、少しだけ安心する。まるで、大丈夫だよと言っているようで……

「エマは聖女とは呼ばれていないが、聖女と同等の能力を持っているだろう」

「……え? 」

 思わず両手を見る。私のこの治癒能力が、聖女と同等かどうかは分からない。だが、食堂でも聖女と持て囃されているのは確かだ。

「あの聖女と一緒に召喚されたエマも、実は聖女なのではないかと俺は思っている」

「!!? 」

 体を衝撃が走る。

 (私が……聖女!? )

 クリフさんは冗談を言っているのではないか。だが、彼は至って真顔だ。そして、口角を上げて満足げに言った。

「俺は幸せだ。聖女のうちの、”いいほうの聖女”と出会えたから。
 俺がエマとつがいになれば、癒しの力も手に入れることが出来る。何ら不都合はない」

 クリフさんの言葉を聞き、白ローブたちの言葉を思い出した。

「でも、今時つがいの契約を結ぶ竜人族なんていないと、彼らは言っていました」

 するとクリフさんは、優しい笑顔で私を見る。

「面倒だからな、つがいの契約は。
 契約解除は出来ないし、生涯一人の女しか愛せない。手順も複雑だ。

 でも、俺はそれでいいと思っている」

 そんな顔で見られると、クリフさんに大切にされているんだと思ってしまう。クリフさんに全身で愛されているんだと勘違いしてしまう。

 クリフさんは、そっと左腕のブレスレットに触れる。それで昼の女将さんの言葉を思い出した。

「あっ、あの!! ブレスレット、ありがとうございます!
 まさか、クリフさんが命を賭けて作ってくれたものだなんて思っていなくて……」

「命……? 」

 怪訝な顔をするクリフさん。その様子を見ると、このブレスレットは本当にレプリカなのかもしれない。

 (そうだよね。痛い思いをして、自分の棘なんて抜かないよね)

 心の中で呟いたが、クリフさんは頬を緩めて答えた。

「まぁ、確かに失敗すると死ぬかもな。
 でも、エマがあまりにも無防備だから、周りの男に知らしめてやらないといけないと思ったり……」

 (あぁ……やっぱりマーキングだったのか……)

「それと、昔からの風習だ。

 竜人族は、最愛の人に自分の分身として体の一部を贈る。大切な人のためには、痛みすら我慢するという決心の表れだ」

 (最愛……)

 ストレートに放たれた甘い言葉は、私の胸をぐいぐい抉る。クリフさんはこうも身を削り、私に気持ちを伝えてくれているのだ。

つがいの契約をするとそれは相手の体に溶け込み、一生消えない痣となる」

 甘くて心地よい声で囁き、腕をそっと持ち上げられる。そして、彼はそっと手の甲に口付けした。
 その瞬間、今までよりも強い熱が体を駆け巡る。

 もう、駄目だ。
 私は身も心も、クリフさんのものだ。
 
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