15 / 47
彼と私の必死な攻防戦
第15話
しおりを挟む
私がこの地に来てから、気付いたら一ヶ月ほど経っていた。相変わらずフリードが婚約破棄をしてくれる気配はない。まだ頭のダメージは治っていないのだろうか。そして、相変わらず無表情のフリードだが、私に構おうとする機会が日に日に増えているのだ。
昨日は一晩中天体観測に付き合わされた。宝石みたいな星空を見上げながら、不覚にも感動してしまった。そして、フリードが寒いだろうと抱きしめるオプションまで付いてきた。そんなフリードを好きにならないようにと必死で頑張るが、この私の抵抗はいつまで続くのだろう。
私は初日のフリードの言動を忘れない。フリードは私のことを好きでも何でもないのだ。だから、惚れたら負けなのは分かっている。
そして突然、私はフリードが私に興味のあるふりをし始めた理由に思い当たったのだ。
「……そうだ。私と婚約破棄すると、フリードの評判に関わるんだよね!? 」
思わずフリードに告げていた。
「婚約破棄すると、ヤヌース伯爵領との関係にヒビが入るから……」
きっとそうだ。お父様は、領地の経済的発展と安全のために、ハンスベルク辺境伯との縁談を受けた。だからハンスベルク辺境伯側にも、そういった理由があるのだろう。
私の問いに、
「はァ!? 」
フリードはまた顔を歪めて吐き出した。
「俺はお前の父親とかどうでもいい。
ただ、家族が皆死んだ今、血を途絶えさせてはいけないと思って縁談を申し込んだだけだ」
あぁ、だから性急に私を抱こうとしたんだ。だけどフリードは、もはや私を求めてくることもない。私が断ったからかもしれない。
「じゃあ、私と婚約破棄しない理由は、早く子供を作りたいから? 」
だから私に好かれようと、必死になっているのか。
フリードは首を縦に振らなかった。
「それだけではない。俺は、メリッサとは上手くやっていけると思う」
あぁ、好きじゃないんだと思った。こんな時に好きだなんて言葉を望んでしまう私は、フリードに惹かれかけているのだろうか。だが、そこは政略結婚だ。好きだなんて気持ちを求めてはいけないし、そもそも婚約破棄する身だ。
「私のことを散々悪く言っておいて、よく言うわよ」
私はフリードを睨む。
「私は絶対フリードなんて好きにならないから!」
そう、それは自分自身への戒めの言葉でもある。
フリードは無表情のまま、しばらく遠くを見つめていた。一体何を考えているのだろうかと不安になってしまう。その無言の時間があまりにも長いため、
「……あの……」
思わず話しかけてしまう私。こんな私をしっかりと見て、フリードはとうとう口を開いた。
「明日、ヤヌース伯爵領に行くことにする」
「は!? 」
もしかして、あの地に私を返しに行くのか。それはごめんだ。私は二度とヤヌース伯爵領に戻りたいとは思っていないのだから。
「あのね、フリード……」
私は顔を引き攣らせてフリードに告げる。
「私は婚約破棄後、故郷には帰りたくないの。
武闘家になって活躍するんだから」
フリードは相変わらずにこりともせずに私を見ていた。そして、ぶっきらぼうに告げる。
「悪いけど、その願いは叶えてやれない」
「じゃあ、やっぱり私をヤヌース伯爵領に置いてくるの!? 」
その声は叫び声に近かった。それだけでは避けたい、何としてもあの地に戻りたくない。それか、戻ったとしても……私は自由に目覚めてしまった。もう、おとなしくラファエラの言葉に従うことなんて出来ないだろう。
「所用があるだけだ。
メリッサは引き続き、この地にいることとなる」
その言葉にホッとしてしまった。ヤヌース伯爵領に帰るよりは、フリードのもとにいるほうがずっとマシなのだ。
「ねぇ、馬車で行くのは嫌よ」
フリードは表情一つ変えず、じっと私を見る。
「だって、吐きそうになるんだもん」
次に馬車に乗ったら、フリードに吐きかけてしまうかもしれない。それはそれで見ものだが。
「……分かった」
フリードは相変わらず無表情で告げる。
「それでは馬で行こう。そのほうが早く着くし好都合だ」
フリードはどうしてヤヌース伯爵領に行くのだろうか。私関係の用事に間違いないだろう。婚約破棄はしないと言いつつも、私に秘密で婚約破棄について話すのだろうか。婚約破棄をするのは大歓迎だが、ヤヌース伯爵領には死んでも戻りたくないと思ってしまった。
考え込む私と、相変わらず何を考えているのか読めないフリード。そんなフリードを、
「フリードヘルム様」
呼ぶ女性の声がした。思わず声のほうを見ると、両手を合わせて潤んだ瞳でフリードを見る聖女が立っている。
聖女を見て、胸がズキンと痛んだ。フリードなんて好きでも何でもないが、この美しい聖女とフリードは絵になる。誰が見ても、私よりも聖女のほうがフリードとはお似合いだと思うだろう。
「お話があるのですが」
聖女の声に、黙って彼女のほうに歩いていくフリード。そして、フリードは部屋から出て、ぱたんと扉が閉められた。まるで拒絶されたような絶望感を味わいながら、私はフリードの出ていった扉を見続けていた。
昨日は一晩中天体観測に付き合わされた。宝石みたいな星空を見上げながら、不覚にも感動してしまった。そして、フリードが寒いだろうと抱きしめるオプションまで付いてきた。そんなフリードを好きにならないようにと必死で頑張るが、この私の抵抗はいつまで続くのだろう。
私は初日のフリードの言動を忘れない。フリードは私のことを好きでも何でもないのだ。だから、惚れたら負けなのは分かっている。
そして突然、私はフリードが私に興味のあるふりをし始めた理由に思い当たったのだ。
「……そうだ。私と婚約破棄すると、フリードの評判に関わるんだよね!? 」
思わずフリードに告げていた。
「婚約破棄すると、ヤヌース伯爵領との関係にヒビが入るから……」
きっとそうだ。お父様は、領地の経済的発展と安全のために、ハンスベルク辺境伯との縁談を受けた。だからハンスベルク辺境伯側にも、そういった理由があるのだろう。
私の問いに、
「はァ!? 」
フリードはまた顔を歪めて吐き出した。
「俺はお前の父親とかどうでもいい。
ただ、家族が皆死んだ今、血を途絶えさせてはいけないと思って縁談を申し込んだだけだ」
あぁ、だから性急に私を抱こうとしたんだ。だけどフリードは、もはや私を求めてくることもない。私が断ったからかもしれない。
「じゃあ、私と婚約破棄しない理由は、早く子供を作りたいから? 」
だから私に好かれようと、必死になっているのか。
フリードは首を縦に振らなかった。
「それだけではない。俺は、メリッサとは上手くやっていけると思う」
あぁ、好きじゃないんだと思った。こんな時に好きだなんて言葉を望んでしまう私は、フリードに惹かれかけているのだろうか。だが、そこは政略結婚だ。好きだなんて気持ちを求めてはいけないし、そもそも婚約破棄する身だ。
「私のことを散々悪く言っておいて、よく言うわよ」
私はフリードを睨む。
「私は絶対フリードなんて好きにならないから!」
そう、それは自分自身への戒めの言葉でもある。
フリードは無表情のまま、しばらく遠くを見つめていた。一体何を考えているのだろうかと不安になってしまう。その無言の時間があまりにも長いため、
「……あの……」
思わず話しかけてしまう私。こんな私をしっかりと見て、フリードはとうとう口を開いた。
「明日、ヤヌース伯爵領に行くことにする」
「は!? 」
もしかして、あの地に私を返しに行くのか。それはごめんだ。私は二度とヤヌース伯爵領に戻りたいとは思っていないのだから。
「あのね、フリード……」
私は顔を引き攣らせてフリードに告げる。
「私は婚約破棄後、故郷には帰りたくないの。
武闘家になって活躍するんだから」
フリードは相変わらずにこりともせずに私を見ていた。そして、ぶっきらぼうに告げる。
「悪いけど、その願いは叶えてやれない」
「じゃあ、やっぱり私をヤヌース伯爵領に置いてくるの!? 」
その声は叫び声に近かった。それだけでは避けたい、何としてもあの地に戻りたくない。それか、戻ったとしても……私は自由に目覚めてしまった。もう、おとなしくラファエラの言葉に従うことなんて出来ないだろう。
「所用があるだけだ。
メリッサは引き続き、この地にいることとなる」
その言葉にホッとしてしまった。ヤヌース伯爵領に帰るよりは、フリードのもとにいるほうがずっとマシなのだ。
「ねぇ、馬車で行くのは嫌よ」
フリードは表情一つ変えず、じっと私を見る。
「だって、吐きそうになるんだもん」
次に馬車に乗ったら、フリードに吐きかけてしまうかもしれない。それはそれで見ものだが。
「……分かった」
フリードは相変わらず無表情で告げる。
「それでは馬で行こう。そのほうが早く着くし好都合だ」
フリードはどうしてヤヌース伯爵領に行くのだろうか。私関係の用事に間違いないだろう。婚約破棄はしないと言いつつも、私に秘密で婚約破棄について話すのだろうか。婚約破棄をするのは大歓迎だが、ヤヌース伯爵領には死んでも戻りたくないと思ってしまった。
考え込む私と、相変わらず何を考えているのか読めないフリード。そんなフリードを、
「フリードヘルム様」
呼ぶ女性の声がした。思わず声のほうを見ると、両手を合わせて潤んだ瞳でフリードを見る聖女が立っている。
聖女を見て、胸がズキンと痛んだ。フリードなんて好きでも何でもないが、この美しい聖女とフリードは絵になる。誰が見ても、私よりも聖女のほうがフリードとはお似合いだと思うだろう。
「お話があるのですが」
聖女の声に、黙って彼女のほうに歩いていくフリード。そして、フリードは部屋から出て、ぱたんと扉が閉められた。まるで拒絶されたような絶望感を味わいながら、私はフリードの出ていった扉を見続けていた。
492
あなたにおすすめの小説
『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』
由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。
婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。
ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。
「君を嫌ったことなど、一度もない」
それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。
勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます
さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。
望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。
「契約でいい。君を妻として迎える」
そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。
けれど、彼は噂とはまるで違っていた。
政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。
「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」
契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。
陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。
これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。
指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。
【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します
佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚
不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。
私はきっとまた、二十歳を越えられないーー
一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。
二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。
三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――?
*ムーンライトノベルズにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる