つまらない女と言われたため、婚約者をぶん殴りました〜婚約破棄して武闘家になろうと思います〜

湊一桜

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彼と私の必死な攻防戦

第15話

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 私がこの地に来てから、気付いたら一ヶ月ほど経っていた。相変わらずフリードが婚約破棄をしてくれる気配はない。まだ頭のダメージは治っていないのだろうか。そして、相変わらず無表情のフリードだが、私に構おうとする機会が日に日に増えているのだ。

 昨日は一晩中天体観測に付き合わされた。宝石みたいな星空を見上げながら、不覚にも感動してしまった。そして、フリードが寒いだろうと抱きしめるオプションまで付いてきた。そんなフリードを好きにならないようにと必死で頑張るが、この私の抵抗はいつまで続くのだろう。
 私は初日のフリードの言動を忘れない。フリードは私のことを好きでも何でもないのだ。だから、惚れたら負けなのは分かっている。

 そして突然、私はフリードが私に興味のあるふりをし始めた理由に思い当たったのだ。

「……そうだ。私と婚約破棄すると、フリードの評判に関わるんだよね!? 」

 思わずフリードに告げていた。

「婚約破棄すると、ヤヌース伯爵領との関係にヒビが入るから……」

 きっとそうだ。お父様は、領地の経済的発展と安全のために、ハンスベルク辺境伯との縁談を受けた。だからハンスベルク辺境伯側にも、そういった理由があるのだろう。

 私の問いに、

「はァ!? 」

フリードはまた顔を歪めて吐き出した。

「俺はお前の父親とかどうでもいい。
 ただ、家族が皆死んだ今、血を途絶えさせてはいけないと思って縁談を申し込んだだけだ」

 あぁ、だから性急に私を抱こうとしたんだ。だけどフリードは、もはや私を求めてくることもない。私が断ったからかもしれない。

「じゃあ、私と婚約破棄しない理由は、早く子供を作りたいから? 」

 だから私に好かれようと、必死になっているのか。

 フリードは首を縦に振らなかった。

「それだけではない。俺は、メリッサとは上手くやっていけると思う」

 あぁ、好きじゃないんだと思った。こんな時に好きだなんて言葉を望んでしまう私は、フリードに惹かれかけているのだろうか。だが、そこは政略結婚だ。好きだなんて気持ちを求めてはいけないし、そもそも婚約破棄する身だ。

「私のことを散々悪く言っておいて、よく言うわよ」

 私はフリードを睨む。

「私は絶対フリードなんて好きにならないから!」

 そう、それは自分自身への戒めの言葉でもある。
 フリードは無表情のまま、しばらく遠くを見つめていた。一体何を考えているのだろうかと不安になってしまう。その無言の時間があまりにも長いため、

「……あの……」

思わず話しかけてしまう私。こんな私をしっかりと見て、フリードはとうとう口を開いた。

「明日、ヤヌース伯爵領に行くことにする」

「は!? 」

 もしかして、あの地に私を返しに行くのか。それはごめんだ。私は二度とヤヌース伯爵領に戻りたいとは思っていないのだから。

「あのね、フリード……」

 私は顔を引き攣らせてフリードに告げる。

「私は婚約破棄後、故郷には帰りたくないの。
 武闘家になって活躍するんだから」

 フリードは相変わらずにこりともせずに私を見ていた。そして、ぶっきらぼうに告げる。

「悪いけど、その願いは叶えてやれない」

「じゃあ、やっぱり私をヤヌース伯爵領に置いてくるの!? 」

 その声は叫び声に近かった。それだけでは避けたい、何としてもあの地に戻りたくない。それか、戻ったとしても……私は自由に目覚めてしまった。もう、おとなしくラファエラの言葉に従うことなんて出来ないだろう。

「所用があるだけだ。
 メリッサは引き続き、この地にいることとなる」

 その言葉にホッとしてしまった。ヤヌース伯爵領に帰るよりは、フリードのもとにいるほうがずっとマシなのだ。

「ねぇ、馬車で行くのは嫌よ」

 フリードは表情一つ変えず、じっと私を見る。

「だって、吐きそうになるんだもん」

 次に馬車に乗ったら、フリードに吐きかけてしまうかもしれない。それはそれで見ものだが。

「……分かった」
 
 フリードは相変わらず無表情で告げる。

「それでは馬で行こう。そのほうが早く着くし好都合だ」

 フリードはどうしてヤヌース伯爵領に行くのだろうか。私関係の用事に間違いないだろう。婚約破棄はしないと言いつつも、私に秘密で婚約破棄について話すのだろうか。婚約破棄をするのは大歓迎だが、ヤヌース伯爵領には死んでも戻りたくないと思ってしまった。



 考え込む私と、相変わらず何を考えているのか読めないフリード。そんなフリードを、

「フリードヘルム様」

呼ぶ女性の声がした。思わず声のほうを見ると、両手を合わせて潤んだ瞳でフリードを見る聖女が立っている。

 聖女を見て、胸がズキンと痛んだ。フリードなんて好きでも何でもないが、この美しい聖女とフリードは絵になる。誰が見ても、私よりも聖女のほうがフリードとはお似合いだと思うだろう。

「お話があるのですが」

 聖女の声に、黙って彼女のほうに歩いていくフリード。そして、フリードは部屋から出て、ぱたんと扉が閉められた。まるで拒絶されたような絶望感を味わいながら、私はフリードの出ていった扉を見続けていた。


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