つまらない女と言われたため、婚約者をぶん殴りました〜婚約破棄して武闘家になろうと思います〜

湊一桜

文字の大きさ
25 / 47
いつになったら正気に戻るの!?

第25話

しおりを挟む
 私は、果てしなく続くフリードとジルの猛烈な雪合戦を見ていた。二人とも負けを認めたくないらしい。へとへとになっても雪玉を投げ続ける。

「大人げないなぁ」

 私は呟いて立ち上がろうとした時だった。

「あんた、あれに入らないの? 」

 聞き慣れない低めの女性の声がした。そして振り返ると、そこにはその声の主とはほど遠い女性が立っていた。

 ふりふりの白いドレスに、ふわふわの毛皮のコート。ブロンドの長い髪を風に靡かせ、その綺麗な顔に冷めた表情を浮かべるのは……

「聖女!? 」

思わず叫んで、私は後退りしていた。

 私の目の前の聖女は、一度私が見た彼女とは全然違っていた。かつて彼女を見た時は、彼女は儚げで倒れてしまいそうに弱々しくて、潤んだ瞳でフリードを見上げていた。だが、今目の前にいるのは、いかにもダルそうで気の強そうな聖女だ。

「私、一応ハイデマリーっていう名前があるんだけど」

 思いっきり不機嫌な表情で私を見る。は、ハイデマリーか……何ともお上品で聖女にぴったりの名前だろう。だが、目の前にいるハイデマリーは、前に見た彼女と別人だ。
 そして、不意にハイデマリーとラファエラを重ねてしまった。ラファエラも、人々の前ではにこにこしていてお上品だ。だが、本性は別人だ。
 ハイデマリー、要注意人物だ。

「ご、ごきげんよう」

 私は令嬢口調で最大限警戒する。言いかえれば、あんたに関わりたくない、だ。

 こんな私を一瞥し、ハイデマリーは私の隣に腰を下ろした。

「あんた、本ッ当に羨ましいわ」

「……え!? 」

 予想外の言葉に、ハイデマリーをガン見する。見かけはやはり美しい聖女だ。だが、今のハイデマリーからは、あの時の気品なんて感じられない。

「あんたさぁ、館でも好き勝手やってるらしいじゃん? 
 それなのにフリード様にも気に入られて、正直イラつくんだけど」

 ほら、やっぱりきた。敵対心剥き出しだ。
 だが、ラファエラと違って、真正面からぶつかってくれるだけマシなのかもしれない。少なくともハイデマリーは、今のところ陰湿ではない。

「フリード様がわたくしをどう思っておられるのかは、よく分かりません」

 私は作り笑いを浮かべ、さっさとこの場を去ろうとした。これ以上ハイデマリーを刺激したくなかったのだ。
 だが、ハイデマリーはぼそっと告げる。

「私だってフリード様が好きなのに、フリード様は私には見向きもしない」

「で……でも……フリードは、貴女に大人しく治療されていて……」

 そう。それで私はやきもちを妬いたのだ。今となっては、あの時は不安だったのだと分かる。積極的なハイデマリーを相手に、フリードにはもう少し抵抗して欲しかった。

「そりゃあ、治療されるわよ。怪我してるんだもの。
 でも、私が治療しても、フリード様は表情一つ動かさない。私と視線だって合わせない。
 どれだけ気に入られようとしても無駄。フリード様は私が嫌いなのよ」

 ぽかーんとする私に、ハイデマリーはさらに告げる。

「それに、あの騎士団長や騎士たちも。みんな私には冷たいのに、あんたとは仲良さそうに笑ってる」

「……えっ!? 」

 ジルも? それは意外すぎる。フリードはともかく、ジルは誰にでも優しくて紳士なのだと思っていた。

「私はザ・聖女を演じてるのに、野蛮人だって言われてるあんたが、なんでいい思いするのよ!? 」

 それではっとした。ジルや騎士たちに対してはよく分からないが、フリードに対してはそれが鬼門なのだ。……ザ・聖女を演じることが。

 私は昨夜、フリードからようやく話を聞いた。私を『つまらない女』だと言い張った真意を。フリードは、媚を売る女が嫌いなのだ。

 これをハイデマリーに教えるべきだろうか。だが、ハイデマリーが媚を売るのを止めたら……フリードは、ハイデマリーを好きになるかもしれない。それだけは止めて欲しい。
 ハイデマリーを同じ土俵に立たせないためにも、黙っておくほうが得策だろう。

 だけど……

 ハイデマリーがそれで悩んでいるのだから、教えないのは良心が痛む。いや、そもそも私は婚約破棄される身なのだ。

「あのね……」

 私は、ハイデマリーに告げていた。

「フリードは、自分に擦り寄ってくる女性が嫌いなの。だから、貴女が貴女らしく振る舞うと、きっと対応も変わると思うわ」

 ハイデマリーは驚いたように私を見る。この馬鹿は、なに自分が不利になる情報を流しているのだと思って。

 ハイデマリーはしばらくぽかーんとして、そして笑った。

「ありがとう」

「……え? 」

 そんな、礼を言われるようなことはしていない。それなのに、彼女は嬉しそうに私を見て言うのだ。

「あんた、やっぱりいい女だわ。私が敵うはずがないわ。
 ……幸せになってね」

 私は愚かだ。ハイデマリーは、ラファエラとは全然違う。それなのに、ハイデマリーを嫌な女だと思って、勝手に嫌いになっていた。
 ハイデマリーはフリードが好きなのに、私に幸せになってね、なんて言ってくれる。私はそんなこと、言えない。ハイデマリーのほうが、ずっとずっといい女だ。

 私は去っていくハイデマリーの後ろ姿をずっと見ていた。心の中で、ずっとごめんなさいと謝りながら。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』

由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。 婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。 ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。 「君を嫌ったことなど、一度もない」 それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。 勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

処理中です...