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いつになったら正気に戻るの!?
第25話
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私は、果てしなく続くフリードとジルの猛烈な雪合戦を見ていた。二人とも負けを認めたくないらしい。へとへとになっても雪玉を投げ続ける。
「大人げないなぁ」
私は呟いて立ち上がろうとした時だった。
「あんた、あれに入らないの? 」
聞き慣れない低めの女性の声がした。そして振り返ると、そこにはその声の主とはほど遠い女性が立っていた。
ふりふりの白いドレスに、ふわふわの毛皮のコート。ブロンドの長い髪を風に靡かせ、その綺麗な顔に冷めた表情を浮かべるのは……
「聖女!? 」
思わず叫んで、私は後退りしていた。
私の目の前の聖女は、一度私が見た彼女とは全然違っていた。かつて彼女を見た時は、彼女は儚げで倒れてしまいそうに弱々しくて、潤んだ瞳でフリードを見上げていた。だが、今目の前にいるのは、いかにもダルそうで気の強そうな聖女だ。
「私、一応ハイデマリーっていう名前があるんだけど」
思いっきり不機嫌な表情で私を見る。は、ハイデマリーか……何ともお上品で聖女にぴったりの名前だろう。だが、目の前にいるハイデマリーは、前に見た彼女と別人だ。
そして、不意にハイデマリーとラファエラを重ねてしまった。ラファエラも、人々の前ではにこにこしていてお上品だ。だが、本性は別人だ。
ハイデマリー、要注意人物だ。
「ご、ごきげんよう」
私は令嬢口調で最大限警戒する。言いかえれば、あんたに関わりたくない、だ。
こんな私を一瞥し、ハイデマリーは私の隣に腰を下ろした。
「あんた、本ッ当に羨ましいわ」
「……え!? 」
予想外の言葉に、ハイデマリーをガン見する。見かけはやはり美しい聖女だ。だが、今のハイデマリーからは、あの時の気品なんて感じられない。
「あんたさぁ、館でも好き勝手やってるらしいじゃん?
それなのにフリード様にも気に入られて、正直イラつくんだけど」
ほら、やっぱりきた。敵対心剥き出しだ。
だが、ラファエラと違って、真正面からぶつかってくれるだけマシなのかもしれない。少なくともハイデマリーは、今のところ陰湿ではない。
「フリード様がわたくしをどう思っておられるのかは、よく分かりません」
私は作り笑いを浮かべ、さっさとこの場を去ろうとした。これ以上ハイデマリーを刺激したくなかったのだ。
だが、ハイデマリーはぼそっと告げる。
「私だってフリード様が好きなのに、フリード様は私には見向きもしない」
「で……でも……フリードは、貴女に大人しく治療されていて……」
そう。それで私はやきもちを妬いたのだ。今となっては、あの時は不安だったのだと分かる。積極的なハイデマリーを相手に、フリードにはもう少し抵抗して欲しかった。
「そりゃあ、治療されるわよ。怪我してるんだもの。
でも、私が治療しても、フリード様は表情一つ動かさない。私と視線だって合わせない。
どれだけ気に入られようとしても無駄。フリード様は私が嫌いなのよ」
ぽかーんとする私に、ハイデマリーはさらに告げる。
「それに、あの騎士団長や騎士たちも。みんな私には冷たいのに、あんたとは仲良さそうに笑ってる」
「……えっ!? 」
ジルも? それは意外すぎる。フリードはともかく、ジルは誰にでも優しくて紳士なのだと思っていた。
「私はザ・聖女を演じてるのに、野蛮人だって言われてるあんたが、なんでいい思いするのよ!? 」
それではっとした。ジルや騎士たちに対してはよく分からないが、フリードに対してはそれが鬼門なのだ。……ザ・聖女を演じることが。
私は昨夜、フリードからようやく話を聞いた。私を『つまらない女』だと言い張った真意を。フリードは、媚を売る女が嫌いなのだ。
これをハイデマリーに教えるべきだろうか。だが、ハイデマリーが媚を売るのを止めたら……フリードは、ハイデマリーを好きになるかもしれない。それだけは止めて欲しい。
ハイデマリーを同じ土俵に立たせないためにも、黙っておくほうが得策だろう。
だけど……
ハイデマリーがそれで悩んでいるのだから、教えないのは良心が痛む。いや、そもそも私は婚約破棄される身なのだ。
「あのね……」
私は、ハイデマリーに告げていた。
「フリードは、自分に擦り寄ってくる女性が嫌いなの。だから、貴女が貴女らしく振る舞うと、きっと対応も変わると思うわ」
ハイデマリーは驚いたように私を見る。この馬鹿は、なに自分が不利になる情報を流しているのだと思って。
ハイデマリーはしばらくぽかーんとして、そして笑った。
「ありがとう」
「……え? 」
そんな、礼を言われるようなことはしていない。それなのに、彼女は嬉しそうに私を見て言うのだ。
「あんた、やっぱりいい女だわ。私が敵うはずがないわ。
……幸せになってね」
私は愚かだ。ハイデマリーは、ラファエラとは全然違う。それなのに、ハイデマリーを嫌な女だと思って、勝手に嫌いになっていた。
ハイデマリーはフリードが好きなのに、私に幸せになってね、なんて言ってくれる。私はそんなこと、言えない。ハイデマリーのほうが、ずっとずっといい女だ。
私は去っていくハイデマリーの後ろ姿をずっと見ていた。心の中で、ずっとごめんなさいと謝りながら。
「大人げないなぁ」
私は呟いて立ち上がろうとした時だった。
「あんた、あれに入らないの? 」
聞き慣れない低めの女性の声がした。そして振り返ると、そこにはその声の主とはほど遠い女性が立っていた。
ふりふりの白いドレスに、ふわふわの毛皮のコート。ブロンドの長い髪を風に靡かせ、その綺麗な顔に冷めた表情を浮かべるのは……
「聖女!? 」
思わず叫んで、私は後退りしていた。
私の目の前の聖女は、一度私が見た彼女とは全然違っていた。かつて彼女を見た時は、彼女は儚げで倒れてしまいそうに弱々しくて、潤んだ瞳でフリードを見上げていた。だが、今目の前にいるのは、いかにもダルそうで気の強そうな聖女だ。
「私、一応ハイデマリーっていう名前があるんだけど」
思いっきり不機嫌な表情で私を見る。は、ハイデマリーか……何ともお上品で聖女にぴったりの名前だろう。だが、目の前にいるハイデマリーは、前に見た彼女と別人だ。
そして、不意にハイデマリーとラファエラを重ねてしまった。ラファエラも、人々の前ではにこにこしていてお上品だ。だが、本性は別人だ。
ハイデマリー、要注意人物だ。
「ご、ごきげんよう」
私は令嬢口調で最大限警戒する。言いかえれば、あんたに関わりたくない、だ。
こんな私を一瞥し、ハイデマリーは私の隣に腰を下ろした。
「あんた、本ッ当に羨ましいわ」
「……え!? 」
予想外の言葉に、ハイデマリーをガン見する。見かけはやはり美しい聖女だ。だが、今のハイデマリーからは、あの時の気品なんて感じられない。
「あんたさぁ、館でも好き勝手やってるらしいじゃん?
それなのにフリード様にも気に入られて、正直イラつくんだけど」
ほら、やっぱりきた。敵対心剥き出しだ。
だが、ラファエラと違って、真正面からぶつかってくれるだけマシなのかもしれない。少なくともハイデマリーは、今のところ陰湿ではない。
「フリード様がわたくしをどう思っておられるのかは、よく分かりません」
私は作り笑いを浮かべ、さっさとこの場を去ろうとした。これ以上ハイデマリーを刺激したくなかったのだ。
だが、ハイデマリーはぼそっと告げる。
「私だってフリード様が好きなのに、フリード様は私には見向きもしない」
「で……でも……フリードは、貴女に大人しく治療されていて……」
そう。それで私はやきもちを妬いたのだ。今となっては、あの時は不安だったのだと分かる。積極的なハイデマリーを相手に、フリードにはもう少し抵抗して欲しかった。
「そりゃあ、治療されるわよ。怪我してるんだもの。
でも、私が治療しても、フリード様は表情一つ動かさない。私と視線だって合わせない。
どれだけ気に入られようとしても無駄。フリード様は私が嫌いなのよ」
ぽかーんとする私に、ハイデマリーはさらに告げる。
「それに、あの騎士団長や騎士たちも。みんな私には冷たいのに、あんたとは仲良さそうに笑ってる」
「……えっ!? 」
ジルも? それは意外すぎる。フリードはともかく、ジルは誰にでも優しくて紳士なのだと思っていた。
「私はザ・聖女を演じてるのに、野蛮人だって言われてるあんたが、なんでいい思いするのよ!? 」
それではっとした。ジルや騎士たちに対してはよく分からないが、フリードに対してはそれが鬼門なのだ。……ザ・聖女を演じることが。
私は昨夜、フリードからようやく話を聞いた。私を『つまらない女』だと言い張った真意を。フリードは、媚を売る女が嫌いなのだ。
これをハイデマリーに教えるべきだろうか。だが、ハイデマリーが媚を売るのを止めたら……フリードは、ハイデマリーを好きになるかもしれない。それだけは止めて欲しい。
ハイデマリーを同じ土俵に立たせないためにも、黙っておくほうが得策だろう。
だけど……
ハイデマリーがそれで悩んでいるのだから、教えないのは良心が痛む。いや、そもそも私は婚約破棄される身なのだ。
「あのね……」
私は、ハイデマリーに告げていた。
「フリードは、自分に擦り寄ってくる女性が嫌いなの。だから、貴女が貴女らしく振る舞うと、きっと対応も変わると思うわ」
ハイデマリーは驚いたように私を見る。この馬鹿は、なに自分が不利になる情報を流しているのだと思って。
ハイデマリーはしばらくぽかーんとして、そして笑った。
「ありがとう」
「……え? 」
そんな、礼を言われるようなことはしていない。それなのに、彼女は嬉しそうに私を見て言うのだ。
「あんた、やっぱりいい女だわ。私が敵うはずがないわ。
……幸せになってね」
私は愚かだ。ハイデマリーは、ラファエラとは全然違う。それなのに、ハイデマリーを嫌な女だと思って、勝手に嫌いになっていた。
ハイデマリーはフリードが好きなのに、私に幸せになってね、なんて言ってくれる。私はそんなこと、言えない。ハイデマリーのほうが、ずっとずっといい女だ。
私は去っていくハイデマリーの後ろ姿をずっと見ていた。心の中で、ずっとごめんなさいと謝りながら。
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*ムーンライトノベルズにも掲載
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