27 / 47
武術大会と、追放された友
第27話
しおりを挟む
それから私は、ハイデマリーと館の近くでよく出くわすようになった。そして、ハイデマリーと話をするようになった。
ある日、いつものように話をしていると、ハイデマリーが意味不明なことを言い始めた。どうやらもうすぐ、この街で武術大会が行われるらしいのだ。
「……武術大会!? 」
私は思わずハイデマリーに聞く。そんな私を、ハイデマリーはぽかーんとした顔で見る。
「あんた、知らないの?
この国一番の行事なのに、誰もあんたにそのことを言わないの? 」
「うん、聞いてないけど……」
どうしてそんな大切なことを私に言わないのか、思い当たる節がある。もちろん、私が武術大会に出たいと言い出すことを防ぐためだ。だが、知ってしまったからには動かないわけにはいかない。
「ね、ハイデマリー!それってまだ募集かかってるの? 」
そう聞くと、
「確か、明後日締め切りだったわよ」
ハイデマリーは思い出すように上を見ながら告げる。そしてハイデマリーははっと気付いたように私を見る。
「まさか、あんた出ようと思ってないわよね? 」
「いや、出ようかと……」
むしろ、出る気満々だ。
ヤヌース伯爵領に行って、私はすっかり元気を無くしてしまっていた。最近はおとなしくしている日が多く、普通の令嬢と変わらなかったかもしれない。こんな私を見て、フリードに幻滅されたくないから……いや、違う。私は婚約破棄して、武闘家になるのだった。でも、前ほど婚約破棄に前向きではない……
色々と考えを巡らせている私に、
「あんた、正気? 」
困ったようにハイデマリーが言う。
「武術大会は勝ち上がり式よ。
最初こそは性別や強さを考慮してくれるけど、結局は勝ち上がった男と戦わないといけなくなるわ」
「望むところよ」
そして、普通の男よりは強い自信がある。
「去年はうちの騎士団長が優勝したわ。五年前は、フリード様が優勝したわ。
そんな人たちと戦わなきゃならないのよ!? 」
「えっ!? フリードもジルも優勝しているの!? 」
その事実が、さらに私の闘争心をめらめらと燃え立たせる。
ずるい!
二人とも、優勝しているなんてずるすぎる!!
そして、そんなにいい大会があることを黙っているなんて!
「フリードには事後報告でいいよね?
勝手にエントリーしちゃおう!」
私が笑顔でそう告げた時だった。
「何が事後報告だ」
怒りに満ちた低い声が聞こえ、飛び上がった。ジャンプ靴を履いていないのに、一メートルくらい飛び上がったかもしれない。
まずい……一番聞かれちゃいけない人に聞かれたようだ。
私は笑顔を作って振り返り、告げた。
「ごきげんよう、フリード」
平静を装うが、口元の辺りがピクついていた。
振り返った先にいるフリードは、予想通り無表情だった。だが、その無表情の中にもイラつきを感じる。フリードはにこりともせす、低い声で告げる。
「お前がごきげんようなんて言う時は、何かよからぬことを考えているのだろう」
その、刺すような視線が痛い。
「まさか、武術大会に出ようと思っていないよな?
……勝手にエントリーするとか、ないよな? 」
うわー……バレてる。
フリードはどこから聞いていたのだろう。それにしても、盗み聞きするなんて酷い。
でも、フリードがその武術大会で優勝したという事実が、私の嫉妬心を突き動かす。自分は武術大会に出ておいて、私には出るなと言うなんて、理不尽だ。
「ずるい」
私はフリードに言っていた。
「私が女性だからって、何もしちゃいけないとか、ずるい」
フリードはイラついた瞳で私を睨む。そんなフリードに、私は深く考えずに言ってしまった。
「武術大会に出してくれるなら、婚約破棄はしないから」
そんな私を、フリードはじっと見つめる。フリードはまさか、この出まかせでぐらついているのだろうか。私はもう、婚約破棄に対しては随分消極的になっているのだが。
「死ぬかもしれないんだぞ」
フリードは私を睨む。
「お前が死んだら、俺はどんな気持ちになるのか分かるか!? 」
いつもは無表情のフリードの顔が歪んでいた。頬を染め、口元を曲げ、怒りとも悲しみともいえる感情が溢れ出している。正直戸惑った。フリードが、こんなにも感情を表に出すとは思わなかった。しかも、ハイデマリーのいる前で。
そして、冷静になって考える。
私は前世、ほぼ死ぬことがない大会で、当たりどころが悪く命を落とした。武術大会はもっと危険なのだろう。私は、残してきた人のことを考えたことはなかった。前世は恋人すらいなかったが、両親や友人をたくさん悲しませたのだ。
死んで、フリードを悲しませることだけは避けたい。それならやっぱり、出るのはやめようかな……
「仕方ないから私が、あんたの救護係してあげるよ」
ハイデマリーがため息混じりに告げる。
「あんたが死なない保証はないけど、一応私はこの地で一番能力が高いから」
「本当か、聖女!? 」
フリードが、すがるようにハイデマリーを見る。そんなフリードをちらっと見て頬を染めながら、ハイデマリーは言う。
「もちろん。メリッサが死んだら、フリード様が悲しみますから」
「だが、聖女。お前は今まで一度も、武術大会の救護係を引き受けなかったではないか。
あんな野蛮な戦い、怖くて見られないと言って」
「それは当然です。だって私、興味ないんだもん。
でも、メリッサが出るなら、友達として救護係を引き受けますよ」
ツンとして告げるハイデマリーを見て、私は思わず笑ってしまった。
ハイデマリーは、私のことを友達だなんて言ってくれた。この地で初めての女友達だ。
にやにや笑う私を見て、
「げっ、キモ」
ハイデマリーは嫌そうに顔を歪める。そんなハイデマリーを見て、私はさらに笑ってしまうのだった。
ある日、いつものように話をしていると、ハイデマリーが意味不明なことを言い始めた。どうやらもうすぐ、この街で武術大会が行われるらしいのだ。
「……武術大会!? 」
私は思わずハイデマリーに聞く。そんな私を、ハイデマリーはぽかーんとした顔で見る。
「あんた、知らないの?
この国一番の行事なのに、誰もあんたにそのことを言わないの? 」
「うん、聞いてないけど……」
どうしてそんな大切なことを私に言わないのか、思い当たる節がある。もちろん、私が武術大会に出たいと言い出すことを防ぐためだ。だが、知ってしまったからには動かないわけにはいかない。
「ね、ハイデマリー!それってまだ募集かかってるの? 」
そう聞くと、
「確か、明後日締め切りだったわよ」
ハイデマリーは思い出すように上を見ながら告げる。そしてハイデマリーははっと気付いたように私を見る。
「まさか、あんた出ようと思ってないわよね? 」
「いや、出ようかと……」
むしろ、出る気満々だ。
ヤヌース伯爵領に行って、私はすっかり元気を無くしてしまっていた。最近はおとなしくしている日が多く、普通の令嬢と変わらなかったかもしれない。こんな私を見て、フリードに幻滅されたくないから……いや、違う。私は婚約破棄して、武闘家になるのだった。でも、前ほど婚約破棄に前向きではない……
色々と考えを巡らせている私に、
「あんた、正気? 」
困ったようにハイデマリーが言う。
「武術大会は勝ち上がり式よ。
最初こそは性別や強さを考慮してくれるけど、結局は勝ち上がった男と戦わないといけなくなるわ」
「望むところよ」
そして、普通の男よりは強い自信がある。
「去年はうちの騎士団長が優勝したわ。五年前は、フリード様が優勝したわ。
そんな人たちと戦わなきゃならないのよ!? 」
「えっ!? フリードもジルも優勝しているの!? 」
その事実が、さらに私の闘争心をめらめらと燃え立たせる。
ずるい!
二人とも、優勝しているなんてずるすぎる!!
そして、そんなにいい大会があることを黙っているなんて!
「フリードには事後報告でいいよね?
勝手にエントリーしちゃおう!」
私が笑顔でそう告げた時だった。
「何が事後報告だ」
怒りに満ちた低い声が聞こえ、飛び上がった。ジャンプ靴を履いていないのに、一メートルくらい飛び上がったかもしれない。
まずい……一番聞かれちゃいけない人に聞かれたようだ。
私は笑顔を作って振り返り、告げた。
「ごきげんよう、フリード」
平静を装うが、口元の辺りがピクついていた。
振り返った先にいるフリードは、予想通り無表情だった。だが、その無表情の中にもイラつきを感じる。フリードはにこりともせす、低い声で告げる。
「お前がごきげんようなんて言う時は、何かよからぬことを考えているのだろう」
その、刺すような視線が痛い。
「まさか、武術大会に出ようと思っていないよな?
……勝手にエントリーするとか、ないよな? 」
うわー……バレてる。
フリードはどこから聞いていたのだろう。それにしても、盗み聞きするなんて酷い。
でも、フリードがその武術大会で優勝したという事実が、私の嫉妬心を突き動かす。自分は武術大会に出ておいて、私には出るなと言うなんて、理不尽だ。
「ずるい」
私はフリードに言っていた。
「私が女性だからって、何もしちゃいけないとか、ずるい」
フリードはイラついた瞳で私を睨む。そんなフリードに、私は深く考えずに言ってしまった。
「武術大会に出してくれるなら、婚約破棄はしないから」
そんな私を、フリードはじっと見つめる。フリードはまさか、この出まかせでぐらついているのだろうか。私はもう、婚約破棄に対しては随分消極的になっているのだが。
「死ぬかもしれないんだぞ」
フリードは私を睨む。
「お前が死んだら、俺はどんな気持ちになるのか分かるか!? 」
いつもは無表情のフリードの顔が歪んでいた。頬を染め、口元を曲げ、怒りとも悲しみともいえる感情が溢れ出している。正直戸惑った。フリードが、こんなにも感情を表に出すとは思わなかった。しかも、ハイデマリーのいる前で。
そして、冷静になって考える。
私は前世、ほぼ死ぬことがない大会で、当たりどころが悪く命を落とした。武術大会はもっと危険なのだろう。私は、残してきた人のことを考えたことはなかった。前世は恋人すらいなかったが、両親や友人をたくさん悲しませたのだ。
死んで、フリードを悲しませることだけは避けたい。それならやっぱり、出るのはやめようかな……
「仕方ないから私が、あんたの救護係してあげるよ」
ハイデマリーがため息混じりに告げる。
「あんたが死なない保証はないけど、一応私はこの地で一番能力が高いから」
「本当か、聖女!? 」
フリードが、すがるようにハイデマリーを見る。そんなフリードをちらっと見て頬を染めながら、ハイデマリーは言う。
「もちろん。メリッサが死んだら、フリード様が悲しみますから」
「だが、聖女。お前は今まで一度も、武術大会の救護係を引き受けなかったではないか。
あんな野蛮な戦い、怖くて見られないと言って」
「それは当然です。だって私、興味ないんだもん。
でも、メリッサが出るなら、友達として救護係を引き受けますよ」
ツンとして告げるハイデマリーを見て、私は思わず笑ってしまった。
ハイデマリーは、私のことを友達だなんて言ってくれた。この地で初めての女友達だ。
にやにや笑う私を見て、
「げっ、キモ」
ハイデマリーは嫌そうに顔を歪める。そんなハイデマリーを見て、私はさらに笑ってしまうのだった。
516
あなたにおすすめの小説
『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』
由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。
婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。
ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。
「君を嫌ったことなど、一度もない」
それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。
勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます
さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。
望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。
「契約でいい。君を妻として迎える」
そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。
けれど、彼は噂とはまるで違っていた。
政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。
「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」
契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。
陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。
これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。
指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します
佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚
不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。
私はきっとまた、二十歳を越えられないーー
一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。
二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。
三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――?
*ムーンライトノベルズにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる