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幸せを掴み取った瞬間
第43話
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私は予想以上に強いらしい。柔道と空手の技術が、この世界でも通用するのだ。
「あんた、なんでそんなに強いの!? 」
決勝戦を控える私に、ハイデマリーが驚いた顔で告げる。
「あんたみたいなか細い子が、大男を軽々投げ飛ばすなんて……」
「力の入れかたがあるのよ」
私は笑顔でハイデマリーに答える。
前世で必死に頑張っていたことは、この世界で大きく役立った。この世界では空手や柔道なんて存在しない。そのため、私がどのような動きをするのか、相手は予想すら出来ないようだ。そのため急所を狙いやすく、脇に入り込みやすかったりもした。前世では叶えられなかった優勝が、この世界では少しずつ近付いてくる。
だが、そんな私でも、アダムを見て恐怖を覚えた。アダムのドーピングは、前世でのドーピングを遥かに超えているようだ。もはやアダムは人間ではなく、何か別の生き物のようになっている。試合前に会った時からさらに、ドーピングを重ねられているのだろう。アダムの肌の色は緑がかった黒色となり、ロボットか何かと思うような体つきになっている。腕や足の筋肉は太く、まるで丸太のようだ。実際、そのパンチやキックは破壊力抜群で、地面や塀を壊すほど。あの攻撃をまともに浴びたら、私はまた死んでしまうかもしれない。前世のように。
だが、今世にはフリードがいる。フリードはきっと、私が死ぬと酷く悲しむだろう。前世では愛されることを知らなかった私だが、今世には愛し愛される人がいる。フリードを残して逝けないと、強く思った。
それでも、ハンスベルク辺境伯領を危険な目に遭わせるわけにはいかない。私の頑張り次第で運命も変わるのだ、ここは全力でやらないといけない。
決勝戦に向けてウォーミングアップをしている私に、
「お姉様って強かったのね」
聞きたくもない声が話しかけた。無視無視と、心の中で必死に言う。そして、彼女の言葉を聞かないようにしてアップを続ける私に、彼女は勝ち誇ったように告げる。
「でも、アダムには勝てないから。お姉様も悪魔辺境伯も、私を馬鹿にする人にはみんな消えてもらうわよ」
……馬鹿にする? 私は、ラファエラを馬鹿にしたことなんてない。むしろ人を馬鹿にしているのはラファエラのほうだ。私は強いから、ずっと我慢して黙っていた。私が何も言わないからと、ラファエラと家族は私を虐げて生きていた。あの時はそれが当然だと思っていたが、フリードと暮らすようになってよく分かった。あの家は異常だったのだと。
だが、ラファエラと話すのも時間の無駄だ。そして、また泣かれたりしてトラブルになっても困る。今の私が出来る唯一の仕返しは、アダムに勝つということだ。アダムに勝って、ラファエラの計画を全部白紙にしてやる。
「お姉様、話せないの? それとも、アダムにビビって声も出ないの? 」
なおもラファエラは挑発をする。その誘いに乗ってはいけないことくらい、分かっているのに……
「あんた、いい加減にしなよ」
私の代わりに声を上げたのは、なんと救護係のハイデマリーだった。ハイデマリーは腕を組んでラファエラを睨んでいる。
「そんなにメリッサが怖いの? 」
「怖いはずがないわ。お姉様のくせに、目立って目障りなのよ!」
ラファエラの声は、叫び声に近かった。
「お姉様のくせに、悪魔辺境伯と仲良くやっている。
お姉様のくせに、武術大会なんかに出ている。
お姉様のくせに、見に来た人から注目されて応援されている」
ラファエラは愚かだ。私がフリードと仲良くやっていることや、目立つことが気に食わないのだ。彼女はいつも自分が一番でないと気が済まず、新しい人生を歩んでいる私が許せないのだ。
なんて愚かな人なのだろう。そして、今も今後も関わりたくもない。
「ハイデマリー、気にしないで」
私は笑顔でハイデマリーを止める。ハイデマリーは不貞腐れたような顔で私を見る。
「私、頑張るから」
頑張るから、ラファエラの好きにはさせない。そう言いたいが、ラファエラを刺激すると面倒なことになるのも分かっている。だから私は、ぐっと黙る。
「メリッサは強いわ。メリッサが本気を出せば、あんたなんてすぐに倒してしまうんだから!」
ハイデマリーはラファエラにそう告げる。
ヤヌース伯爵領にいた時は、ヒューゴしか味方がいなかった。だが、今はフリードやハイデマリー、ジルだっている。私はもう、一人ではない。
ラファエラが何か言おうとした瞬間、決勝戦開始のベルが鳴った。響き渡るベルを聞き、闘技場が沸く。人々の大歓声を聞き、私は前世を思い出した。私が死んだあの試合でも、人々はこうやって私を応援してくれた。今日は、あの時みたいに死なないから。そして必ず、アダムに勝ってみせる。
闘技場に足を踏み入れる。茶色い硬い土を踏みながら前方を見ると、向かい合わせの扉から入場したアダムと視線がぶつかった。緑がかった黒っぽい肌。筋肉隆々の手足。体は今や、私の二倍ほどの大きさがあるだろう。
「メリッサ、頑張って!」
背後から、ハイデマリーの声がする。ハイデマリーは絶対に私を治してくれるから、私はただ全力で向かうのみだ。そして……ラファエラはどうして私の後ろにいるのだろう。アダムの救護係ではないのか。それともまた、なにかを企んでいるのだろうか。だが、今は試合に集中だ。
ゆっくりと私に歩み寄るアダムは、ぼきぼきと手を鳴らした。私はアダムを見つめたまま、深呼吸をする。絶対にどこかに穴はあるはずだ。それを見極め、隙を突くのみだ!
「あんた、なんでそんなに強いの!? 」
決勝戦を控える私に、ハイデマリーが驚いた顔で告げる。
「あんたみたいなか細い子が、大男を軽々投げ飛ばすなんて……」
「力の入れかたがあるのよ」
私は笑顔でハイデマリーに答える。
前世で必死に頑張っていたことは、この世界で大きく役立った。この世界では空手や柔道なんて存在しない。そのため、私がどのような動きをするのか、相手は予想すら出来ないようだ。そのため急所を狙いやすく、脇に入り込みやすかったりもした。前世では叶えられなかった優勝が、この世界では少しずつ近付いてくる。
だが、そんな私でも、アダムを見て恐怖を覚えた。アダムのドーピングは、前世でのドーピングを遥かに超えているようだ。もはやアダムは人間ではなく、何か別の生き物のようになっている。試合前に会った時からさらに、ドーピングを重ねられているのだろう。アダムの肌の色は緑がかった黒色となり、ロボットか何かと思うような体つきになっている。腕や足の筋肉は太く、まるで丸太のようだ。実際、そのパンチやキックは破壊力抜群で、地面や塀を壊すほど。あの攻撃をまともに浴びたら、私はまた死んでしまうかもしれない。前世のように。
だが、今世にはフリードがいる。フリードはきっと、私が死ぬと酷く悲しむだろう。前世では愛されることを知らなかった私だが、今世には愛し愛される人がいる。フリードを残して逝けないと、強く思った。
それでも、ハンスベルク辺境伯領を危険な目に遭わせるわけにはいかない。私の頑張り次第で運命も変わるのだ、ここは全力でやらないといけない。
決勝戦に向けてウォーミングアップをしている私に、
「お姉様って強かったのね」
聞きたくもない声が話しかけた。無視無視と、心の中で必死に言う。そして、彼女の言葉を聞かないようにしてアップを続ける私に、彼女は勝ち誇ったように告げる。
「でも、アダムには勝てないから。お姉様も悪魔辺境伯も、私を馬鹿にする人にはみんな消えてもらうわよ」
……馬鹿にする? 私は、ラファエラを馬鹿にしたことなんてない。むしろ人を馬鹿にしているのはラファエラのほうだ。私は強いから、ずっと我慢して黙っていた。私が何も言わないからと、ラファエラと家族は私を虐げて生きていた。あの時はそれが当然だと思っていたが、フリードと暮らすようになってよく分かった。あの家は異常だったのだと。
だが、ラファエラと話すのも時間の無駄だ。そして、また泣かれたりしてトラブルになっても困る。今の私が出来る唯一の仕返しは、アダムに勝つということだ。アダムに勝って、ラファエラの計画を全部白紙にしてやる。
「お姉様、話せないの? それとも、アダムにビビって声も出ないの? 」
なおもラファエラは挑発をする。その誘いに乗ってはいけないことくらい、分かっているのに……
「あんた、いい加減にしなよ」
私の代わりに声を上げたのは、なんと救護係のハイデマリーだった。ハイデマリーは腕を組んでラファエラを睨んでいる。
「そんなにメリッサが怖いの? 」
「怖いはずがないわ。お姉様のくせに、目立って目障りなのよ!」
ラファエラの声は、叫び声に近かった。
「お姉様のくせに、悪魔辺境伯と仲良くやっている。
お姉様のくせに、武術大会なんかに出ている。
お姉様のくせに、見に来た人から注目されて応援されている」
ラファエラは愚かだ。私がフリードと仲良くやっていることや、目立つことが気に食わないのだ。彼女はいつも自分が一番でないと気が済まず、新しい人生を歩んでいる私が許せないのだ。
なんて愚かな人なのだろう。そして、今も今後も関わりたくもない。
「ハイデマリー、気にしないで」
私は笑顔でハイデマリーを止める。ハイデマリーは不貞腐れたような顔で私を見る。
「私、頑張るから」
頑張るから、ラファエラの好きにはさせない。そう言いたいが、ラファエラを刺激すると面倒なことになるのも分かっている。だから私は、ぐっと黙る。
「メリッサは強いわ。メリッサが本気を出せば、あんたなんてすぐに倒してしまうんだから!」
ハイデマリーはラファエラにそう告げる。
ヤヌース伯爵領にいた時は、ヒューゴしか味方がいなかった。だが、今はフリードやハイデマリー、ジルだっている。私はもう、一人ではない。
ラファエラが何か言おうとした瞬間、決勝戦開始のベルが鳴った。響き渡るベルを聞き、闘技場が沸く。人々の大歓声を聞き、私は前世を思い出した。私が死んだあの試合でも、人々はこうやって私を応援してくれた。今日は、あの時みたいに死なないから。そして必ず、アダムに勝ってみせる。
闘技場に足を踏み入れる。茶色い硬い土を踏みながら前方を見ると、向かい合わせの扉から入場したアダムと視線がぶつかった。緑がかった黒っぽい肌。筋肉隆々の手足。体は今や、私の二倍ほどの大きさがあるだろう。
「メリッサ、頑張って!」
背後から、ハイデマリーの声がする。ハイデマリーは絶対に私を治してくれるから、私はただ全力で向かうのみだ。そして……ラファエラはどうして私の後ろにいるのだろう。アダムの救護係ではないのか。それともまた、なにかを企んでいるのだろうか。だが、今は試合に集中だ。
ゆっくりと私に歩み寄るアダムは、ぼきぼきと手を鳴らした。私はアダムを見つめたまま、深呼吸をする。絶対にどこかに穴はあるはずだ。それを見極め、隙を突くのみだ!
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