悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます

湊一桜

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12. 舞踏会で、素敵な女性に会ってください

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 急に決まった舞踏会の準備は、すぐに始まった。もちろんルーカスが乗り気でないため、ジョエル様が中心となって計画してくれているようだ。廊下でジョエル様とすれ違うと、

「セリオさん、舞踏会上手くいくといいね」

なんて、優しい言葉をかけてくれる。

「はい!」

 私は笑顔でジョエル様に言う。

「ルーカス様が、相応しい令嬢を見つけられることを祈っています」

 このまま、ルーカスにセシリアに惚れていることや、セシリアのいいところばかりを話されると、私の頭がおかしくなってしまいそうだ。ルーカスには絶対に惚れたくないのに、惚れてしまう可能性だってある。だから、ルーカスには早く相応しい女性を見つけてもらうに限る。

「ジョエル様も、いいお相手が見つかればいいなと思っております。
 ジョエル様、私に出来ることがあれば何でも言ってください!」

 深々と頭を下げる私に、

「ありがとう。君が力になってくれて助かるよ」

ジョエル様は笑顔で告げて去っていった。私はそんなジョエル様の後ろ姿を笑顔で見送っていたのだが……


「おい、クソチビ」

 後ろから禍々しい声で呼ばれて、ビクッと飛び上がる。恐る恐る振り返ると、いつの間にかイラついた顔のルーカスがいる。

「る、ルーカス様!も、申し訳ありません」

 必死で頭を下げるが、それでルーカスの怒りが治まるはずもない。

「お前、いつの間にそんなにジョエルと仲良くなってんだ? 
 俺の使用人なのに、どうしてジョエルのほうが親しげなんだ? 」

 そう言うルーカスは、鬼のような顔で私を睨んでいる。もしかしてこれは……

「嫉妬ですか? 」

 思わず聞いてしまうと、

「馬鹿野郎!! 」

怒号が続く。嫉妬ではなかったとしても、このパワハラ的態度にはうんざりだ。そして、やっぱり嫌いだと思ってしまう。私がジョエル様に心を開いているのも、ルーカスがこんなにめちゃくちゃで冷たい人だからだ。ルーカスには分かって欲しいが、分かるはずもないだろう。

「誰がテメェに嫉妬なんてするか」

 ルーカスはイラついたように続ける。

「それに……お前はなぜそんなにも、舞踏会に向けて張り切っているんだ? 」

 それはもちろん、ルーカスのためにいい女性を見つけるからだ。だが、そんなことをルーカスに言うと、まさしく火に油を注ぐ事態になってしまうだろう。私は努めて冷静に答えた。

「ジョエル様にも素敵な女性を、と思いまして……」

 すると、ルーカスは刺すような視線でじろじろ私を見る。あまりにもじろじろ見るものだから、もしかして正体がバレたのかと不安になる程だった。

 だが、決して正体がバレた訳ではないらしい。ルーカスは、不機嫌そうに私に聞く。

「お前は結婚するつもりはないのか? 」

「えっ!? ……ええ。だ、だって私はじゅ、十七歳ですし……」

 いや、正確には二十二歳だ。だが、そんなことは口が裂けても言えない。

「そうか」

 ルーカスは、そう言って嫌な笑みを浮かべて私を見た。

「お前はそんなちんちくりんだから、結婚する気もないのだろう。恋だってしたことがないのだろう。
 だからお前は、俺の気持ちだって分からないのだ」

 申し訳ないが、ルーカスの気持ちは分からない。私の言動がルーカスを傷つけてしまったのかなとも思う。だが、お互いのためにも、私たちは結婚しないのがいいのだと強く思う。本当に、舞踏会でいい令嬢に出会って欲しい。そして願わくば、その令嬢も、このめちゃくちゃなルーカスを受け入れることが出来ますよう。



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