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14. まだまだめげずに工作中
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それから私は、ルーカスにくどくどと説教を喰らった。令嬢達の前で。令嬢達はこんな性悪のルーカスに、正直引いているのだろう。いつの間にか一人また一人と令嬢は消え、代わりに令嬢たちに囲まれたジョエル様がいた。人のいいジョエル様は令嬢たちに紳士的に接して、大人気のようだ。ジョエル様を見ていると、なんだかルーカスを恥ずかしくも思う。
ルーカスはアルコールも入っているのだろう、その説教は厄介なオヤジみたいになっている。
「なあ、クソチビ。
お前使用人のはずなのに、時々どこかの令嬢みたいな所作をするよな」
ルーカスはワイングラスを片手に持ちながら私に言う。そしてその言葉にドキッとする。今の私はセリオだ。出来る限り男らしくしているし、庶民らしくしている。だが、十五年間で身についた貴族の振る舞いは、なかなか抜けないようだ。……本当にもう平民なのに。
「わっ、私は貴族様に憧れていまして……それで、貴族様のマネをしておりまして……」
苦しすぎる言い訳をする。だが、貴族様を持ち上げたため、ルーカスは上機嫌だ。
「お前みたいなクソチビが、貴族になれるはずがない」
「ですよね……」
苦笑いする私を前に、ルーカスはぐいっとワインを飲む。そして続ける。
「でも、貴族がいいってもんじゃないぞ。どこかのクソチビに、興味のない女をけしかけられるし。自由気ままに過ごすと、後ろ指さされるし」
ルーカスは後ろ指を指されていることに気付いているのだ。そしてもしかすると、悩んでいるのかもしれない。
「俺はお前が羨ましい。
不器用なくせに我が強くておせっかいで。皆に好かれて、いつも楽しそうで……」
正直、ルーカスがそんなことを思っているとは思わなかった。ルーカスは孤高の帝王で、人の評価なんて気にしないと思っていたのだ。
「俺がお前だったら、セシリアは惚れるのだろうな」
ルーカスの切なげな眼差しを見て、胸がずきんと痛んだ。ルーカスが私を褒めてくれるのも、酔っているからだろう。だが、そんな風に思われていて、素直に嬉しかった。
「私も、ルーカス様は少しはいいかただと思っています。
仕事も出来るし、一途だし……」
素直に褒めたつもりだった。だが、ルーカスは
「喧嘩売ってんのか」
荒ぶる。
……そう。ルーカスと関わるようになって、彼の色んな面を見た。自己中なところや、暴力的なところ。だが、時に繊細で、時に優しい。もっと色んなルーカスを見たいと思って、首を横に振った。変な気を起こしてはいけない。私とルーカスは、ただの主と使用人の関係だ。
「ルーカス様。私はそろそろ持ち場に戻ります」
これ以上ルーカスといてはいけないと思い、立ち上がって慌てて去る。なぜだか分からないが、胸がドキドキとうるさかった。
きっと、ルーカスが珍しく褒めてくれたからだ。褒められた後は必ず、貶しが来るのだから。
ルーカスから離れて一息ついた私。胸は相変わらずドキドキとうるさい。こんな私を呼んだのは、久しぶりに会うお兄様だった。
「セリオ、やってるな」
お兄様は笑いながら言う。そんなお兄様、公爵家騎士の服を着て、とてもかっこいい。私が妹ではなかったら、惚れるかもしれない。
「調子はどう?
その様子だと、ルーカス様と上手くやってるみたいだな」
「は? 上手くやっていないって!! 」
私は思わず大声を出す。そして周りの視線を感じて、慌てて口を塞いだ。いけないいけない、私は今使用人だし、騎士とこんなにも親しげに話してもいいのだろうか。
お兄様は声を落として言う。
「それでも、精神的に病んでる顔はしていない」
「十分に病んでるよ。でも、彼に何としてもいい女性を見つけてもらわなきゃ」
だから私は、病んでいる暇なんてない。
「それなのにルーカスは、全然女性に見向きもしないし、令嬢たちも逃げてしまう」
ため息混じりに告げていた。
お兄様はしばらく考えるように下を向いていた。そして、急に思い立ったように言う。
「それなら、力技でいくか!」
「えっ!? 」
「俺たちで、女性たちをルーカス様のほうに押し付ければいい!」
「さっすが!! 」
そうと決まったら私たちは早かった。私は皿を運ぶふりをして、令嬢をぎゅうぎゅうルーカスのほうに押していく。
「向こうに行ったほうがいいですよ!」
なんて言って。
か弱い令嬢たちはきゃあーっと悲鳴を上げながら、どんどんルーカスのほうに押されていく。
お兄様もお兄様で、
「ご令嬢。あちらが空いていますよ。共に行きませんか? 」
そう優しく令嬢に声をかける。お兄様は顔も良く、騎士服を着ているため極上の男に見えてしまう。だから令嬢たちはふらふらとついていってしまうのだが……あれ、完全にお兄様目当てでついていっているよね!? ルーカス目当てではないよね!? と、不安になるのだった。
そしていつの間にか、ルーカスのいる辺りは、令嬢たちでごった返していた。きゃあきゃあ声が聞こえるが、その中心にいるのは、なんとお兄様なのだ。
……駄目じゃん!!
私が大きくため息をついた時だった。
「お前、何のつもりだ」
地の底から湧き起こるような、恐ろしい声が聞こえた。思わずビクッと飛び上がってしまった私の前には、いかにも不機嫌そうなルーカスがいる。
ルーカス、いつの間に!?
「も、申し訳ございません。ルーカス様に令嬢たちをと思いまして……」
そう言って、えへと笑う。こんな私を、イラつきにイラついたルーカスは怒鳴り飛ばしたのだ。
「余計なことをしやがって!テメェ、足洗って出直せ!! 」
「は、はい!! 」
私は返事をして、大慌てでシャワールームに飛び込む。そして、大きなため息をついていた。
ルーカスはアルコールも入っているのだろう、その説教は厄介なオヤジみたいになっている。
「なあ、クソチビ。
お前使用人のはずなのに、時々どこかの令嬢みたいな所作をするよな」
ルーカスはワイングラスを片手に持ちながら私に言う。そしてその言葉にドキッとする。今の私はセリオだ。出来る限り男らしくしているし、庶民らしくしている。だが、十五年間で身についた貴族の振る舞いは、なかなか抜けないようだ。……本当にもう平民なのに。
「わっ、私は貴族様に憧れていまして……それで、貴族様のマネをしておりまして……」
苦しすぎる言い訳をする。だが、貴族様を持ち上げたため、ルーカスは上機嫌だ。
「お前みたいなクソチビが、貴族になれるはずがない」
「ですよね……」
苦笑いする私を前に、ルーカスはぐいっとワインを飲む。そして続ける。
「でも、貴族がいいってもんじゃないぞ。どこかのクソチビに、興味のない女をけしかけられるし。自由気ままに過ごすと、後ろ指さされるし」
ルーカスは後ろ指を指されていることに気付いているのだ。そしてもしかすると、悩んでいるのかもしれない。
「俺はお前が羨ましい。
不器用なくせに我が強くておせっかいで。皆に好かれて、いつも楽しそうで……」
正直、ルーカスがそんなことを思っているとは思わなかった。ルーカスは孤高の帝王で、人の評価なんて気にしないと思っていたのだ。
「俺がお前だったら、セシリアは惚れるのだろうな」
ルーカスの切なげな眼差しを見て、胸がずきんと痛んだ。ルーカスが私を褒めてくれるのも、酔っているからだろう。だが、そんな風に思われていて、素直に嬉しかった。
「私も、ルーカス様は少しはいいかただと思っています。
仕事も出来るし、一途だし……」
素直に褒めたつもりだった。だが、ルーカスは
「喧嘩売ってんのか」
荒ぶる。
……そう。ルーカスと関わるようになって、彼の色んな面を見た。自己中なところや、暴力的なところ。だが、時に繊細で、時に優しい。もっと色んなルーカスを見たいと思って、首を横に振った。変な気を起こしてはいけない。私とルーカスは、ただの主と使用人の関係だ。
「ルーカス様。私はそろそろ持ち場に戻ります」
これ以上ルーカスといてはいけないと思い、立ち上がって慌てて去る。なぜだか分からないが、胸がドキドキとうるさかった。
きっと、ルーカスが珍しく褒めてくれたからだ。褒められた後は必ず、貶しが来るのだから。
ルーカスから離れて一息ついた私。胸は相変わらずドキドキとうるさい。こんな私を呼んだのは、久しぶりに会うお兄様だった。
「セリオ、やってるな」
お兄様は笑いながら言う。そんなお兄様、公爵家騎士の服を着て、とてもかっこいい。私が妹ではなかったら、惚れるかもしれない。
「調子はどう?
その様子だと、ルーカス様と上手くやってるみたいだな」
「は? 上手くやっていないって!! 」
私は思わず大声を出す。そして周りの視線を感じて、慌てて口を塞いだ。いけないいけない、私は今使用人だし、騎士とこんなにも親しげに話してもいいのだろうか。
お兄様は声を落として言う。
「それでも、精神的に病んでる顔はしていない」
「十分に病んでるよ。でも、彼に何としてもいい女性を見つけてもらわなきゃ」
だから私は、病んでいる暇なんてない。
「それなのにルーカスは、全然女性に見向きもしないし、令嬢たちも逃げてしまう」
ため息混じりに告げていた。
お兄様はしばらく考えるように下を向いていた。そして、急に思い立ったように言う。
「それなら、力技でいくか!」
「えっ!? 」
「俺たちで、女性たちをルーカス様のほうに押し付ければいい!」
「さっすが!! 」
そうと決まったら私たちは早かった。私は皿を運ぶふりをして、令嬢をぎゅうぎゅうルーカスのほうに押していく。
「向こうに行ったほうがいいですよ!」
なんて言って。
か弱い令嬢たちはきゃあーっと悲鳴を上げながら、どんどんルーカスのほうに押されていく。
お兄様もお兄様で、
「ご令嬢。あちらが空いていますよ。共に行きませんか? 」
そう優しく令嬢に声をかける。お兄様は顔も良く、騎士服を着ているため極上の男に見えてしまう。だから令嬢たちはふらふらとついていってしまうのだが……あれ、完全にお兄様目当てでついていっているよね!? ルーカス目当てではないよね!? と、不安になるのだった。
そしていつの間にか、ルーカスのいる辺りは、令嬢たちでごった返していた。きゃあきゃあ声が聞こえるが、その中心にいるのは、なんとお兄様なのだ。
……駄目じゃん!!
私が大きくため息をついた時だった。
「お前、何のつもりだ」
地の底から湧き起こるような、恐ろしい声が聞こえた。思わずビクッと飛び上がってしまった私の前には、いかにも不機嫌そうなルーカスがいる。
ルーカス、いつの間に!?
「も、申し訳ございません。ルーカス様に令嬢たちをと思いまして……」
そう言って、えへと笑う。こんな私を、イラつきにイラついたルーカスは怒鳴り飛ばしたのだ。
「余計なことをしやがって!テメェ、足洗って出直せ!! 」
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