悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます

湊一桜

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18. 色々とショックを受けています

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「お兄様!」

 助けてください!と目で訴える。お兄様は私とルーカスを、驚いたように交互に見た。そんなお兄様に、ルーカスは聞く。

「マルコス、どこに行っていたんだ? 」

「ご令嬢と、シャワールームで致しておりまして」

 お兄様は爽やかな笑顔で答える。まさか、シャワールームから私を締め出したのは、お兄様だったの!? そして、お兄様は清純派だと思っていたのに、騎士になって汚れてしまったの!? なんだか酷くショックだ。

 そんなお兄様の横には頬を染めた令嬢がいて、お兄様の腕をぎゅっと握っている。まさしく大人の世界だ。私はついていけない……

「いいなぁ、お前は」

 ルーカスは遠い目でお兄様を見る。そして、考えたくもないが……考えても私には関係ないが、ルーカスも令嬢を抱いたことはあるのだろうか。考えるだけで胸が痛くなる。……いや、私には関係ないのだが。

「セシリアを呼んでくれたのは、マルコスだろ? 」

 私がセリオだと疑ってもいないルーカスは、そんなことを言う。そして調子のいいお兄様が、

「仰せの通りです」

笑顔で答える。そのままお兄様は、ジョエル様に告げたのだ。

「ジョエル様、私たちは向こうでワインでも飲みに行きませんか? 」

 えっ、ちょっと待って。お兄様はまた、ルーカスと私を二人きりにするのだろうか。お兄様って、私の味方ではなかったの!? 

 ジョエル様は笑顔で頷く。そして、令嬢たちを連れて、お兄様と向こうへ行ってしまったのだ。こうして私は、またルーカスと二人きりになってしまった。




 お兄様がシャワールームから私を締め出して、令嬢と致していたことにはショックを隠せない。だが、ルーカスのこのキャラ変には、さらにショックを隠せない。これ以上ルーカスといると、私がおかしくなってしまいそうだ。私はルーカスと、シャワールームで致したりなんて、死んでもしたくない。

「セシリア。室内は騒がしいから、少し外でも歩かないか? 」

 ルーカスは静かに告げる。

 ルーカスと二人きり!? それは避けたい。
 このホールにはたくさんの人がいるため、ルーカスも変なことはしてこない。だが、二人きりになった瞬間、襲われるのではないかと思ってしまう。普段のルーカスを知っているからこそ、尚更だ。

「そうね。……でも、やっぱり私、帰らなきゃ」

 必死で逃げようとする私の手を、ルーカスはぎゅっと掴む。不意に優しく掴まれるものだから、また私の鼓動はドキドキと速くなる。

「君が良ければ、今夜はうちに泊まってもいい」

「いや、それは絶対にないでしょう!」

 どぎまぎして答えた。ルーカスはやはり、その気なのだ。隙さえあれば、私に手を出すつもりなのだ。だけど私は絶対に嫌だ。これ以上ルーカスに惹かれると、のめり込んでしまいそうで怖い……

「セシリア。花祭りが近付いているから、館の庭園も花でいっぱいなんだ。
 今はまだ五分咲きだけど、花祭りの頃には満開になる」

 私は逃げようとするのに、ルーカスがそっと肩を抱いて歩く。それで逃げることも出来ず、ルーカスの言う通りホールから庭園へと出た。

 もちろん、この庭園を知っている。だが、いつも忙しくしていて、庭園を横目に通り過ぎるだけだ。加えて、夜の庭園はライトアップされており、暗い中照らされた花々が幻想的に浮かび上がっている。満開でないとはいえ、とても綺麗だ。思わず見惚れてしまうほど……

「どうだ?綺麗だろ? 」

 ルーカスは私の肩を抱いたまま、甘く優しい声で告げる。いつもの声とは全然違うその声を聞き、また胸がきゅんと鳴ってしまったのは言うまでもない。

「俺は、この庭園をセシリアと見ることが出来て嬉しい。

 ……もし良かったら、花祭りにも来て欲しい」

 ルーカスが、花祭りの準備に汗を流しているのは、私を呼ぶためだと知っている。それを知っているからこそ、花祭りの話題を出されるのがキツい。私のために花祭りを成功させようとしているルーカスに、さらに惚れてしまいそうだ。

「でも私……遠くで見物しているだけでいいわ」

 私はぽつりと告げる。

「私は平民だし。私なんかがいると、周りの人たちも嫌だろうし」

 ルーカスがいくら私を呼びたいと言っても、立場という壁がある。それに、私は平民というだけでなく、犯罪者の娘だ。もちろん、お父様の無実を信じているのだが。

「そんなの関係ない!! 」

 ルーカスが不意に大きな声を出すから、思わずビクッと飛び上がってしまう。ルーカスは私の言葉にイラッとしたのだろう。いつもの乱暴者のルーカスを思い出させるような、大きな声だった。

 だが、少し怯えた顔をした私を見て、ルーカスはぐっと口を噤む。そして、静かに告げる。

「俺がお前を呼びたいんだ。……分かってくれ」

 ルーカスなのに。乱暴で自己中なルーカスなのに。演技でもそうやって優しくされると、コロッと落ちてしまいそうになる。セリオに対する態度を思い出し、この人の本性は違うと必死で言い聞かせる。

「セシリア」

 甘く優しい声で名前を呼ばれる。暗闇で私を見つめるその瞳が、きらきらと光を反射して柔らかく輝いている。

「好きだ。……ずっと好きだったんだ」

 ルーカスは、消えてしまいそうな声で囁いた。



 
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