39 / 58
第二章
39. ようやく伝えた私の秘密
しおりを挟む
(……『だろうな』ですって!? )
予想外の反応に、まじまじとアンドレ様を見上げる。そして、再び真っ赤になってしまう私。するとアンドレ様は、ゆっくり私に目を落とした。その菫色の形のいい瞳で見られると、また胸がドキドキと音を立て、甘くきゅんと震えるのだった。
「そうだと思っていた。
ベートーヴェンとかミサンガとか、俺の記憶の中にも出てくる」
(えっ!? アンドレ様、気付いていらしたのですね)
責められても仕方がないと思ったのに、アンドレ様の反応に拍子抜けした私。こんな私を見て、アンドレ様は楽しそうに笑った。その笑顔を見ると、私も自然と笑みが溢れてくる。
無表情だったアンドレ様が、今やこんなにも私に感情を見せてくださる。そのことが、何よりも嬉しい。
「リアはどんな前世だったのか? 」
柔らかい声で聞くアンドレ様に、ドキドキしながら答える私。
「えっと……ごく普通の会社員でした。
ですが、若いうちに不慮の事故で死んでしまって……」
「そうか。……結婚はしていたのか? 」
急にそんなことを聞かれ、戸惑って答える。
「いえ……ですが、婚約中の人はいました」
ここでちくりとした。慎司とは婚約中だったが、『結婚するのを辞める?』などと言われてしまった。そのまま私は転落死してしまったが、もし私が生きていたらどうなっていたのだろう。
そういえば私は、パトリック様にも婚約破棄をされた。私の男運はもしかしたら、すごくツイていないのかもしれない。
だけどアンドレ様は……アンドレ様とは、これからも幸せに暮らしたいと思ってしまう。
ちらっとアンドレ様を見ると、微かに頬を染めて拗ねたように窓の外を見ていた。
(えっ!? もしかして、私、何か悪いことを言ってしまいました!? )
「ごっ、ごめんなさい!! 」
身に覚えはないがとりあえず謝る私を、頬を染めたまま少し不機嫌そうに見るアンドレ様。そして、またふいっと外を見てしまう。
「君は何も悪くない。その……」
アンドレ様はまた窓の外を見たまま、衝撃的な言葉を告げた。
「たとえ前世であっても、君に愛された男がいる。その事実だけで俺はむしゃくしゃする」
「そ、それってもしかして……やきもちですか!? 」
思わず口走って、慌てて口を押さえる。
(わ、私としたことが、何てことを言っているのでしょう。
きっと、アンドレ様もいい気がしないでしょう)
あわあわと慌てる私の隣で、アンドレ様もどこか狼狽えている。そして額に手を当てたまま、完全に私に背を向けてしまった。
「う、うるさいな。
俺だって、やきもちの一つや二つ、焼くこともある」
(び、ビンゴですかぁ!? )
アンドレ様を嫌な気分にさせてしまって申し訳ない思いと、やきもちを妬かれて嬉しい思い。半ばパニックを起こしている私はすごい顔をしていたのだろう。真っ赤な顔でちらりと私を見たアンドレ様は、思わず吹き出していた。それにつられて私も笑ってしまう。
不思議だ。会った時はあんなにも心の距離が離れていたのに、今はこんなにも近くにいる。怖いだなんて思いはもうないし、好きが大きくなっていく。
「リア。この世界では、共に長生きしよう」
アンドレ様の言葉に、大きく頷いていた。
「はい。おじいさんおばあさんになっても、ずっとアンドレ様の隣にいたいです」
私はまた、大胆なことを言ってしまった。そして、真っ赤になって口を塞ぐ。こんな私を見て、
「そうだな」
アンドレ様は大きく頷き、再び私の手を握った。大きくて力強いその手を、ぎゅっと握り返していた。
こうして、私はハイスペック馬車に揺られ、アンドレ様に胸を狂わせながら、バリル王国へと向かっていったのだ。
予想外の反応に、まじまじとアンドレ様を見上げる。そして、再び真っ赤になってしまう私。するとアンドレ様は、ゆっくり私に目を落とした。その菫色の形のいい瞳で見られると、また胸がドキドキと音を立て、甘くきゅんと震えるのだった。
「そうだと思っていた。
ベートーヴェンとかミサンガとか、俺の記憶の中にも出てくる」
(えっ!? アンドレ様、気付いていらしたのですね)
責められても仕方がないと思ったのに、アンドレ様の反応に拍子抜けした私。こんな私を見て、アンドレ様は楽しそうに笑った。その笑顔を見ると、私も自然と笑みが溢れてくる。
無表情だったアンドレ様が、今やこんなにも私に感情を見せてくださる。そのことが、何よりも嬉しい。
「リアはどんな前世だったのか? 」
柔らかい声で聞くアンドレ様に、ドキドキしながら答える私。
「えっと……ごく普通の会社員でした。
ですが、若いうちに不慮の事故で死んでしまって……」
「そうか。……結婚はしていたのか? 」
急にそんなことを聞かれ、戸惑って答える。
「いえ……ですが、婚約中の人はいました」
ここでちくりとした。慎司とは婚約中だったが、『結婚するのを辞める?』などと言われてしまった。そのまま私は転落死してしまったが、もし私が生きていたらどうなっていたのだろう。
そういえば私は、パトリック様にも婚約破棄をされた。私の男運はもしかしたら、すごくツイていないのかもしれない。
だけどアンドレ様は……アンドレ様とは、これからも幸せに暮らしたいと思ってしまう。
ちらっとアンドレ様を見ると、微かに頬を染めて拗ねたように窓の外を見ていた。
(えっ!? もしかして、私、何か悪いことを言ってしまいました!? )
「ごっ、ごめんなさい!! 」
身に覚えはないがとりあえず謝る私を、頬を染めたまま少し不機嫌そうに見るアンドレ様。そして、またふいっと外を見てしまう。
「君は何も悪くない。その……」
アンドレ様はまた窓の外を見たまま、衝撃的な言葉を告げた。
「たとえ前世であっても、君に愛された男がいる。その事実だけで俺はむしゃくしゃする」
「そ、それってもしかして……やきもちですか!? 」
思わず口走って、慌てて口を押さえる。
(わ、私としたことが、何てことを言っているのでしょう。
きっと、アンドレ様もいい気がしないでしょう)
あわあわと慌てる私の隣で、アンドレ様もどこか狼狽えている。そして額に手を当てたまま、完全に私に背を向けてしまった。
「う、うるさいな。
俺だって、やきもちの一つや二つ、焼くこともある」
(び、ビンゴですかぁ!? )
アンドレ様を嫌な気分にさせてしまって申し訳ない思いと、やきもちを妬かれて嬉しい思い。半ばパニックを起こしている私はすごい顔をしていたのだろう。真っ赤な顔でちらりと私を見たアンドレ様は、思わず吹き出していた。それにつられて私も笑ってしまう。
不思議だ。会った時はあんなにも心の距離が離れていたのに、今はこんなにも近くにいる。怖いだなんて思いはもうないし、好きが大きくなっていく。
「リア。この世界では、共に長生きしよう」
アンドレ様の言葉に、大きく頷いていた。
「はい。おじいさんおばあさんになっても、ずっとアンドレ様の隣にいたいです」
私はまた、大胆なことを言ってしまった。そして、真っ赤になって口を塞ぐ。こんな私を見て、
「そうだな」
アンドレ様は大きく頷き、再び私の手を握った。大きくて力強いその手を、ぎゅっと握り返していた。
こうして、私はハイスペック馬車に揺られ、アンドレ様に胸を狂わせながら、バリル王国へと向かっていったのだ。
131
あなたにおすすめの小説
妹に全て奪われて死んだ私、二度目の人生では王位も恋も譲りません
タマ マコト
ファンタジー
第一王女セレスティアは、
妹に婚約者も王位継承権も奪われた祝宴の夜、
誰にも気づかれないまま毒殺された。
――はずだった。
目を覚ますと、
すべてを失う直前の過去に戻っていた。
裏切りの順番も、嘘の言葉も、
自分がどう死ぬかさえ覚えたまま。
もう、譲らない。
「いい姉」も、「都合のいい王女」もやめる。
二度目の人生、
セレスティアは王位も恋も
自分の意思で掴み取ることを決める。
婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ
水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。
それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。
黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。
叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。
ですが、私は知らなかった。
黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。
残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?
婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~
ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。
絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。
アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。
**氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。
婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
婚約破棄された公爵令嬢エルカミーノの、神級魔法覚醒と溺愛逆ハーレム生活
ふわふわ
恋愛
公爵令嬢エルカミーノ・ヴァレンティーナは、王太子フィオリーノとの婚約を心から大切にし、完璧な王太子妃候補として日々を過ごしていた。
しかし、学園卒業パーティーの夜、突然の公開婚約破棄。
「転入生の聖女リヴォルタこそが真実の愛だ。お前は冷たい悪役令嬢だ」との言葉とともに、周囲の貴族たちも一斉に彼女を嘲笑う。
傷心と絶望の淵で、エルカミーノは自身の体内に眠っていた「神級の古代魔法」が覚醒するのを悟る。
封印されていた万能の力――治癒、攻撃、予知、魅了耐性すべてが神の領域に達するチート能力が、ついに解放された。
さらに、婚約破棄の余波で明らかになる衝撃の事実。
リヴォルタの「聖女の力」は偽物だった。
エルカミーノの領地は異常な豊作を迎え、王国の経済を支えるまでに。
フィオリーノとリヴォルタは、次々と失脚の淵へ追い込まれていく――。
一方、覚醒したエルカミーノの周りには、運命の攻略対象たちが次々と集結する。
- 幼馴染の冷徹騎士団長キャブオール(ヤンデレ溺愛)
- 金髪強引隣国王子クーガ(ワイルド溺愛)
- 黒髪ミステリアス魔導士グランタ(知性溺愛)
- もふもふ獣人族王子コバルト(忠犬溺愛)
最初は「静かにスローライフを」と願っていたエルカミーノだったが、四人の熱烈な愛と守護に囲まれ、いつしか彼女自身も彼らを深く愛するようになる。
経済的・社会的・魔法的な「ざまぁ」を経て、
エルカミーノは新女王として即位。
異世界ルールで認められた複数婚姻により、四人と結ばれ、
愛に満ちた子宝にも恵まれる。
婚約破棄された悪役令嬢が、最強チート能力と四人の溺愛夫たちを得て、
王国を繁栄させながら永遠の幸せを手に入れる――
爽快ざまぁ&極甘逆ハーレム・ファンタジー、完結!
追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される
黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」
無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!?
自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。
窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる