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第二章
38. 長旅の途中、色々と考えさせられる
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宮廷の中庭には、豪華な馬車が停まっていた。そして、その周りには護衛の騎士が隊列を組んで待っている。
「アンドレ。道中気をつけなさい」
アンドレ様を気遣う国王に、アンドレ様は片膝を付いて頭を下げる。こんないかにも騎士といったスマートなアンドレ様に、きゅんとしてしまうのは秘密だ。
そして、
「アンドレ、気をつけるのよ」
国王の近くに立っていたマリアンネ殿下……今日も相変わらず美しいマリアンネ殿下が、心配するようにアンドレ様に告げる。
大丈夫だと言い聞かせながらも、胸の中がちくりとした。
「殿下、ありがとうございます。
行って参ります」
アンドレ様は頭を垂れたまま告げるが、嫌がっている素ぶりがないのも私を不安にさせる。
こうやってマリアンネ殿下はアンドレ様との別れを惜しんでいるのかと思ったが……
「リアさん」
不意に呼ばれて飛び上がりそうになった。
マリアンネ殿下は、きっと私を嫉妬で歪んだ顔で見ているに違いない。そして、酷い言葉を吐くに違いない。そう思ったが……
「リアさんも気をつけて。
アンドレが付いているから大丈夫だと思うけど、万が一彼が酷いことをしたら、私に教えてちょうだい。
私が厳しく言ってあげるから」
マリアンネ殿下は、私を敵視している様子もなく、むしろ私を心配しているようにさえ見える。マリアンネ殿下はこの私のことまで心配してくださっているというのに、私はいつまで嫉妬心を燃やし続けているのだろう。
(容姿も性格も、私の負けですね)
認めたくないが、そう思うしかなかったのだ。
こうして、私は信じられないほど豪華な馬車に乗り、多くの護衛を伴って、アンドレ様とともに旅に出た。私の故郷、バリル王国へ向かって。
馬車に揺られながらも、マリアンネ殿下に対する嫉妬や不安、敗北感を感じていた。マリアンネ殿下のことばかり考えていた私は、気付いたらアンドレ様の手をぎゅっと握っていた。握ったあとにはっと気付く。
(わ、私、何てことをしているのでしょう)
大きくてごつごつして、少し荒れたアンドレ様の手。真っ赤になった私は慌ててその手を離そうと思ったが、アンドレ様はぎゅっと握り返してくれる。離さないとでもいうように、きつく。それでまた、顔が熱くなってしまう。
「長旅で、リアにも苦労をかけてしまう。
だが、君を置いていきたくなかった」
低くて優しい声。はじめはこの声を聞くのが怖かったが、今は聞くのが心地いい。そして、いけないと思うのに、願ってしまう。……アンドレ様が少しでも私を好きになってくださっているようにと。
ぼーっと窓の外を眺めていた私は、とあることにようやく気付いた。この馬車はたいして揺れないが、その揺れからは信じられないほどの速さで走っているのだ。新幹線……とまではさすがにいかないが、遅い電車くらいの速さはあるかもしれない。いずれにせよ、こんな速度で走っているのは暴走している馬車くらいだ。
「ず、随分と速い馬車ですね」
思わず聞いてしまった私を見て、アンドレ様は少し誇らしげに答えた。
「これは我が国特製の馬車だ。通常、十日かかるバリル王都まで、この馬車だと五日もかからずに辿り着く」
シャンドリー王国が強い国だとは知っていたが、技術力も想像以上に高いようだ。驚いている私に、アンドレ様は告げた。
「この馬車は、前世も軍人だった俺の知識で、色々と改良を加えた。
サスペンションを変えたのと、防弾ガラス装備。水陸両用で船にもなる」
隣に座るアンドレ様はイキイキしており、目を輝かせている。そしていつもよりも饒舌だ。その表情は、心なしか慎司を思い出させた。
(アンドレ様は前世も軍人だったのですね。
……慎司も自衛官でした)
なんて考えた私は、はっと思い出した。アンドレ様は笑われるのを覚悟して、前世の記憶について話してくれたのだ。それなのに、私だって記憶を持っているということを話していなかった。夫婦の間に隠し事はいけないのに、私は何をしていたのだろう。
「あの……アンドレ様……」
私はちらっとアンドレ様を見上げる。そして、その顔を見て、相変わらずの美しさにドキドキする。顔が真っ赤になってしまうため、目を逸らして伝えた。
「私も実は……その……前世の記憶というものがありまして……」
アンドレ様はどんな反応をされるのだろう。なぜ黙っていた、なんて言うのだろうか。一瞬恐怖を感じた時、さほど気にもしていない様子で、アンドレ様が答えた。
「だろうな」
「アンドレ。道中気をつけなさい」
アンドレ様を気遣う国王に、アンドレ様は片膝を付いて頭を下げる。こんないかにも騎士といったスマートなアンドレ様に、きゅんとしてしまうのは秘密だ。
そして、
「アンドレ、気をつけるのよ」
国王の近くに立っていたマリアンネ殿下……今日も相変わらず美しいマリアンネ殿下が、心配するようにアンドレ様に告げる。
大丈夫だと言い聞かせながらも、胸の中がちくりとした。
「殿下、ありがとうございます。
行って参ります」
アンドレ様は頭を垂れたまま告げるが、嫌がっている素ぶりがないのも私を不安にさせる。
こうやってマリアンネ殿下はアンドレ様との別れを惜しんでいるのかと思ったが……
「リアさん」
不意に呼ばれて飛び上がりそうになった。
マリアンネ殿下は、きっと私を嫉妬で歪んだ顔で見ているに違いない。そして、酷い言葉を吐くに違いない。そう思ったが……
「リアさんも気をつけて。
アンドレが付いているから大丈夫だと思うけど、万が一彼が酷いことをしたら、私に教えてちょうだい。
私が厳しく言ってあげるから」
マリアンネ殿下は、私を敵視している様子もなく、むしろ私を心配しているようにさえ見える。マリアンネ殿下はこの私のことまで心配してくださっているというのに、私はいつまで嫉妬心を燃やし続けているのだろう。
(容姿も性格も、私の負けですね)
認めたくないが、そう思うしかなかったのだ。
こうして、私は信じられないほど豪華な馬車に乗り、多くの護衛を伴って、アンドレ様とともに旅に出た。私の故郷、バリル王国へ向かって。
馬車に揺られながらも、マリアンネ殿下に対する嫉妬や不安、敗北感を感じていた。マリアンネ殿下のことばかり考えていた私は、気付いたらアンドレ様の手をぎゅっと握っていた。握ったあとにはっと気付く。
(わ、私、何てことをしているのでしょう)
大きくてごつごつして、少し荒れたアンドレ様の手。真っ赤になった私は慌ててその手を離そうと思ったが、アンドレ様はぎゅっと握り返してくれる。離さないとでもいうように、きつく。それでまた、顔が熱くなってしまう。
「長旅で、リアにも苦労をかけてしまう。
だが、君を置いていきたくなかった」
低くて優しい声。はじめはこの声を聞くのが怖かったが、今は聞くのが心地いい。そして、いけないと思うのに、願ってしまう。……アンドレ様が少しでも私を好きになってくださっているようにと。
ぼーっと窓の外を眺めていた私は、とあることにようやく気付いた。この馬車はたいして揺れないが、その揺れからは信じられないほどの速さで走っているのだ。新幹線……とまではさすがにいかないが、遅い電車くらいの速さはあるかもしれない。いずれにせよ、こんな速度で走っているのは暴走している馬車くらいだ。
「ず、随分と速い馬車ですね」
思わず聞いてしまった私を見て、アンドレ様は少し誇らしげに答えた。
「これは我が国特製の馬車だ。通常、十日かかるバリル王都まで、この馬車だと五日もかからずに辿り着く」
シャンドリー王国が強い国だとは知っていたが、技術力も想像以上に高いようだ。驚いている私に、アンドレ様は告げた。
「この馬車は、前世も軍人だった俺の知識で、色々と改良を加えた。
サスペンションを変えたのと、防弾ガラス装備。水陸両用で船にもなる」
隣に座るアンドレ様はイキイキしており、目を輝かせている。そしていつもよりも饒舌だ。その表情は、心なしか慎司を思い出させた。
(アンドレ様は前世も軍人だったのですね。
……慎司も自衛官でした)
なんて考えた私は、はっと思い出した。アンドレ様は笑われるのを覚悟して、前世の記憶について話してくれたのだ。それなのに、私だって記憶を持っているということを話していなかった。夫婦の間に隠し事はいけないのに、私は何をしていたのだろう。
「あの……アンドレ様……」
私はちらっとアンドレ様を見上げる。そして、その顔を見て、相変わらずの美しさにドキドキする。顔が真っ赤になってしまうため、目を逸らして伝えた。
「私も実は……その……前世の記憶というものがありまして……」
アンドレ様はどんな反応をされるのだろう。なぜ黙っていた、なんて言うのだろうか。一瞬恐怖を感じた時、さほど気にもしていない様子で、アンドレ様が答えた。
「だろうな」
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