追放された貧乏令嬢ですが、特技を生かして幸せになります。〜前世のスキル《ピアノ》は冷酷将軍様の心にも響くようです〜

湊一桜

文字の大きさ
41 / 58
第二章

41. 初めてのお茶会

しおりを挟む
 アンドレ様は、バリル国王陛下たちと国防会議中。その間、私は……なんと、『お茶会』というものに参加していた。貧乏男爵令嬢だった私は、もちろん宮廷で行われるお茶会なんて参加したことがない。そもそも、お茶会なんかより、のんびり一人でくつろいでいたほうが好きなのだ。だが、アンドレ将軍の妻となった今、私の感情で誘われたお茶会を断ることなど出来なかった。

 宮廷の小さな中庭に、おしゃれな白いテーブルが出され、煌びやかなドレスの令嬢たちがお茶を楽しんでいる。それを見ただけで、苦手だなぁなんて思ってしまう。
 私は貧乏だったし、ドレスだって質素なものだった。昔は地味で目立たなかったが、今や注目の存在になっているに違いない。『パトリック様と浮気した女』だとか、『冷酷なアンドレ将軍と結婚させられた妻』だとか。だが、どのように言われても、アンドレ様の妻として恥ずかしくない態度でいようとも思う。
 私は、アンドレ様と出会って少し変わったのかもしれない。アンドレ様が私を大切にしてくださるから、少しずつ自信を取り戻し始めているのかもしれない。



「ごきげんよう、リア様」

 夜会では遠目に見る煌びやかな女性たちが、にこやかに挨拶してくれる。しかも、リア様だなんて。

「ごきげんよう」

 こういう時に館で教わったマナーが役立つ。教わっておいて良かったと、心から思った。
 そして、私は誰からも嫌われ蔑まれていたと思っていたのだが……

「災難でしたね、リョヴァン公爵との件」

「リア様、本当にお可哀想」

 巷では、なんと私が被害者になっていたのだ。『私がリョヴァン公爵とテレーゼ様の仲を引き裂こうとした』はずだったのに……どういう風の吹き回しだろう。
 ぽかーんとする私に、令嬢たちは教えてくれる。

「リョヴァン公爵の女癖の悪さと、テレーゼ様の性格の悪さは有名ですわ」

「ええ。そもそも公爵が男爵家に本気の縁談を持ち込むなんて、あるはずがないですもの」

「リョヴァン公爵は初めから火遊びのつもりだったのでしょう。
 それでテレーゼ様がそこを利用して婚約したんじゃないですの?」

 (そ……そうなんですね。
 我が家はその罠に、まんまとはまってしまったんですね)

 愕然とする。だが、アンドレ様のためにも、私はしっかりしていないといけないと思い直す。

「リョヴァン公爵の件は驚きましたが、今は公爵の幸せを祈っています」

 かろうじて発した言葉に、令嬢たちはざわめいた。

「まあ、リア様は何と慈悲深いかたなのでしょう」

「かたや、リョヴァン公爵は、テレーゼ様に振り回されてお疲れのようですし」

 そう言って笑いが起こる。私が敵対視されていないのは嬉しいが、それはそれで複雑だった。

 (だって……パトリック様はテレーゼ様と離縁したいと、シャンドリー王国にまで来られたのですから)

 いずれにせよ、私にはアンドレ様しかいないのも事実。こんな場でもアンドレ様を思い出し、にやけそうになってしまうのだった。

「それで、リア様。アンドレ将軍とはどうですの? 」

「噂によると、アンドレ将軍はリョヴァン公爵に勝るとも劣らない、駄目な男だとか……」

 (アンドレ様、やはり誤解されていますね)

 そんなことないです!と言いそうになった時だった。



 急に会場が静かになり、

「……まあ」

令嬢たちがわざとらしく目を逸らす。そそくさと立ち上がって去ってしまう女性もいた。

 (何が起こったのでしょう)

 ぽかーんとしている私は、

「ねえ」

敵意に満ちた女性でようやく気付いた。

 いつの間にか私の前には、ピンクのフリフリの豪華なドレスを着た女性が立っていた。スパンコールが輝くそのドレスの主は、勝ち誇った顔で私を見ている。私はこの女性を知っている。この女性こそ、パトリック様を虜にし、私と婚約破棄させた女性、テレーゼ様だ。

「ごきげんよう、テレーゼ様」

 そう告げながらも、胸はバクバクと音を立てる。嫌な記憶が蘇り、一刻も早く逃げたい気分でいっぱいだ。
 テレーゼ様は、私を雑魚でも見るような目で見た。そして、高笑いしながら聞く。

「これはこれは、泥棒猫のリアさん。冷酷将軍のもとで元気にしていらして?
 私はパトリック様の愛を一身に受け、毎日有意義に過ごしていましてよ」

 (よく言いますね)

 心の中で呟くが、笑顔は崩さない。そしてそのまま、私は柔らかな反撃に出た。

「おかげさまで、アンドレ様とも楽しく過ごしております」

 テレーゼ様は一瞬驚いた顔をする。だが、次の瞬間また意地悪い顔に戻り、私にマウントを取り始めた。

「わたくしだって、パトリック様に毎日愛されて幸せですわ。
 豪華な料理に豪華なドレス。おまけにパトリック様ですもの」

 そのパトリック様が、テレーゼ様と離縁したいとシャンドリー王国まで来られたことを、彼女は知らないのだろう。
 私は努めて笑顔になり、それは良かったですと告げた。そして、この場を一刻も早く去りたいと思ってしまうのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。 しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。 王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。 絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。 彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。 誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。 荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。 一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。 王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。 しかし、アリシアは冷たく拒否。 「私はもう、あなたの聖女ではありません」 そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。 「俺がお前を守る。永遠に離さない」 勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動…… 追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!

妹に全て奪われて死んだ私、二度目の人生では王位も恋も譲りません

タマ マコト
ファンタジー
第一王女セレスティアは、 妹に婚約者も王位継承権も奪われた祝宴の夜、 誰にも気づかれないまま毒殺された。 ――はずだった。 目を覚ますと、 すべてを失う直前の過去に戻っていた。 裏切りの順番も、嘘の言葉も、 自分がどう死ぬかさえ覚えたまま。 もう、譲らない。 「いい姉」も、「都合のいい王女」もやめる。 二度目の人生、 セレスティアは王位も恋も 自分の意思で掴み取ることを決める。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~

ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。 絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。 アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。 **氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。 婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

婚約破棄された公爵令嬢エルカミーノの、神級魔法覚醒と溺愛逆ハーレム生活

ふわふわ
恋愛
公爵令嬢エルカミーノ・ヴァレンティーナは、王太子フィオリーノとの婚約を心から大切にし、完璧な王太子妃候補として日々を過ごしていた。 しかし、学園卒業パーティーの夜、突然の公開婚約破棄。 「転入生の聖女リヴォルタこそが真実の愛だ。お前は冷たい悪役令嬢だ」との言葉とともに、周囲の貴族たちも一斉に彼女を嘲笑う。 傷心と絶望の淵で、エルカミーノは自身の体内に眠っていた「神級の古代魔法」が覚醒するのを悟る。 封印されていた万能の力――治癒、攻撃、予知、魅了耐性すべてが神の領域に達するチート能力が、ついに解放された。 さらに、婚約破棄の余波で明らかになる衝撃の事実。 リヴォルタの「聖女の力」は偽物だった。 エルカミーノの領地は異常な豊作を迎え、王国の経済を支えるまでに。 フィオリーノとリヴォルタは、次々と失脚の淵へ追い込まれていく――。 一方、覚醒したエルカミーノの周りには、運命の攻略対象たちが次々と集結する。 - 幼馴染の冷徹騎士団長キャブオール(ヤンデレ溺愛) - 金髪強引隣国王子クーガ(ワイルド溺愛) - 黒髪ミステリアス魔導士グランタ(知性溺愛) - もふもふ獣人族王子コバルト(忠犬溺愛) 最初は「静かにスローライフを」と願っていたエルカミーノだったが、四人の熱烈な愛と守護に囲まれ、いつしか彼女自身も彼らを深く愛するようになる。 経済的・社会的・魔法的な「ざまぁ」を経て、 エルカミーノは新女王として即位。 異世界ルールで認められた複数婚姻により、四人と結ばれ、 愛に満ちた子宝にも恵まれる。 婚約破棄された悪役令嬢が、最強チート能力と四人の溺愛夫たちを得て、 王国を繁栄させながら永遠の幸せを手に入れる―― 爽快ざまぁ&極甘逆ハーレム・ファンタジー、完結!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...