追放された貧乏令嬢ですが、特技を生かして幸せになります。〜前世のスキル《ピアノ》は冷酷将軍様の心にも響くようです〜

湊一桜

文字の大きさ
46 / 58
第二章

46. 長い旅が終わりました

しおりを挟む
 こうして二人で街を歩き、たくさん話をし、幸せを噛み締めた。形だけだった夫婦だが、今は本当の夫婦になっている。何より、あれだけ冷たかったアンドレ様の愛を感じるようになってきた。信じられないし、嬉しい。

 だが、困ったこともある。アンドレ様はやはり、私との価値観も違う。店を回りながら、私がいいと思ったものはすぐに買ってしまうから……無欲を貫いた。それでも、アンドレ様はたんまりと買い物袋を下げ、崩れ落ちそうなフルーツの入った籠を持っている。

 そして、

「あ、アンドレ様!私も持ちます!! 」

大量の荷物を持たせて焦る私を涼しい顔でかわすアンドレ様。

「リアは黙って持たせていろ。
 ……俺が持ちたいんだ」

 駄目だ、そんな言い方反則だ。ますますアンドレ様を好きになってしまう。こうして、新たなアンドレ様を発見するたび、アンドレ様に優しくされるたび、どんどん恋の深みにはまっていくのであった。

 こうして私はアンドレ様との楽しいひとときを過ごし、シャンドリー王国への帰路へついた。馬車に乗るとどっと疲れが押し寄せてくる。そしていつの間にかアンドレ様に寄りかかり、目を閉じていた。アンドレ様が眠っている私にそっと口付けしたことを、私は知らなかった。



◆◆◆◆◆



 大量の荷物とともに家に帰ると、使用人たちは驚いていた。それよりも、アンドレ様の私に対する態度にも驚いていた。

「疲れただろう、リア」

 アンドレ様は甘く優しい声で告げ、そっと私を支えて歩いてくださる。そして、館の人に告げる。

「リアに温かい飲み物を。そして落ち着いたら、湯浴みの支度を」

 バリル王国へ行く前は、大切にされているとはいえ、まだ家族のような距離感ではなかった。だが、今はその距離感がぐっと縮まっている。家族というよりは、むしろ恋人……そう思うと顔がにやけてしまう。今ではアンドレ様に大切にされていることがよく分かるし、その好意も分かる。それがとても嬉しかった。



 温かい飲み物を飲み一息つくと、湯浴みの準備は整っていた。

「一人で出来ます!」

 慌ててそう言うが、

「まあまあ、リア様」

マリーは君の悪いほどの笑顔だ。そして、ヴェラが告げる。

「将軍と何があったのか教えてくださいね」

 (やっぱりそう来るのですね……)

 だが、二人の期待するような話は何もないのが事実。結果的に、期待に期待した二人をがっかりさせることとなってしまう。

「まあ、リア様。さすがに将軍も期待されたのではないですか?
 それなのに、すぐに寝てしまうなんて……」

 額に手を当てて首を振るヴェラ。

「そ、そんな……期待だなんて……」

 アンドレ様とそんな関係になるなんて、考えたこともなかった。両思いですらほど遠いと思っていたほどだ。だが、私の考えがいかに浅はかだったか思い知る。妻となったということは、そういうことだ。いつかアンドレ様と、そんな関係になってしまうかもしれない。

 (私に耐えられるでしょうか。
 今ですらキュンキュンしっぱなしなのに)

 アンドレ様のことを考えていると、体の奥が甘く疼いた。はしたないと思い、大慌てで話題を変える。

「アンドレ様、優しいですよね。
 将軍をされていますが、強いのですか? 」

 それは愚問だった。私は愚かなことを言っていたのだろう。マリーとヴェラは顔を見合わせて失笑する。

「優しいのは、リア様に対してだけですよ」

「将軍が強いかどうかは、すでにリア様も知っておられるのではないですか? 」

 それはそうだ。パトリック様が来た時も、一瞬でパトリック様を倒してしまった。それに人々がアンドレ様を恐怖の瞳で見るのも、ただ態度が冷たいという理由だけではないのだろう。

「将軍は、よく近衛騎士団の訓練に参加されています。関係者は見学自由なので、リア様も見に行かれてはどうですか? 」

「えっ、いいんですか!? 」

 思わず聞くと、マリーは笑いながら頷いた。

「もちろんです。だってリア様は、将軍の奥様なのですから」

 (そうか……奥様なんだ……)

 改めてそれを実感する。そしてアンドレ様を思うと、また顔がにやけてくるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。 しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。 王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。 絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。 彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。 誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。 荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。 一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。 王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。 しかし、アリシアは冷たく拒否。 「私はもう、あなたの聖女ではありません」 そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。 「俺がお前を守る。永遠に離さない」 勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動…… 追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

婚約破棄された公爵令嬢エルカミーノの、神級魔法覚醒と溺愛逆ハーレム生活

ふわふわ
恋愛
公爵令嬢エルカミーノ・ヴァレンティーナは、王太子フィオリーノとの婚約を心から大切にし、完璧な王太子妃候補として日々を過ごしていた。 しかし、学園卒業パーティーの夜、突然の公開婚約破棄。 「転入生の聖女リヴォルタこそが真実の愛だ。お前は冷たい悪役令嬢だ」との言葉とともに、周囲の貴族たちも一斉に彼女を嘲笑う。 傷心と絶望の淵で、エルカミーノは自身の体内に眠っていた「神級の古代魔法」が覚醒するのを悟る。 封印されていた万能の力――治癒、攻撃、予知、魅了耐性すべてが神の領域に達するチート能力が、ついに解放された。 さらに、婚約破棄の余波で明らかになる衝撃の事実。 リヴォルタの「聖女の力」は偽物だった。 エルカミーノの領地は異常な豊作を迎え、王国の経済を支えるまでに。 フィオリーノとリヴォルタは、次々と失脚の淵へ追い込まれていく――。 一方、覚醒したエルカミーノの周りには、運命の攻略対象たちが次々と集結する。 - 幼馴染の冷徹騎士団長キャブオール(ヤンデレ溺愛) - 金髪強引隣国王子クーガ(ワイルド溺愛) - 黒髪ミステリアス魔導士グランタ(知性溺愛) - もふもふ獣人族王子コバルト(忠犬溺愛) 最初は「静かにスローライフを」と願っていたエルカミーノだったが、四人の熱烈な愛と守護に囲まれ、いつしか彼女自身も彼らを深く愛するようになる。 経済的・社会的・魔法的な「ざまぁ」を経て、 エルカミーノは新女王として即位。 異世界ルールで認められた複数婚姻により、四人と結ばれ、 愛に満ちた子宝にも恵まれる。 婚約破棄された悪役令嬢が、最強チート能力と四人の溺愛夫たちを得て、 王国を繁栄させながら永遠の幸せを手に入れる―― 爽快ざまぁ&極甘逆ハーレム・ファンタジー、完結!

処理中です...