追放された貧乏令嬢ですが、特技を生かして幸せになります。〜前世のスキル《ピアノ》は冷酷将軍様の心にも響くようです〜

湊一桜

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第二章

55. 一度目と違う、二度目の恋

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 小屋を出ると、眩しい光がいっせいに降り注ぐ。そしてそれがアンドレ様の銀色の髪を煌々と照らす。やがてアンドレ様は私に目を落とし、口を開きかけた時……

「アンドレ!! 」

 彼を呼ぶ声が聞こえた。そして、アンドレ様が視線を移した先には、アンドレ様と同じく白色の騎士服を着たフレデリク様と、白色のドレスを着たマリアンネ殿下が見える。二人とも走ってきたのか、肩で息をしている。

「どうしたんだよ、アンドレ!」

「アンドレが一人で飛び出していくから、式典はパニックになったのよ? 」

 そしてそのまま、二人の視線は私へと注がれる。そんな二人に、アンドレ様は落ち着いた声で言う。

「詳しいことはあとで話す。
 フレデリク。家の中にいる男と女を、城の牢へぶち込んでおけ。
 人手が足りなかったら、殿下にさせろ。彼女はこういうことに慣れているだろう」

「……はぁ!? 」

 フレデリク様は困った顔でアンドレ様とマリアンネ殿下を交互に見る。

「おい、アンドレ。お前不敬罪で捕まるぞ? 」

「知るか」

 そうぼやくアンドレ様。私はアンドレ様に掴まりながらも、予想外のアンドレ様の言動に戸惑っている。

 (マリアンネ殿下がこういうことに慣れている? 
 ……どういうことですか!? )

「仕方ないわね、アンドレ」

 不敬罪どころか、アンドレ様の発言に乗るマリアンネ殿下。マリアンネ殿下はドレスの袖を腕まくりし、歩み始める。

「私はあなたが苦しむのをずっと見てきたから、あなたの命令を聞いてあげる。
 ……幸せになりなさいよ」

 その言葉を合図に、アンドレ様は私を抱いたまま歩き始める。こつこつとその重い靴音が街に響いていた。




 こうして、私はアンドレ様に助けられ、無事に宮廷へ帰ることが出来た。この一件がなかったかのように、宮廷では粛々と式典が進められている。時折、遠くから拍手の音やラッパの音が聞こえてくる。

「アンドレ様、戻りますか? 」

 そう聞くと、アンドレ様は私を抱いたまま答えた。

「今は君と二人でいたいんだ」

 そして、丁重に私をベンチへと下ろしてくれる。ようやくお姫様抱っこから解放され、内心ホッとした。というのも、将軍が女性を抱えて歩いているものだから、私は注目の的となっていたからだ。だが、アンドレ様は私を離すのが名残惜しいらしい。ベンチへ降ろしたあと、少しの隙間も開けずに密着するように、私の隣へと腰を下ろす。そしてぽつりと呟いた。

「リア……怖い思いをさせて悪かった。
 俺がもっと君を見張らないといけなかった」

「いえ……私こそ、不注意でした」

 もっと、今の立場を自覚するべきだった。私は軍事総司令官の妻だ。この先も、私を狙う人が出てくるに違いない。

「だから、知らない人の言うことは聞かないようにします」

 私の言葉に、満足したようにアンドレ様が頷く。その笑顔が、太陽みたいな慎司の笑顔と重なる。

「リア。怖かったと思うが、何があったのか教えてくれないか。
 俺は今後、今まで以上に君を守らねばならない。そのためにも、奴らの目的を知りたい」

「分かりました」

 そして私は、アンドレ様の演説中に声をかけられたことから、全てを話した。テレーゼ様が、アンドレ様を狙っていること。私を自殺と見せかけて、殺そうとしたこと。

 私の話を聞きながら、アンドレ様は悩ましげに額に手を当て首を振る。そして、独り言のようにぼやいた。

「もう、君と離れたくないのに。何がなんでも守ろうと思ったのに。
 それなのに、また俺のせいで君を死なせるところだった……」

 アンドレ様ははっと我に返り、口元を押さえる。どうやら、失言してしまったようだ。だがその失言さえ愛しくて、私は笑っていた。そんな私を見て、アンドレ様は頬を染めて笑う。

「私は死にません。
 今世はあなたのそばに、ずっとずっといます」

 アンドレ様は太陽みたいな笑みを見せる。まるで、憑き物が取れたような明るい笑みだった。そしてそのまま、こつんと額を合わせる。
 当然のように真っ赤になってしまう私は、この甘い空気を打開しようと、必死で聞いた。

「あ、アンドレ様。どうして私の居場所が分かったのですか? 」

 すると、彼は不思議そうに告げる。

「あそこに俺がいたのは偶然だけど、声が聞こえたんだ。『慎司』と呼ぶ声が」

 (……えっ!? )

 慌てる私。そして、アンドレ様はいたずらそうに言った。

「不思議だな。俺は慎司ではないのに」

「そ、そうですね。どういった風の吹き回しでしょう。ふっ、不思議ですね」

 わざとらしく笑う私を見て、さもおかしそうにアンドレ様が笑う。そして、当然のように唇を重ねる。それは記憶に残る、私の大好きな彼とのキスと同じだった。

 私はこうして、同じ人に二度恋をして、二度結ばれた。だが、二度目の恋は違う。年老いるまで、二人で幸せに暮らすのだ。
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