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第六話 扇丸vs片山権四郎
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さすが二戦目ともなると立ち合う牢人の面魂も初戦とは明らかに違って見える。
如意無限流なる名乗りにそこはかとなく漂う痛い薫りは相変わらず、年のころも先ほど無傷のまま敗退した氏家蛇ノ介とさほど変わらぬ三十そこそこといったところか。
それでも槍を携えて備える姿は平時でも隙がなく真っ当な侍のそれである。武道の心得という意味では蛇ノ介の数段上を行くことが傍目にも明らかな相当の手練れと思われた。
「この者であればいますぐ召し抱えても惜しくはない」
立ち合う前からそう思わせる特有の空気を、片山権四郎は醸し出している。
その片山権四郎でさえも、さてこれから立ち合う相手は何者であるかとその顔と身形を見て、否応なく動揺に襲われた様子である。
権四郎は相対する扇丸から目を逸らし、ちらりと奉行を一瞥した。
「本当にこの者と立ち合うのか。小僧ではないか」
言外にそう訊ねているのである。
動揺を察したかのように黙って頷く奉行。
意を決したか、権四郎は改めて眼前の扇丸を見据えて槍を構えた。
「始め!」
ドンと陣太鼓が打ち鳴らされた。
「きぇぇぇっ!」
夜の野山に叫ぶ怪鳥のような声を上げて、権四郎が威嚇する。
対する扇丸はというと、蛇ノ介との仕合でそうしたように、さっそく腰帯を解いて襦袢を脱ぎ捨て、赤裸となった。
ここで読者方々に釈明しておかねばなるまい。
「扇丸の戦術がワンパターンである」というご指摘についてである。
既に何度か説明したとおり、扇丸は武道についてなんの心得もない素人である。武道の素人であるから得物など持たず、当然徒手である。
そのような徒手の素人が得物を持った本職の侍と差しで渡り合って勝てるほど武の世界は甘くない。扇丸が侍相手に少しでも勝機を見出そうと思えば、自らの弱小であることを隠すことなくむしろそれを示して相手の憐憫の情や罪悪感を誘うとともに、艶めかしい裸体を晒して困惑させる以外に方法はなかった。
「ま~た扇丸がのっけから脱いでるよ」
そのようなご意見は重々承知しているが、どうかその辺りの事情を汲んで扇丸の戦いを生暖かく見守っていただきたいのである。
「おっちゃんもしかして初めて?」
なにを以て看破したのかは知らぬ、扇丸が唐突に権四郎の童貞であることを指して言った。そしてその言が真を衝いるのであろうことは、まるで自ら童貞であることを恥じたかのように真っ赤に顔を染めた権四郎の表情からも読み取れようというものであった。
(或いは、めった打ちか……)
敵の恥じているところを桐島家首脳陣歴々の面前で容赦なく指摘したのであるから、激昂した権四郎により扇丸はめちゃくちゃに突っ殺されるのではないかと源心入道はじめ鞍山禅師、旗本衆が息をのんだのも当然のことであった。
しかし扇丸はといえばそんな権四郎を嘲う風はひとつもない。それどころか
「だったらおいらが気持ちよくしてあげる。いっぱい出そうね?」
まるで優しく包み込むようにいうと、扇丸は自らの尻たぶを拡げ、鯉の口のぱっくり開いたように鮮やかな薄紅色の直腸粘膜をこれ見よがしに権四郎に晒して続けた。
「おいらのここが気持ちいいってみんな言ってくれるんだ。ここをおっちゃんのでいっぱいにして」
呆然立ち尽くす権四郎。ごろん、と音を立てて、その手から槍が落ちた。
思い返してみれば武を志してはや二十有余年。権四郎の人生は槍に捧げた人生であった。酒を飲んだことがないので酔うという感覚を知らず、女の柔肌に触れたことがないので性の悦楽も当然知らぬ。
色も欲もなく、脇目も振らず槍の稽古に明け暮れてきたのが権四郎の人生であった。
槍こそすべて。武に捧げてこその人生。
その権四郎が、伸ばせば手の届くところに期せずして出現した色香を前に戦意を喪失したことを不思議と思う人もいるかもしれない。それだけストイックに武を志してきた者が、こんなにもあっさり衆道の色香に屈したりするものかというご意見は一見尤もだ。
しかしそれは不思議のことでもなんでもないのである。なぜならば人生を槍に捧げてきた権四郎同様、扇丸もまた衆道によって今日まで露命をつないできたからである。命懸け、という意味では権四郎の槍術にかける心意気も扇丸の衆道にかける心意気も変わらない。いやそれどころか、飢餓を生き抜くために扇丸が衆道にかけてきた命懸けの度合いが、権四郎が槍にかけてきたそれを上回っていたとしても不思議ではない。
権四郎は確かに槍に命をかけてきたのかもしれぬ。それ以上に扇丸は衆道に命をかけてきたのである。
命懸けなどと言い条、槍を捨てたとしても権四郎は死ななかっただろう。だが衆道をやめれば扇丸は生きていくことが出来なかったのである。どうひいき目に見ても衆道にかける扇丸の命懸けの度合いの方が上回っている。その差が目に見える形で現れたに過ぎぬ。結果は当然であり不思議でもなんでもない。
扇丸は唾液を手に取りそれによって自らの菊門を濡らした。唾液のぬめりによって淫靡の度を増す菊門。穴は見るからに柔らかくまた健康的だ。
権四郎は後櫓(いわゆる立ちバック)の体位に扇丸を抱え、怒張した逸物を扇丸の入口(或いは出口というべきか)に押し当てた。
「ん……あぁっ」
期せずして扇丸の口から漏れる声。
「ゆっくりが気持ちいいよ」
扇丸の指南に従いゆっくり動かせば、扇丸の直腸内壁が権四郎に絡みつく。
扇丸はというと、時折
「ふぁっ! 今いいところ当たった!」
などと織り交ぜながら権四郎をあおり立てる。ただそれは相手を悦ばせるための虚言ではない。その証拠に蛇ノ介を口で逝かせた先ほどと打って変わって、扇丸の逸物が小さいながらに怒張していたからである。
こうなればもはや権四郎は我慢ならなかった。ゆっくりが気持ちいいという扇丸の助言もどこへやら、猛然と扇丸を突き立て始める。肉欲を初めて実体験した権四郎が扇丸の中で果てるのに、さほど時間はかからなかった。
桐島源心入道、鞍山禅師そして扇丸の中で果てた片山権四郎本人でさえ、扇丸の勝利に疑問を差し挟む者はいなかった。
如意無限流なる名乗りにそこはかとなく漂う痛い薫りは相変わらず、年のころも先ほど無傷のまま敗退した氏家蛇ノ介とさほど変わらぬ三十そこそこといったところか。
それでも槍を携えて備える姿は平時でも隙がなく真っ当な侍のそれである。武道の心得という意味では蛇ノ介の数段上を行くことが傍目にも明らかな相当の手練れと思われた。
「この者であればいますぐ召し抱えても惜しくはない」
立ち合う前からそう思わせる特有の空気を、片山権四郎は醸し出している。
その片山権四郎でさえも、さてこれから立ち合う相手は何者であるかとその顔と身形を見て、否応なく動揺に襲われた様子である。
権四郎は相対する扇丸から目を逸らし、ちらりと奉行を一瞥した。
「本当にこの者と立ち合うのか。小僧ではないか」
言外にそう訊ねているのである。
動揺を察したかのように黙って頷く奉行。
意を決したか、権四郎は改めて眼前の扇丸を見据えて槍を構えた。
「始め!」
ドンと陣太鼓が打ち鳴らされた。
「きぇぇぇっ!」
夜の野山に叫ぶ怪鳥のような声を上げて、権四郎が威嚇する。
対する扇丸はというと、蛇ノ介との仕合でそうしたように、さっそく腰帯を解いて襦袢を脱ぎ捨て、赤裸となった。
ここで読者方々に釈明しておかねばなるまい。
「扇丸の戦術がワンパターンである」というご指摘についてである。
既に何度か説明したとおり、扇丸は武道についてなんの心得もない素人である。武道の素人であるから得物など持たず、当然徒手である。
そのような徒手の素人が得物を持った本職の侍と差しで渡り合って勝てるほど武の世界は甘くない。扇丸が侍相手に少しでも勝機を見出そうと思えば、自らの弱小であることを隠すことなくむしろそれを示して相手の憐憫の情や罪悪感を誘うとともに、艶めかしい裸体を晒して困惑させる以外に方法はなかった。
「ま~た扇丸がのっけから脱いでるよ」
そのようなご意見は重々承知しているが、どうかその辺りの事情を汲んで扇丸の戦いを生暖かく見守っていただきたいのである。
「おっちゃんもしかして初めて?」
なにを以て看破したのかは知らぬ、扇丸が唐突に権四郎の童貞であることを指して言った。そしてその言が真を衝いるのであろうことは、まるで自ら童貞であることを恥じたかのように真っ赤に顔を染めた権四郎の表情からも読み取れようというものであった。
(或いは、めった打ちか……)
敵の恥じているところを桐島家首脳陣歴々の面前で容赦なく指摘したのであるから、激昂した権四郎により扇丸はめちゃくちゃに突っ殺されるのではないかと源心入道はじめ鞍山禅師、旗本衆が息をのんだのも当然のことであった。
しかし扇丸はといえばそんな権四郎を嘲う風はひとつもない。それどころか
「だったらおいらが気持ちよくしてあげる。いっぱい出そうね?」
まるで優しく包み込むようにいうと、扇丸は自らの尻たぶを拡げ、鯉の口のぱっくり開いたように鮮やかな薄紅色の直腸粘膜をこれ見よがしに権四郎に晒して続けた。
「おいらのここが気持ちいいってみんな言ってくれるんだ。ここをおっちゃんのでいっぱいにして」
呆然立ち尽くす権四郎。ごろん、と音を立てて、その手から槍が落ちた。
思い返してみれば武を志してはや二十有余年。権四郎の人生は槍に捧げた人生であった。酒を飲んだことがないので酔うという感覚を知らず、女の柔肌に触れたことがないので性の悦楽も当然知らぬ。
色も欲もなく、脇目も振らず槍の稽古に明け暮れてきたのが権四郎の人生であった。
槍こそすべて。武に捧げてこその人生。
その権四郎が、伸ばせば手の届くところに期せずして出現した色香を前に戦意を喪失したことを不思議と思う人もいるかもしれない。それだけストイックに武を志してきた者が、こんなにもあっさり衆道の色香に屈したりするものかというご意見は一見尤もだ。
しかしそれは不思議のことでもなんでもないのである。なぜならば人生を槍に捧げてきた権四郎同様、扇丸もまた衆道によって今日まで露命をつないできたからである。命懸け、という意味では権四郎の槍術にかける心意気も扇丸の衆道にかける心意気も変わらない。いやそれどころか、飢餓を生き抜くために扇丸が衆道にかけてきた命懸けの度合いが、権四郎が槍にかけてきたそれを上回っていたとしても不思議ではない。
権四郎は確かに槍に命をかけてきたのかもしれぬ。それ以上に扇丸は衆道に命をかけてきたのである。
命懸けなどと言い条、槍を捨てたとしても権四郎は死ななかっただろう。だが衆道をやめれば扇丸は生きていくことが出来なかったのである。どうひいき目に見ても衆道にかける扇丸の命懸けの度合いの方が上回っている。その差が目に見える形で現れたに過ぎぬ。結果は当然であり不思議でもなんでもない。
扇丸は唾液を手に取りそれによって自らの菊門を濡らした。唾液のぬめりによって淫靡の度を増す菊門。穴は見るからに柔らかくまた健康的だ。
権四郎は後櫓(いわゆる立ちバック)の体位に扇丸を抱え、怒張した逸物を扇丸の入口(或いは出口というべきか)に押し当てた。
「ん……あぁっ」
期せずして扇丸の口から漏れる声。
「ゆっくりが気持ちいいよ」
扇丸の指南に従いゆっくり動かせば、扇丸の直腸内壁が権四郎に絡みつく。
扇丸はというと、時折
「ふぁっ! 今いいところ当たった!」
などと織り交ぜながら権四郎をあおり立てる。ただそれは相手を悦ばせるための虚言ではない。その証拠に蛇ノ介を口で逝かせた先ほどと打って変わって、扇丸の逸物が小さいながらに怒張していたからである。
こうなればもはや権四郎は我慢ならなかった。ゆっくりが気持ちいいという扇丸の助言もどこへやら、猛然と扇丸を突き立て始める。肉欲を初めて実体験した権四郎が扇丸の中で果てるのに、さほど時間はかからなかった。
桐島源心入道、鞍山禅師そして扇丸の中で果てた片山権四郎本人でさえ、扇丸の勝利に疑問を差し挟む者はいなかった。
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