9 / 10
第九話 弾正謀叛
しおりを挟む
「抜いたらダメだよ、おっちゃん」
肩で息をつきつつ扇丸が呟く。
「ほら、おいらのこんなになっちゃってるんだ。だから続けて?」
扇丸はそう言うと、梟聞坊の手を取って己が逸物を握らせた。扇丸のそれは、海綿体の隅々に至るまで充血し、小さいながらもはち切れんばかりに固く膨れていた。
「そなた……! まさか屹立しおるとは!」
動揺を隠すことが出来ない梟聞坊。
思い返してみれば並外れた大きさ、太さを誇る梟聞坊のそれは、男女問わずまぐわいに及んだときに苦痛のタネになるほどであった。
一度は主人と仰いだ寺社に忌避されるほどの凶相を湛える梟聞坊ではあったが、そんな彼も生まれながらの大悪人ではない。人並みに愛し、愛された経験がある。
相手を愛するがゆえにまぐわいに及び、逸物長大なるがゆえに相手に苦痛を与える。
身体的特徴がコンプレックスとなり、人格形成に影響を及ぼす事例など人の数だけあって、読者諸氏の間でもそのことについてよもや異論はあるまい。性器の形状となると尚更である。梟聞坊の場合も多分に漏れぬ。
梟聞坊にとってまぐわいとは、相手に苦痛を与える行為にほかならなかった。相手への愛情ゆえに勃起し、これを挿入したときに聞こえるのは嬌声ではない。苦痛を伴う呻き声と相場は決まっていた。
それまでの睦まじい仲が嘘だったかのように身をよじらせて梟聞坊から逃れようとする相手。巨根をねじ込まれる苦痛ゆえであった。
愛情というものを実際の行動に移した結果、相手に苦痛を与えることのなんで愉しいものか。
「俺は人を愛することも人に愛されることも出来ぬ」
梟聞坊は愛を自らの意思で封殺した。
しかし困ったことに、愛は封殺できても、内奥から湧き上がる性欲はどうにも抑えられないのである。梟聞坊ほどの業物となると、手練れの遊女ですら持て余すほどだったから、発散の場は主に戦場であった。
戦乱の巻き添えを食らって逃げ遅れた市井の人々を襲撃し、男であれば殺して奪い、女であれば獣欲の赴くまま有無を言わせず襲いかかった。
それは同じく性行為でありながら、愛情の具現化とは対極に位置する暴力そのものであった。
人を愛することを忘れ、人に愛されることがなくなった梟聞坊が、いつの間にか人をして目を背けさせるほどの凶相を帯びるようになったことは、当然の成り行きだった。
老境に至って発心し、頼った先の本寺でも凶相ゆえに冷遇された梟聞坊。神仏でさえも彼を見捨てたのである。
「お前は!」
梟聞坊が短く叫び、そして続けた。
「お前はそんなわしを受け入れるというのか!」
「おっちゃんがすごく良いところ突くから、おいらもしかしたら初めて子種が出るかもしれない。だから頑張って」
「うおぉぉぉ!」
梟聞坊が吼えた。それはまるで、若いころに自らの意思で封殺し、とっくの昔に亡んだとばかり思っていた愛情が、咆哮とともに溢れ出たものの如くであった。梟聞坊はぽっかり口を開いたままの扇丸のアナルに再び業物を突き立てた。
「来たッ! これいいッ!」
響く扇丸の嬌声。とても演技とは思われぬ。
「ああっ! 出るッ! おいら初めて出るよ!」
「わしもだ扇丸とやら!」
梟聞坊のピストン運動が止まった。腰を扇丸の尻に深く押し付ける。同時に、扇丸の尖端から子種が飛び出した。間欠泉の如く、その逸物が脈打つたびに二度三度と精を放つ扇丸。
ぬぽっ、と逸物を抜く梟聞坊。
「んあぁっ……」
扇丸がいきむと、梟聞坊の放った子種と共に直腸内壁が押し出されて真っ赤な花弁を咲かせた。
「大殿ご覧じろ」
鞍山禅師が指さす先には、光を失った両眼から滂沱たる涙を流す梟聞坊。
「勝負あったな」
桐島源心入道が宣告した。扇丸の勝ちで異論あるまいというのである。
「いかさま、此度もやはり敵を敵ではなくしてしまいました。大殿仰せのとおり、扇丸の勝ちで異論ございませぬ」
もはや誰も、扇丸の優勝に疑義を差し挟む者はいなかった。
遠くで軍馬の嘶きが聞こえる。その数は無数。次いで鬨の声。
源心入道の旗本衆が陣幕の内外をせわしなく走り回り、殺気だった怒号がそこかしこに響いていた。
そんな慌ただしい仕合場で執り行われる扇丸への顕彰の儀。
「見事であったぞ扇丸」
「あ……ありがとうございます大殿様」
顕彰されているというのに居心地の悪そうな扇丸。辺りをおどおどと見回すその表情に、恐怖の色が浮かんでいた。
「すまんな扇丸。この有様ではそなたを高禄で召し抱える約束も果たせる見込みがない。信義に悖る行いはもとよりわしの望むところにあらず。したがってわしは地獄へ墜ちるであろう。それを以てせめてもの慰めとせよ」
「大殿様、逃げようよ。おいら大殿様をどこまでもお守りするよ!」
「逃げる? わしがか」
源心入道は驚いたように目を剥き、次いで大笑しながら言った。
「逃げ出しても飢えて死ぬだけだから逃げないと申したのは他ならぬそなたではないか。その扇丸がいまになってわしに逃げることを勧めるとは、これぞ不思議の子細と申すべし」
そこまで言ってまた笑った源心入道。にわかに真顔に却って続けた。
「我が子是久がわしに挑もうというのだ。その采配のほどを見届けねばならぬわしが逃げてどうする。
扇丸。いまこそそなたに命じる。そなたの主として下す、最初で最後の命令だ。そなたは逃げよ。逃げて逃げて生き抜いて、この狂気に充ち満ちた戦乱の世に愛を遍く広めるのだ。分かったか」
そこまで言った源心入道の肩口に、何処かから飛来した一本の矢が突き立てられた。
「大殿様ぁ!」
涙混じりの扇丸の声が響いた。
肩で息をつきつつ扇丸が呟く。
「ほら、おいらのこんなになっちゃってるんだ。だから続けて?」
扇丸はそう言うと、梟聞坊の手を取って己が逸物を握らせた。扇丸のそれは、海綿体の隅々に至るまで充血し、小さいながらもはち切れんばかりに固く膨れていた。
「そなた……! まさか屹立しおるとは!」
動揺を隠すことが出来ない梟聞坊。
思い返してみれば並外れた大きさ、太さを誇る梟聞坊のそれは、男女問わずまぐわいに及んだときに苦痛のタネになるほどであった。
一度は主人と仰いだ寺社に忌避されるほどの凶相を湛える梟聞坊ではあったが、そんな彼も生まれながらの大悪人ではない。人並みに愛し、愛された経験がある。
相手を愛するがゆえにまぐわいに及び、逸物長大なるがゆえに相手に苦痛を与える。
身体的特徴がコンプレックスとなり、人格形成に影響を及ぼす事例など人の数だけあって、読者諸氏の間でもそのことについてよもや異論はあるまい。性器の形状となると尚更である。梟聞坊の場合も多分に漏れぬ。
梟聞坊にとってまぐわいとは、相手に苦痛を与える行為にほかならなかった。相手への愛情ゆえに勃起し、これを挿入したときに聞こえるのは嬌声ではない。苦痛を伴う呻き声と相場は決まっていた。
それまでの睦まじい仲が嘘だったかのように身をよじらせて梟聞坊から逃れようとする相手。巨根をねじ込まれる苦痛ゆえであった。
愛情というものを実際の行動に移した結果、相手に苦痛を与えることのなんで愉しいものか。
「俺は人を愛することも人に愛されることも出来ぬ」
梟聞坊は愛を自らの意思で封殺した。
しかし困ったことに、愛は封殺できても、内奥から湧き上がる性欲はどうにも抑えられないのである。梟聞坊ほどの業物となると、手練れの遊女ですら持て余すほどだったから、発散の場は主に戦場であった。
戦乱の巻き添えを食らって逃げ遅れた市井の人々を襲撃し、男であれば殺して奪い、女であれば獣欲の赴くまま有無を言わせず襲いかかった。
それは同じく性行為でありながら、愛情の具現化とは対極に位置する暴力そのものであった。
人を愛することを忘れ、人に愛されることがなくなった梟聞坊が、いつの間にか人をして目を背けさせるほどの凶相を帯びるようになったことは、当然の成り行きだった。
老境に至って発心し、頼った先の本寺でも凶相ゆえに冷遇された梟聞坊。神仏でさえも彼を見捨てたのである。
「お前は!」
梟聞坊が短く叫び、そして続けた。
「お前はそんなわしを受け入れるというのか!」
「おっちゃんがすごく良いところ突くから、おいらもしかしたら初めて子種が出るかもしれない。だから頑張って」
「うおぉぉぉ!」
梟聞坊が吼えた。それはまるで、若いころに自らの意思で封殺し、とっくの昔に亡んだとばかり思っていた愛情が、咆哮とともに溢れ出たものの如くであった。梟聞坊はぽっかり口を開いたままの扇丸のアナルに再び業物を突き立てた。
「来たッ! これいいッ!」
響く扇丸の嬌声。とても演技とは思われぬ。
「ああっ! 出るッ! おいら初めて出るよ!」
「わしもだ扇丸とやら!」
梟聞坊のピストン運動が止まった。腰を扇丸の尻に深く押し付ける。同時に、扇丸の尖端から子種が飛び出した。間欠泉の如く、その逸物が脈打つたびに二度三度と精を放つ扇丸。
ぬぽっ、と逸物を抜く梟聞坊。
「んあぁっ……」
扇丸がいきむと、梟聞坊の放った子種と共に直腸内壁が押し出されて真っ赤な花弁を咲かせた。
「大殿ご覧じろ」
鞍山禅師が指さす先には、光を失った両眼から滂沱たる涙を流す梟聞坊。
「勝負あったな」
桐島源心入道が宣告した。扇丸の勝ちで異論あるまいというのである。
「いかさま、此度もやはり敵を敵ではなくしてしまいました。大殿仰せのとおり、扇丸の勝ちで異論ございませぬ」
もはや誰も、扇丸の優勝に疑義を差し挟む者はいなかった。
遠くで軍馬の嘶きが聞こえる。その数は無数。次いで鬨の声。
源心入道の旗本衆が陣幕の内外をせわしなく走り回り、殺気だった怒号がそこかしこに響いていた。
そんな慌ただしい仕合場で執り行われる扇丸への顕彰の儀。
「見事であったぞ扇丸」
「あ……ありがとうございます大殿様」
顕彰されているというのに居心地の悪そうな扇丸。辺りをおどおどと見回すその表情に、恐怖の色が浮かんでいた。
「すまんな扇丸。この有様ではそなたを高禄で召し抱える約束も果たせる見込みがない。信義に悖る行いはもとよりわしの望むところにあらず。したがってわしは地獄へ墜ちるであろう。それを以てせめてもの慰めとせよ」
「大殿様、逃げようよ。おいら大殿様をどこまでもお守りするよ!」
「逃げる? わしがか」
源心入道は驚いたように目を剥き、次いで大笑しながら言った。
「逃げ出しても飢えて死ぬだけだから逃げないと申したのは他ならぬそなたではないか。その扇丸がいまになってわしに逃げることを勧めるとは、これぞ不思議の子細と申すべし」
そこまで言ってまた笑った源心入道。にわかに真顔に却って続けた。
「我が子是久がわしに挑もうというのだ。その采配のほどを見届けねばならぬわしが逃げてどうする。
扇丸。いまこそそなたに命じる。そなたの主として下す、最初で最後の命令だ。そなたは逃げよ。逃げて逃げて生き抜いて、この狂気に充ち満ちた戦乱の世に愛を遍く広めるのだ。分かったか」
そこまで言った源心入道の肩口に、何処かから飛来した一本の矢が突き立てられた。
「大殿様ぁ!」
涙混じりの扇丸の声が響いた。
0
あなたにおすすめの小説
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる