花野井一家の幸せ。

異世界転移

「これが世に言うフラグ…。」



感心しながら言うのは鈴蘭。
それに頷いて答えるのは雛菊。
２人は意外と順能力が高いのである。



「えっ、どっ、えっ、なに、どこ、どうなって、えっ、まって、」


「お母さん落ち着いて。とりあえず深呼吸しよう。」



前日言った通りパニックになった桔梗を落ち着かせているのは睡蓮。
睡蓮も順能力が高かった。



「よしよし、深呼吸深呼吸。うん、大丈夫ね。」



睡蓮はとんとんと桔梗を抱き締めて落ち着かせながら考える。
周りに人がいないなーと。
４人がいるのは砂利道ではあるが、前後に建物らしきものが全く見えないところだった。
何か車輪がついたものがとおったあとはある。
でも、４人がよく見るタイヤの跡ではなかった。
タイヤよりも明らかに細くて、タイヤの溝の跡も全くなかった。
強いていうなら昔少しだけ乗った人力車の通った跡によくによく似ている。
それにその跡と同じように馬のような生き物の足跡もたくさんあった。



「これ馬車っぽいよね。通ったの。」


「うん。馬車にしか見えない。」


「むしろそれ以外が思い付かない。」



三姉妹が冷静に状況を分析している近くで、桔梗はまだ深呼吸していた。



「お母さん大丈夫よ。だって皆一緒だもの。」


「そうだよお母さん。皆一緒だから怖くないよ。」


「うん。皆一緒だから安心安心。」



子どもたちに慰められようやく落ち着いた桔梗は、自分もしっかりしなければと自分を奮い立たせる。



「とりあえず、こんなに通った跡があるんだからよく行き来してるはず。」


「ということはそんな遠くないところに人がいるはず。」


「どっちかに進んでみよっか。」



三姉妹は早々に決定をだし、桔梗に方向を決めてもらう。
頼りにはならないが、信頼はしているのである。



「じゃあ、こっち！」



自信満々に桔梗が決めた方向に進み始める４人。
そしてものの数秒でその方向から荷馬車がやって来た。



「お母さんてなんかこういう運あるよね。」


「ね。人を見る目もあるのにね。」


「恋愛事だけからっきしだよね。」



三姉妹から同情の目を向けられている桔梗はそれには気づかずに、嬉しそうに荷馬車を指差していた。








「突然止めてしまってすみません。実は道に迷ってしまって…。よろしければ近くの街まで乗せてもらえませんか？」



睡蓮が申し訳なさそうに頭を下げながらお願いした。



「………。」


「………。」



明らかにこちらを見ているはずなのに動かなくなった目の前の男女。
60代くらいの夫婦らしき二人組だ。



「あの…無理は承知しています。後ろの隅の方で固まっています。なるべくお邪魔にならないようにするので、どうかお願いします。」



どうしたのだろうと疑問に思いながらも、睡蓮は再度頭を下げた。



「…あっ！いや！頭を上げてください！」


「そうです！私たちみたいなものに頭を下げてはいけません！」



よくわからないことを言われたが、頭を上げるように言われたので上げる。



「あの、お願いできますか？」


「もちろんですとも！」


「さぁさ！ここに毛布を敷いたのでこの上にどうぞ！」


「街にはすぐに着きますので、少々ご辛抱ください！」


「あの、えっ…ありがとうございます…。」



思わぬ歓迎ぶりに流石の睡蓮も少しパニックになった。



「「「ありがとうございます。」」」



３人もお礼を言ってから荷馬車にしか乗り込む。



「あの、街では働く場所があるでしょうか？」



睡蓮は荷馬車が走り出してから夫婦らしき２人に一番気になることを聞いてみた。
異世界転移を受け入れたとしても稼げなければ生きていけない。
町の大きさにもよるが、村ではなく街と言っているので多少なりとも働き口があるのかもしれない。



「え？働く？天使様たちが？」


「え？天使？」


「天からの使いですよね？」


「はい？」



この発言に４人は同時に一瞬頭が真っ白になった。
どういうことだ？と皆して目を合わせるが答えなんて出るはずもない。
まず、質問の意味がわからないのだから。
だが、この夫婦は本気で言っているようだ。



「あの…すみません、ちょっと意味がわからないのですが…。その、とりあえず私たちは人間です。」



なんだこの意味のわからない説明はとつっこみたいが、目が点になっている夫婦につっこんでいいものか迷う。



「え？人？人なんですか？私たちと同じ？え？」



今度は夫婦が動揺する番だった。
なんで動揺するのかも意味がわからないが。



「あの、人です。普通の。ちゃんと地上で生まれました。」



そう答えると夫婦はまた固まり、荷馬車も止まってしまった。
誰か助けて。誰かこの状況を説明して。
睡蓮は生まれて初めて頭を抱えるという行動をとってしまった。