花野井一家の幸せ。

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ヴィンセントの場合2

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私がユーフォルビア王国の第一王子として生をうけたのは18年前。
正妃の子として生まれた私は、次期国王になるために小さい頃から厳しい教育を受けてきた。
子守唄がわりに各国の名前や重要人物の名前を語られ、歩く頃には様々な外国語を周りで話され、離乳食に完全移行する頃にはナイフやフォークを持たされた。
もちろんマナーを守って使わなければならず、失敗しようものなら威圧するように睨まれる。
そんな風に育てられた私は、それでも必死に認められようと努力した。
3歳になる頃には毎日毎日本を読み漁り、剣術を極めるために体力作りをしていた。
そんな頃に側妃が出産したと聞いた。
知識やマナーなどを身に付けることに精一杯だった私は、懐妊していることさえ知らなかったからどこか他人事に思っていた。



「側妃の子は、それはそれは可愛らしい子どもだそうよ。」



珍しく私の部屋に来ていた母上はどこか興味なさそうに呟いた。
相変わらずぽっちゃりしていて細い目をしており、その美貌は衰えていなかった。



「子どもってそんなに可愛いのかしらね。メイドたちがはしゃいでいたわ。子どものいない私にはわからないのかしら。」



3歳ながらに、その言葉の意味を理解した。
厳しい教育が私の精神を発達させていたのかもしれない。
母上は確かに言ったのだ。
子どもがいない、と。
母上の中で私は無かったことにされていたのだと、そのとき初めて気づいた。



「あなた可哀想ね。そんなに醜かったら誰にも可愛がられないでしょう。お母様はどうしたの?部屋で1人でいるなんて、放っておかれているの?」



私のことを無かったことにしていても、さすがに目に余る言動。
きっと母上は壊れてしまったのだ。
見るに耐えない醜い子どもを産んでしまったから。
その事実をなくすように…やり直すように…。



「可哀想にね。生まれても醜かったら意味ないもの。私には子どもがいなくてよかったわ。」



そう言うと母上は部屋を出ていった。
その瞬間に涙が溢れる。
認めてもらいたくて、褒められたくて、愛されたくて…たくさんしてきた努力が無駄になった気がした。
生きることすら否定されるのか、ではなぜこんなに頑張らなければならないのか…そんなことを永遠と考えたが、王族教育に手を抜くことはしなかった。
いや、できなかった。
生まれた瞬間からこうして育てられたのだ。
違う生き方なんて知るはずもない。



「はは…ははは…。」



乾いた笑みをこぼしても、自国の王子が泣いていても、周りの使用人たちは見て見ぬふり。
関わりたくないと言わんばかりの態度だ。
そこで初めて、日頃言われて聞き逃していた言葉たちを思い出す。
「醜い王子」「王家の汚点」「化け物王子」…「こんなやつの側で仕えたくない」「化け物の言うことなんて聞きたくない」「王家の汚点と一緒なんて恥ずかしい」…………
あぁ、そうか。
生まれてこなければと思っているのは母上だけではなかった。
醜い王子が頑張ったところで褒められるはずも、認められるはずもない。
愛してもらおうなんてできるわけがなかったのだ。



「…滑稽だな。」



そう思ったら、不思議と涙がとまる。
ただ、心の何かがなくなるような感覚がした。



「それでも…。」



それでも私は…。
この生き方しか知らないから。
今さら変えろと言われてもわからないから。
だからこのまま生きよう。
死んでいるのか生きているのかわからない世界で、このまま存在するしよう。
いつか終わりの希望が叶うまで。




私は読みかけだった本の続きを読みだした。






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