花野井一家の幸せ。

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ヴィンセントの場合3

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時が経ち、私は13歳になった。
この日は遅すぎる護衛の着任の日だった。
今までは嫌がらせなのか無関心なのかわからないが、護衛がつくことはなかった。
見えないところで護衛している影の存在には気づいていたが、後ろに控えている騎士はいなかったのだ。
外に出ることもなかったし、ほとんど自室と中庭にしか行かなかったので困らなかったが。
それが突然、父である陛下が護衛をつけると言い出したのだ。



「お前も今年から王立学園に通うことになる。危険もあるので護衛をつけることにした。」



久しぶりの会話には、息子に話しかける優しい雰囲気などない。
並べられた30人の騎士たち。



「ここにいる者たちがお前の護衛騎士団になる。交代で専属に護衛をする者たちだ。」



並んでいる騎士は全員ふくよかで、見目麗しいものたちばかりだ。
あぁ、腹違いの弟には既についている専属護衛のことか。
あいつは生まれた瞬間からついているらしい。
側妃がどうしてもと陛下に望んだようだった。
3つ違いの弟は10歳になり、ますます美しくなっている。
周りから蝶よ花よと大切にされ、すくすくと育っているようだ。
側妃が特に可愛がっており、容姿が普通の自分から美しい天使が生まれたことが自慢らしい。
甘やかされて育てられたにも関わらず、性格も明るくて誰にでも分け隔てなく接する優しい王子らしい。
私にも着いている使用人がこそこそと話していた。
たまに弟とすれ違うと、兄上と無邪気に寄ってくる。
周りの使用人の表情にも気づかずに。
天使が化け物に近寄った、天使が穢れてしまう、言葉にされなくても伝わった。
私自身もそう思っているので、できれば近づいてほしくない。
それでも会うたび寄ってくるので、私は弟が苦手になった。



「学園に通うにあたって、常に1人だけは側につけていることになる。今日はその相手を選べ。」



陛下がそう言った瞬間、騎士たちからは嫌そうな雰囲気が流れる。
王子の護衛になるのは名誉なことだ。
当然給料もよくなる。
だが、護衛にはなりたくても常に一緒は嫌なのだろう。
醜いものと一緒なんて…それは嫌に決まっているだろう。
そんな雰囲気を気にすることなんてない陛下をチラッと見てから、並んでいる騎士たちを見た。
すると、全員ふくよかかと思っていた集団の中から筋肉質であろう騎士を見つけた。
鎧を来ていてもわかるがたいのよさ、きっと身体も相当筋肉質で引き締まっているだろう。
初めてみた自分と似た体型よりも、その騎士の見た目に驚いた。
ぱっちりとした二重に高い鼻筋、大きめの唇…私と同じような醜いものに言葉を失った。
初めてみた…私と同じように醜いものに…。
でも…その騎士は私のように絶望を瞳にうつしてはいなかった。
堂々と胸を張り、しっかりと前を見据えているその姿はまさしく騎士だった。



「…この者にします。」



ほとんど直感で選んだ相手。
でもこの直感は正しいだろうと、そう思えた。



「わかった。そこの者、前へ。」


「御意!」



真っ赤な髪に、真っ赤な瞳を持ったその騎士は綺麗に礼をとる。



「コンラッド・ジェンソンと申します。この度は殿下に選んでいただき、光栄に存じます。」



私の前に膝をついて挨拶をするその騎士は、声までも自信に満ちていた。



「あぁ、コンラッド。これからよろしく頼むよ。」


「命に変えましても、必ずお守りいたします。」



深々と頭を下げているコンラッド。
その声は偽りなく、本音を言っているように聞こえた。
他の騎士たちはあからさまにほっとしており、コンラッドに対しては蔑むような目を向けている。
やはり同じなのだな。
同じように苦しい環境で生きてきたのだな。
そう思うと、久しぶりに呼吸がしやすくなった気がした。



「期待しているよ。」


「必ずや期待に応えて見せます!」



これが唯一の親友との出会いだった。







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