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始まりの日と終わりの日
しおりを挟む──あの時から始まっていたのか。
恋七は意識が朦朧とした自分に向かって、涙を流して微笑いながら一言呟いて消えた。
「ごめんね。──志音。」
2341 12/22─────────
強い雨が降っている。余りにも飾り気が無い雨。
立った一人その雨に『施設』の中心部で打たれている。
自分の名前さえも知らない少年。記憶が無くなった少年。
雨を髪の毛から垂らしながら、棒立ちで下を見る少年のその瞳は虚無感は記憶の消失を物語っていた。
「――おん、志音、志音!」
激しい雨の中、泥を跳ねさせながらただひたすらに、その少年に駆け寄って行く淡青色の髪の色の少女がいた。
その少女は何度も泥濘に足を持ってかれながらも一生懸命、人の抜け殻に向かって行く。少女がその場から動かない少年に着くのは早かった。着くや否や、少女は濡れた腕で彼の腕を引っ張り、
「志音!早く行くよ!」
と少年の後頭部に向けて叫ぶ。しかし引っ張るも彼は微動だにしない。ただ雨に打たれ続け、下を見つめる目に生気が篭っていない彼の姿を見て少女は違和感を覚えた。
「何かあったの?」と少女が聞く前に、
「…ンは、だ……スカ?」
と、少年は沈黙破り、か細い声を出し、首をゆっくりと小さく少女の方に傾ける。強い雨にかき消され、途切れ途切れしか聞こえなかった彼女は聞き返す。
「今何て……?」
掴まれた志音の腕に、皺が出来るほど力が入る。不安と恐怖で満たされた彼女は固唾を飲み、どんな能力の代償であってもいいように覚悟を決める。彼は少女を見ながらもう一度口を開け、音の聞こえない息を吸うと、
「ジブンは…ダレですか?」
片言ながら言葉を出した。その場の時が止まり、雨が地面に打ち付ける音だけが、二人の耳をこだまする。
リボンが解けるように、握っていた志音の腕から落ちる。
地面を踏んでいる感覚を奪われ、いや、五感が全て奪われたような衝撃が彼女を襲った。
いつの間にか後ろに数歩よろけ、志音から離れていく。
「何で…?──どうして?」
頬を水滴がつたう。つたった水滴が雨だったのか、涙だったのかは分からない。ただただ彼女は結果に満足出来ていなかった。
「必ず…救うって言ったのに…っ。救ったはずなのに。」
彼女は彼に聞こえないように数歩下がり、空に向かって小さな声で言った。雨が1滴、彼女の顔にぶつかるといつの間にか志音の隣には無表情の白髪の少年が立っていた。
「………………っ!」
彼女と目が合い、白髪の少年は小さく口を開く。
「記憶は?」
彼女は首を横に振って応える。
「そうか。」
白髪の少年は納得をすると手のひらを彼から見て横を向いている志音の顔の前に持っていき、
「この時が約束の時か──志音…。」
と、淡々と言い放つ。その光景を見ると、何かを察したのか少女が志音の方へ急いで向かっていく。足元の泥をはねさせながら向かって行く。
「今度は必ず…っ。」
──今度こそ、今度こそ、今度こそ、今度こそ。
走り始めてから数十秒経った。でも、少女は彼に一向に近づかない。ずっと走っているのに、近づけない。
「─────何で、何で近づけないの…!?まさか…!」
すかさず白髪の少年が少女の方を向き、答えた。
「そうだ、僕の能力だ。」
雨が強くなる。相手の力に破れ何も出来ない少女を嘲笑うかのように。髪から、顔から、眼から水滴が落ちてくる。
志音は下を見ながら、白髪のにそっと話しかけた。
「自分は…死ぬのか?」
その問いに対し、白髪の少年は悲しそうに目を逸して答えた。
「ああ、責任は僕にある。」
と。志音の周りを囲むように青く眩しい光が覆う。少年の手の動きに合わせ、段々地面から空中に浮いていき、志音は光と共に宙に浮かぶ。
「待って…待ってっ!」
少女はまだ諦めていなかった。遠く先から志音に向かって話し掛ける。
「志音、行かないで。また会えたのに、約束を破ってここに来たのに…。」
彼女の声が届いたのか分からない。何故なら白髪の少年が手を握ると同時に、光が消え、中にいた少年も消してしまったからである。白髪の少年は、志音が先程まで浮かんでいた場所を見つめると、
「これでいいんだな。───志音。」
と、何処か寂しげに呟いた。
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