来ない未来、行く過去

勇気

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1章──消えた記憶の中で

命の優先順位

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志音視点 12:00 住宅街─────

自分の名前は志音と言うらしい。名字は分からない。記憶を数分前に無くしている。まだ自分の顔さえ知らない。服装は至ってシンプルな青い病衣みたいな感じだ。

青い光に包まれ体感数分。もしかしたら数日経っているのかもしれない。目が覚めると目の前にあったのは葉が枯れ落ちた街路樹だった。なぜ自分がここに移動しているかは分からない。
溜息を漏らすと同時に風が吹き荒れ、地面の模様となっていた葉が綺麗に頭の上を舞う。舞っていく葉を首を上に傾け目で追いながら、今自分のすべきことを頭に浮かべる。

「自分はどうすれば…」

前にあった葉が風に視界の外の連れて行かれ、体感十五分ほど。どうすればいいか迷っていた自分は元の場所に帰ることに決めた。
しかし問題がある。記憶の無い自分にとってみればこの場所もさっきの施設っぽい場所もどこか分かる訳がない。仮にあの施設の場所を知っていても、この住宅街がどこだかが分からなければ行けるはずも無い。
よってどっちも場所が分からなければ戻る事は出来ないという問題。
取り敢えず戻る為には、あの施設とこの住宅街の場所を知る必要があるっていうことだ。

「どうすればいいん───。」

「───君か?」

独り言を割って入ってきた声は鋭いが、どこか優しげのある声だった。振り返って声の正体を確認しようと思った時には既に遅く、

「動いたら殺すから。」

と声の優しさが消え、脅される。何を言っているんだコイツは。理解ができない。声の主の顔さえ見ることさえできずに、僅か数秒で相手に生殺与奪の権を握られた。
自分の記憶が覚醒してから多分数分ほどしか経っていない。
経っていて十数分だ。
それなのにもう死ぬのか。余りにも短すぎる一生だ。救いのない一生だ。
そんなのっ、

「そんなの嫌だ…!おかしいだろ、目を覚した瞬間知らない男にこんなことろに飛ばされて、突然背後を取られて、殺されるって言われて!自分が何をしたって言うんだよ。『前の自分』が何かしたのかよ、それじゃあ自分は関係ないじゃねぇかよ‼だから、何でもするから助けてくれよ、見逃してくれよ…。靴を舐めろって言ったなら靴を舐めるし、人を殺せって言ったら人を殺すから!だから、、お願いです。命だけは、命だけはどうか奪わないで下さい。」

手に汗を握って、全てを吐いて、頭を下げて、そして気づく。
自分はクソ野郎なんだって。ここで「何でもする」って約束して、これから満足するような人生を歩めるのか。約束した相手は突然命を狙ってくるヤバい奴なのに。

「──今何でもするって言ったのか?いいよ。それじゃあ俺に君を殺させてくれ。」

───は?殺、す?人の話しを聞いてなかったのか。命を奪わないて下さいって。頭が真っ白になる。

「待ってくれ、助け──。」

「──サヨナラだ。紫志音、災いの元凶。」

嫌だ、嫌だ、自分はまだ…。死ぬ時に見れると言う走馬灯さえ見れなかった。最悪だよ、ホントに。この体でもう一回、子供の時からやり直せたら。一から自分として産まれてたら。
絶望という感情に満たされていた時だった。

「───志音!」

「動いたら殺す」と言われても流石に目線を首ごと上にに向けてしまうような尖っている声だった。どうやら相手も驚いた様で自分が動いたのに殺されることはなかった。
自分の名前を呼んだ声の発生源は目の前にあった赤いの屋根からから落下してくる。目を覚した自分が初めて見た人間、淡青いろの髪をした女であった。どうやって屋根に登ったんだよ。
男と目があってしまった。背筋が凍る程恐ろしい目つきだった。男の顔は一般的に見るとソコソコのイケメンぽいが、怒っている為よく分からない。
男は、女に頬を凄い勢いで殴られると、頬を抑えながら唾を地面に吐く。

「痛えよぉ…それにしてもオカシイと思ったんだよ…こんな所に独りで来るなんてさぁ。やっぱり仲間と来ていたか。独りのうちに殺しとくべきだった。だが二人いるから何だぁ?
どっちも弱えことには変わらないだろうがよぉ!」

キッとした顔で叫んだ男の声に、周りの鳥が驚いたのか鳴きながら空を飛び交う。
仲間?って言ったのか。この女は「前の自分」の仲間らしい。コイツ《敵》が言ってるのはなおのこと、助けに来てくれたならそうなんだろう。女が仲間だったら闘うことを忘れている、闘うことの出来ない自分をここから遠ざけてくれるはずだ。
それはいい。

「コイツを囮にして逃げる、神様が与えてくれたたった一度きりのチャンスだ。」

今自分はきっと悪役じみた顔をしていると思う。
一人の幸せは何人もの不幸せの上に成り立つものだ。
モテている女子に告白された奴は幸せだが、当然告白されなかった奴は不幸せだ。そしてソイツは幸せ者を憎み、争いに発展する。この世の数少ない絶対的法則《ルール》。
この状況で自分がヒーローだったら悪を滅ぼし、全員を救うことも出来るかもしれない。誰も不幸せにならず、全員が幸せになることの出来る…。
でも自分は違う。
人を犠牲にして、自分のことを最優先にする。
ヒーローなんかじゃない、立派な自己中心主義のクソ野郎だ。
いつの間にか目の前での闘いはヒートアップし始め、自分には追いつけないスピードで闘っている。コレも能力か何かなのか?
自分の固まった身体を見て仲間《囮》がコチラに言葉を届けてきた。

「志音!逃げて!」

予想通り、お前は最高だ。後は自分が逃げるまでの時間を稼いでくれよ。固まっていた足で地面を蹴って、急いでその場から走り去る。
ここがどこだか分からない以上、適当に行くしか無い。
塀に間の道、でかい家の前、、と道を右に行ったり左に行ったりする。この先鬼が出るか蛇が出るか、この二つだったら蛇が出てくれと願う。

「ハァ、ハァ…ここは右か。」

一本道を抜け、曲がり角の電柱に手のひらを付ける。電柱につけてない方の手で足を「動けよ」と念じながら叩く。
ここで止まっちまったらあの女の犠牲が無駄になっちまうだろ。全員不幸せになってどうするんだ。また走るしかないだろ…!体力が気合で回復した気がした。再び走り始めようと曲がり角の先を見た時だった。

「────────っ⁉」

あまりの光景に息を詰まらせる。回復した体力が一気に削られる。

「うっ…………」

電柱に犬の尿みたいに嘔吐物をばらまく。立つことさえも出来ずに流れるままに地面に腰をくっつけてしまう。どういうことだよ、コレ。足が、手が、体が寒気と恐怖で震えてくる。
アイツがやったのか。無数の屍が道を余すことなく埋め尽くしている。

「人間のやることじゃない…」

手前にある屍は白目を向き、顔には涙がつたった跡がある。助けてくれと願ったのだろうか。薬指には眩しく光を反射する指輪があった。
身体には自分がくぐれるほどの穴が空いており、腸がむき出しになっている。どうやったらこんな死体になるんだよ。。
そして何故誰も通報しようとしない。もしかしたら、既に通報したのかもしれない。こんな化物、警察でも手におえないだろう。一本道だったから後ろにも戻れないし、早くこの場から離れたくて突き進もうと思った時聞こえないはずの声が聞こえた。

『助け、てくれ…まだ死にたく…な』
『私を助けてくださ…』

何処からか聞こえる声は、かろうじて生きてる転がった屍からだった。地獄のようだった。凄く掠れた断末魔だった。ここにはアイツ《敵》はいないだから、──助けないと。そう考えた。そう考えたはずなのに。最初に動いたのは、手でも足でもなかった。口だった。

「自分はキミ達を助けたい。でも自分は、自分はヒーローじゃない…。偶然ここを通りすがっただけの少年だ…。だから、だから…!自分はキミ達を助けることはできない…。」

乾いた唇から無理矢理出したその言葉は全く理論が通っていないし、自分の助かりたいが故の言い訳だって自分でも分かる。
でも自分だって助けたい。でも助けているのに時間がかかってしまったらアイツがやってくる可能性もある。

──ソウダ、ダカラシカタナインダ。

自分が生きる道と、誰かが助かるかもしれないけど自分が死ぬ道どっちを選ぶ。
勿論、前者に決まってる。ここまで捨てて来たんだから、迷いはもうない。
決心がついた自分は迷いもなく屍だらけの道を真っ直ぐに突き進んだ。倒れている亡骸の間を、赤い水溜りを踏みながら。
もしかしたらまだ救える命が有ったのかもしれない。
走っても走っても死体。数は減っても死体は視界に入ってくる。
足の跡が走ってきた道を「戻ればまだ救えるよ、間に合うよ」と教えてくれる。だが戻ることはしなかった。
……………………………………

………………………

………………

アレからどれだけ走っただろう。最初は道を埋め尽くしていた屍は減っていき、数十メートルに一人程度になった。
数時間走り、走るスピードも減速していき、今では歩きの約一・一倍程度の速さだろう。ここまでくればきっとアイツは追ってこないと思っていた時だった。

「し、おん?なのか」

横の死体から自分の名前を呼ぶ掠れた声が聞こえた。進行方向を前から横に変え、駆けつけ、横に着くと、地面に正座をし、知らない人の血まみれ体を膝から上に乗せ、首を手で支える。今の自分には「前の自分」について知りたい疑問があった。
自分を呼んだこの人は自分と変わらないくらいの年代で右腕が無く、右足は潰れていた。喋ろうとして口を開けると、血の海があった。彼は既にある血の溜まり場に血を吐き出し、和らいだ表情で耳を疑う発言をした。

「志音。お前に全部託す。僕を殺せ。」

は?どういうことだ…。ますます困惑する。
お前は誰なんだよ、「前の自分」を知っているのか?
自分は困惑していた顔をしていたらしい。前にいる人は自分の顔を見ると、隠しきれないほどの焦燥感に駆られ始めた。

『何故殺さない?志音。記憶が無くなったのか…⁉恋七がやったのか…』

こんなに早く答えに辿り着くなんて、記憶が無くなるのは珍しくないのだろうか。でもおかげで、記憶が無くなった時の説明が省けた。後は、質問するだけだと思った時だった。彼の下にあった血の水溜りが急激に面積を増やし始めた。彼は隣の死体が握っていたナイフを自分の腹部に取っ手が見えなくなるところまで深く刺した。

「うあぁぁあぁぁああ!」

喉が壊れるほどの絶叫。落ち着くまでどれくらい時間が経っただろう。血は広範囲に広がり、自分の膝から下は赤に染まる。体を地面に落とし、両手で止血をする。傷に被せた両手の隙間という隙間から血が溢れだす。くそっ止まれ!

「なぁ?答えてくれよ。自分は何なんだ。前の自分は何だったんだよ?何で命を狙われる?何故災いの元凶だなんて言われるんだ。なぁ、答えてくれよ」

「お前なら、やっていけるさ。自分を不幸にしてでも…」

傷を抑えていた両手に微かに感じていた心臓の鼓動が感じなくなった。自分のことが何も分からなかった。自分の為に助けようとした罰だったのか。それとも、皆を見捨てた罰だったのか。

「あぁあああぁあああ!!」

自分の叫び声は儚く、散っていった。
















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