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CASE01 「盛り塩」
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「....ハァ、ハァ.....ッ!!」
寝ている彼女の寝息が荒くなっていき、やがて安定して睡眠のできる緊張度の限界を迎え、飛び起きる。
額からは大量の汗が滲んでいて、枕にもしっかり染み込むほどだった。
上半身を起こしている彼女は手で顔を覆っている。覆った手の指の間から覗く見開かれた彼女の眼は酷く充血していた。その眼力は狂わしいもので、見ている者を狂気に陥れる勢いであった。
息を整えると、若干の冷気を感じた。その方向を見ると、襖が中途半端に開かれている。
ー おかしいな....私、ちゃんと閉めて寝たはずなのに.....。
閉め忘れだろうか、ブランケットをめくり布団から出て、やつれた体で立ち上がる。
トテトテ、おぼつかない足取りで襖を閉めに行く。段々と冷気が強くなる。
春だというのに随分と冷たい風が吹くのね、彼女はそう思って襖に手を掛け、閉める。
ー はぁ...、まだこんな時間。もうひと眠りしましょう....。
時計の針は三時を指す。
彼女は布団へ戻り、ブランケットをかぶり眠りにつく。
鳥の囀りと共に目を覚ますと、時計の針は午前7時を指していた。
空は晴天、外に吹く春風、心地よい目覚めのはずだが、彼女の心は曇っている。
布団から起き上がり、きれいに畳む。さて、顔を洗おうかという時、気が付く。
ー ッ.....!!襖があいてる......!!
昨日確かに閉めた襖があいているのだ。
実はこのようなことは一度目ではない。過去に何度もあった。
誰かに覗かれるような気配、不気味な足音や声、連日続く悪夢....。これら全ての現象が何度も彼女が一人でいるときに何度も起こっている。
もう限界だ。彼女はそう感じ、身支度を済ませ家を出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
場所は変わり、彼女はとある研究所に来ていた。
インターネットで調べたところ、怪奇現象を研究、または解決してくれるというのだ。
扉をたたくと、男が出迎える。
とりあえず、と客室のような場所に案内され椅子に座り、用件を話した。
「なるほど、さぞお辛かったでしょう....」
目の前の男、火黒は不可思議な現象に悩まされている彼女に共感を示す。
「あの、本当に解決していただけるのでしょうか...?」
「もちろん、ご安心ください。原因を突き止め、健やかな生活を過ごせるようにします」
火黒はさも当然であるかのように無表情で約束をする。
胡散臭い。依頼主である彼女は正直にそう思ったであろう。
町はずれの草原に不自然に建つセメント造りの研究所、というより家。
そこの所長兼家主である“火黒”と名乗る男性。
身長はやや高め、体の線が細めの全身黒コーデで、服装とは対照的な白髪が印象的な男だ。顔は、やや良い。
彼女を所内に迎え入れた時から笑顔がなく、低い声に抑揚が無いため不愛想だと思ったのが第一のそれだ。
「胡散臭いと思ったでしょう」
「えっ....、そんなことは.....」
自分が思っていた事をピンポイントで当てられた彼女は動揺し、どう否定し機嫌を損ねないようしようかと考える。
「別に信頼して欲しいわけではない。貴女もこちらの顔色を窺う必要もない、私は窺われるほど大した人間でもないので...」
火黒は慣れた口調で言い放つ。
その言い様にむっとした彼女は眉を寄せ、眉間に皺を作る。拳にも若干の力が入っているのが見て取れた。
「貴女にできることは捜査の協力、といっても私の質問に答えるだけでいい」
彼の態度に明らかに腹が立っている彼女に全く気に留めず淡々と言う。
「一人で家にいる際、声を聴いたと仰っていましたがなんと喋っていましたか?」
早速問答が始まった。
質問に対し、怒っているためか口調が荒くなりつつも彼女は回答する。
「しっかりとは聞こえなかったけど、私には“チガウ”と言っているように聞こえました」
なるほど。声を発した霊と思われるものは何かを否定している。
なにを否定したいのか。生前に起こったこと?
いや、生前でなくとも現在起こっていることに対しての否定というのも線として捨てることはできない。
では、その否定は誰に対してか。
「では、貴女は何が“チガウ”と思いますか?」
当事者である彼女に対し率直に聞いてみる。
「知るわけないじゃないですか....っ、わからないからこうやって相談しているんです...!」
「知りたいですか?何が違うのか」
「私は気味の悪いことが起こらなくなったらそれでいいの!お願いですからどうでもいい問答は辞めて早く解決して!ほら、お祓いとかできるんでしょう?!」
どうでもいい問答、と切って捨てられる。
彼女はこの質問をどうでもいいと解釈しているようだが、火黒にとってはそうでない。
「........なるほど」
少しの沈黙の末、合点の一言。
よくある話だった。“あちら側”のメッセージをこちら側の者は理解しようとするのを恐れる。
原因はそこにもありそうだな....。
「まずは何が“チガウ”のか解明していきましょう」
火黒はそう言って座っていた椅子から腰を上げる。
「解明...?お祓いとかじゃないんですか?」
火黒の言った単語に彼女は反応を示す。
「なにかご不満ですか?」
「当たり前でしょうっ、先ほどから私の意思を汲み取ってくれない....!」
事を急ぐ彼女とは対称的な火黒の態度に明らかな怒りをぶつけてくる。
彼女からの怒りが伝わってくる。
なぜ、どうして、きいてくれ、ちがうんだ、と。
「貴女が私に怒りをぶつける感情、理解できます。その感情は正しいものだ」
焦り、恐怖、苦しさを抱く者は心に余裕がない。
その感情は一般的なものであって、典型的なものだ。
言語を持つ人間なら誰しもが抱く。そう、“誰しもが”。
「きっとそういった感情を抱いていると思いますよ、“その方”も」
「....え?」
彼女は火黒の言った言葉の意味が理解できなく、素っ頓狂な声を出す。
「今はその意味が分からなくても構いません。では、実際に貴女の家に伺い異常現象の原因となるものを探しに行きます。ご案内願います」
自分の意思を汲み取ってはくれないものの、とんとん拍子で事が運ばれていく。
淡々と原因を特定しようとしている火黒の姿に、無駄のない人間性といった特徴を感じる。
言われるがまま彼女は家に案内した。
寝ている彼女の寝息が荒くなっていき、やがて安定して睡眠のできる緊張度の限界を迎え、飛び起きる。
額からは大量の汗が滲んでいて、枕にもしっかり染み込むほどだった。
上半身を起こしている彼女は手で顔を覆っている。覆った手の指の間から覗く見開かれた彼女の眼は酷く充血していた。その眼力は狂わしいもので、見ている者を狂気に陥れる勢いであった。
息を整えると、若干の冷気を感じた。その方向を見ると、襖が中途半端に開かれている。
ー おかしいな....私、ちゃんと閉めて寝たはずなのに.....。
閉め忘れだろうか、ブランケットをめくり布団から出て、やつれた体で立ち上がる。
トテトテ、おぼつかない足取りで襖を閉めに行く。段々と冷気が強くなる。
春だというのに随分と冷たい風が吹くのね、彼女はそう思って襖に手を掛け、閉める。
ー はぁ...、まだこんな時間。もうひと眠りしましょう....。
時計の針は三時を指す。
彼女は布団へ戻り、ブランケットをかぶり眠りにつく。
鳥の囀りと共に目を覚ますと、時計の針は午前7時を指していた。
空は晴天、外に吹く春風、心地よい目覚めのはずだが、彼女の心は曇っている。
布団から起き上がり、きれいに畳む。さて、顔を洗おうかという時、気が付く。
ー ッ.....!!襖があいてる......!!
昨日確かに閉めた襖があいているのだ。
実はこのようなことは一度目ではない。過去に何度もあった。
誰かに覗かれるような気配、不気味な足音や声、連日続く悪夢....。これら全ての現象が何度も彼女が一人でいるときに何度も起こっている。
もう限界だ。彼女はそう感じ、身支度を済ませ家を出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
場所は変わり、彼女はとある研究所に来ていた。
インターネットで調べたところ、怪奇現象を研究、または解決してくれるというのだ。
扉をたたくと、男が出迎える。
とりあえず、と客室のような場所に案内され椅子に座り、用件を話した。
「なるほど、さぞお辛かったでしょう....」
目の前の男、火黒は不可思議な現象に悩まされている彼女に共感を示す。
「あの、本当に解決していただけるのでしょうか...?」
「もちろん、ご安心ください。原因を突き止め、健やかな生活を過ごせるようにします」
火黒はさも当然であるかのように無表情で約束をする。
胡散臭い。依頼主である彼女は正直にそう思ったであろう。
町はずれの草原に不自然に建つセメント造りの研究所、というより家。
そこの所長兼家主である“火黒”と名乗る男性。
身長はやや高め、体の線が細めの全身黒コーデで、服装とは対照的な白髪が印象的な男だ。顔は、やや良い。
彼女を所内に迎え入れた時から笑顔がなく、低い声に抑揚が無いため不愛想だと思ったのが第一のそれだ。
「胡散臭いと思ったでしょう」
「えっ....、そんなことは.....」
自分が思っていた事をピンポイントで当てられた彼女は動揺し、どう否定し機嫌を損ねないようしようかと考える。
「別に信頼して欲しいわけではない。貴女もこちらの顔色を窺う必要もない、私は窺われるほど大した人間でもないので...」
火黒は慣れた口調で言い放つ。
その言い様にむっとした彼女は眉を寄せ、眉間に皺を作る。拳にも若干の力が入っているのが見て取れた。
「貴女にできることは捜査の協力、といっても私の質問に答えるだけでいい」
彼の態度に明らかに腹が立っている彼女に全く気に留めず淡々と言う。
「一人で家にいる際、声を聴いたと仰っていましたがなんと喋っていましたか?」
早速問答が始まった。
質問に対し、怒っているためか口調が荒くなりつつも彼女は回答する。
「しっかりとは聞こえなかったけど、私には“チガウ”と言っているように聞こえました」
なるほど。声を発した霊と思われるものは何かを否定している。
なにを否定したいのか。生前に起こったこと?
いや、生前でなくとも現在起こっていることに対しての否定というのも線として捨てることはできない。
では、その否定は誰に対してか。
「では、貴女は何が“チガウ”と思いますか?」
当事者である彼女に対し率直に聞いてみる。
「知るわけないじゃないですか....っ、わからないからこうやって相談しているんです...!」
「知りたいですか?何が違うのか」
「私は気味の悪いことが起こらなくなったらそれでいいの!お願いですからどうでもいい問答は辞めて早く解決して!ほら、お祓いとかできるんでしょう?!」
どうでもいい問答、と切って捨てられる。
彼女はこの質問をどうでもいいと解釈しているようだが、火黒にとってはそうでない。
「........なるほど」
少しの沈黙の末、合点の一言。
よくある話だった。“あちら側”のメッセージをこちら側の者は理解しようとするのを恐れる。
原因はそこにもありそうだな....。
「まずは何が“チガウ”のか解明していきましょう」
火黒はそう言って座っていた椅子から腰を上げる。
「解明...?お祓いとかじゃないんですか?」
火黒の言った単語に彼女は反応を示す。
「なにかご不満ですか?」
「当たり前でしょうっ、先ほどから私の意思を汲み取ってくれない....!」
事を急ぐ彼女とは対称的な火黒の態度に明らかな怒りをぶつけてくる。
彼女からの怒りが伝わってくる。
なぜ、どうして、きいてくれ、ちがうんだ、と。
「貴女が私に怒りをぶつける感情、理解できます。その感情は正しいものだ」
焦り、恐怖、苦しさを抱く者は心に余裕がない。
その感情は一般的なものであって、典型的なものだ。
言語を持つ人間なら誰しもが抱く。そう、“誰しもが”。
「きっとそういった感情を抱いていると思いますよ、“その方”も」
「....え?」
彼女は火黒の言った言葉の意味が理解できなく、素っ頓狂な声を出す。
「今はその意味が分からなくても構いません。では、実際に貴女の家に伺い異常現象の原因となるものを探しに行きます。ご案内願います」
自分の意思を汲み取ってはくれないものの、とんとん拍子で事が運ばれていく。
淡々と原因を特定しようとしている火黒の姿に、無駄のない人間性といった特徴を感じる。
言われるがまま彼女は家に案内した。
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