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第3話 初めての異世界探索(1)

【解析の指輪】で調査した結果、今まで全く見当もつかなかった武具や魔術道具マジックアイテムの効果が判明した。
僕は確かに魔術師としては新米に過ぎない。だが効果のわからない武具や魔術道具マジックアイテムを身に着けるほどおろかではない。所有者以外の者が触れると、凶悪なのろいが発動する魔術が織り込まれていることなどざらだ。さらに兄さんは自他共に認める呪術の天才。とてもじゃないが危険を冒してまで効果を確かめる気にはならず、ずっと倉庫に眠らせていたわけだ。だがこの指輪の『解析』というチート能力のおかげで、多数の武具や道具を最大限利用することができるようになった。
しかし流石は兄さん、稀代きたいの錬金術師にして、伝統ある楠家の次期当主だっただけのことはある。信じられないくらい強力な武具がゴロゴロ出てきた。
まず、異世界と言えばファンタジー。ファンタジーと言えばやはり剣である。現代魔術では補助的な役割しか担わないものの、兄さんの残してくれた武具に丁度よいひと振りがあった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【ルイン】
魔銃剣。MPを消費し、つばから魔弾を放出できる。
★性能:剣――筋力+50 銃――所持者の魔力に依存
★魔力+50
★命中補正:僅かな狙いのずれを修正する。
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血のように赤い透き通った長い刀身、銃口が付いた鍔、つかには引き金トリガーがある。美術品としても超一級品だ。
僕の予想では、この武器の最大の特性は、銃としての性能が所持者の魔力に依存することにある。
確認のため、この項目を詳しく解析してみる。

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【魔力依存型飛び道具】
打撃性武器の威力は使用者の筋力と武器の性能値の合計となる。飛び道具は通常、武器の性能値
のみで威力が決定する。しかし魔力依存型飛び道具は威力が所持者の魔力に比例する。
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つまり【ルイン】は僕の成長に応じて威力が増すということだ。しかも魔力の増加効果まである。魔術が使えず飛び道具がない僕としては願ったり叶ったりである。
次いで、防御系の魔術文字ルーンが織り込まれた黒のズボンとジャケット、それに俊敏性を増強させる魔術文字ルーンが編み込まれている靴だ。

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【黒術衣】
魔力が編み込まれ呪術で補強され、耐久力と魔力耐性が著しく増強された黒衣。
★性能:耐久力+40 魔力耐性+40
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【駿靴】
魔術により装備者の俊敏性を著しく増強させる効果を持つ靴。
★性能:俊敏性+40
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続いて魔術道具マジックアイテム。赤色の液体が【HP回復薬ポーション】。緑色の液体の【MP回復薬エーテル】。魔術師となるはずでなかった僕だが、これらは父さんの言いつけで子供の頃から毎日のように作らされてきた。

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【初級HP回復薬ポーション
HPを100回復させる薬。
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【初級MP回復薬エーテル
MPを100回復させる薬。
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テーブルの上には、多量の食料が山積みとなっている。【万能の腕輪】は触れさせた物を収納できる仕組みで、出すのは名前を念ずるだけ。非常に簡単だ。
買い込んだ食料、【HP回復薬ポーション】一〇〇個、【MP回復薬エーテル】一〇〇個を腕輪に収納し、用意は万端。【ルイン】の魔弾であの大蜘蛛を倒せると判明したら、本格的なレベル上げを開始しよう。

   ◆◆◆

再度、僕は異世界へ旅立つ。
丸裸状態の僕でも逃げ切れたのだ。完全装備の今なら倒せると信じたい。
発光するニット帽を被り直し、慎重に周囲に気を配りながら歩を進める。
三〇メートルほど進んだあたりで、カサ、カサと何かが地面をう音が聞こえた。十中八九、あの巨大蜘蛛だ。だが僕は驚くほど冷静だった。
魔術師の子息の通う学校は、魔術を使えない一般人にとっては猛獣がいるおりの中に等しい。おかげでこの半年、何度も死にそうな目にった。やけに落ち着いていられるのはそのせいだろう。
巨大蜘蛛が闇から姿を見せたので、すかさず【解析の指輪】で調査する。

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ステータス:【黒蜘蛛くろく も
★Lv:1
★能力値:HP20/20 MP20/20
     筋力6 耐久力5 俊敏性7 器用6 魔力5 魔力耐性3
★スキル:《蜘蛛糸》
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よし。情報は得た。あとは倒すのみ。
【黒蜘蛛】は四対の脚をせわしなく動かし、僕に向かって一直線に突っ込んでくる。その体の中心に狙いを定めて、僕は引き金を引いた。
緋色ひいろの弾丸が轟音を発しながら射出され、高速で黒蜘蛛の胴体を穿うがつ。
爆砕!
【黒蜘蛛】は緑色の液体をまき散らして絶命する。
随分と呆気なかった。命中補正効果がある以上、よほど頓珍漢とんちん かんな場所に放たなければ当たる。しかも一撃で倒せたとなると、こいつは僕の敵ではない。
とはいえ脅威ではないことが判明したのは、あくまで【黒蜘蛛】のみ。他に強力な生物がいない保証などない。だから細心の注意を払い、一歩前に出ようとすると、新たに四匹の黒蜘蛛が闇から姿を現した。
僕は【ルイン】の銃口をゆっくりと黒蜘蛛達に向け、四回引き金を引く。
四つの弾丸は地面をえぐりながら、まるで誘導弾のようにそれぞれの蜘蛛の体の中心に衝突し、その体を破裂させる。
一瞬で四つのしかばねが地面に横たわった。
体の芯が僅かに熱い。
その理由に想像がつき、僕自身を解析してみる。

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ステータス:【楠恭弥】
★Lv:2
★能力値:HP20/20 MP20/22
     筋力5 耐久力7 俊敏性6 器用6 魔力8 魔力耐性5
★スキル:《進化Lv1(10/100)》
★魔術:《創造魔術クリエイトマジック
★EXP:10/20
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予想どおり、体が熱いのはレベルアップのせいだ。引き金を五回引いただけでこの数か月間の血のにじむような修練以上の効果が得られたのには若干複雑な気持ちはあるが、ここは素直に喜ぶべきだろう。
それに、新たに判明したこともある。
一つ目は、魔弾の消費MPが一発につき「1」ということ。そして、レベルが上がるとMPは満タンに戻るということ。この現象を利用すれば【MP回復薬エーテル】を節約しながらレベル上げができる。
二つ目は、この黒蜘蛛のスキルポイントが2で、経験値が4ということ。《進化》がなければ、その半分の値なのだろう。
それにしても、これはまさにゲームの世界に生身で入ったような感覚だ。僕は昔からRPGには目がなく、レベル上げが好きでマックスまで強さを上げてからゲームクリアするタイプだ。だからこの手のゲーム色の強い冒険は、こんな命のやり取りの中で不謹慎にも僕を熱くさせた。

   ◆◆◆

もうかれこれ一時間近くも、【黒蜘蛛】にエンカウントし次第爆砕させつつ、洞窟の探索をしている。もし窮地に立たされても、【万能の腕輪】で転移すればよい。
こんな至れり尽くせりの状態だ。楽しくないはずがない。

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ステータス:【楠恭弥】
★Lv:6
★能力値:HP120/120 MP130/130
     筋力40 耐久力45 俊敏性44 器用44 魔力48 魔力耐性41
★スキル:《進化Lv1(76/100)》
★魔術:《創造魔術クリエイトマジック
★EXP:2/60
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ダメだ。マジでこれ面白過ぎる。今の勢いを崩したくない。
明日は前期の終業式であり、午前中で終了だ。そして明後日には約一か月の夏休みへ突入する。一日だけ休んでも評価には影響しない。このまま続行だ。

それからさらに三時間、洞窟内を彷徨さまよった結果、ついに異世界の夜空を拝むことができた。
大きく背伸びをすると、草木の甘い匂いが僕の嗅覚を刺激する。それもそのはず。目の前には青々とした木々が生い茂っていたのだ。
再び洞窟に戻ってレベル上げをしてもいいが、ついさっきレベルが11になり、次に上がるまでの必要経験値が極端に高くなった。洞窟内でのレベル上げは効率が悪い。洞窟で少々実験したいことがあるので、それが終了し次第、この森の探索を開始しようと思う。
洞窟内へ戻り、エンカウントした【黒蜘蛛】を二匹ほどほふる。【万能の腕輪】からナイフを取り出して屍を解体すると、予想通り赤い結晶が出てきた。これまで【黒蜘蛛】を爆砕した際、何度か赤い水晶のようなものが見えていたのだ。
早速、この水晶を解析してみる。

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紅石こうせき
魔物モンスターの魂が結晶化したもの。魔物モンスターを存在させる核。魔力との親和性が極めて高く、様々な武具や
魔術道具マジックアイテムの材料となる。
★ランク:K
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この【紅石】は様々な武具や魔術道具の材料となるらしいし、きっとこちらの世界では価値があるはずだ。
これまで採取してこなかったのは、僕が戦闘に不慣れだったためだ。【紅石】の採取中に不意打ちを食らって死亡したのでは洒落しゃれにならない。だが、魔物モンスターの気配を気にしながらの探索にはもう慣れてきた。少し冒険してもいい頃合いだろう。今後は積極的に集めることにする。
次の実験で最後だが、正直気が進まない。即ち、《創造魔術クリエイトマジック》の考察である。
創造魔術クリエイトマジック》は他者の情報を摂取して独自の魔術やスキルを創造する魔術、と説明があった。
つまり相手の血液なり肉なりの一部分を食べることにより、発動すると考えられる。この気色悪い蜘蛛を食べるなど嫌過ぎるのだが、他に方法も思いつかない。僕は強くなるためなら何でもする。
とはいえ流石に肉から食べる気はしないので、ナイフで体毛を少し切り取り、それを呑み込んだ。
突如、レベルアップ同様に体の芯が熱くなる感触があった。どうやら成功のようだ。

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ステータス:【楠恭弥】
★Lv:11
★能力値:HP330/330 MP350/350
     筋力111 耐久力115 俊敏性113 器用113
     魔力117 魔力耐性110
★スキル:《進化Lv2(176/500)》《蜘蛛糸Lv1(0/10)》
★魔術:《創造魔術クリエイトマジック
★EXP:2/200
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よし。スキル《蜘蛛糸》がゲットできた。取り敢えず、体の一部を食えばその魔物モンスターが持つスキルを獲得することは判明した。
しかし、《創造魔術クリエイトマジック》はあくまで独自のスキルや魔術を創造するもののはずだが、今はただコピーしただけ。これが能力の全てである可能性は限りなく低い。更なる実験が必要だろう。
獲得した《蜘蛛糸》と、ついでにLv2になった《進化》も確認する。

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《蜘蛛糸》
体から丈夫な糸を発生させる。糸の強さは発動者の器用に依存する。
★Lv1:(0/10)
★ランク:一般ノーマル
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要するに体から丈夫な糸を出せるようになったわけだ。あとで試してみよう。

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《進化》
必要経験値・スキルポイントが五〇分の一に、獲得経験値・スキルポイントが四倍になる。
★Lv2:(176/500)
★ランク:至高スプレマシー
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やはり凄まじいチートスキルだ。これが実際のゲームなら、製作者に非難が殺到することだろう。というかゲーム自体が成り立たないかもしれない。
ともかく、これでこの洞窟内でするべきことはなくなった。朝まで時間はたっぷりある。夜の森の探索に挑むとしよう。


第4話 初めての異世界探索(2)

森は、背丈の低い木々と雑草からなるやぶの如しであり、かろうじて獣道があるに過ぎない。
最初の敵は、ファンタジー系のゲームや小説でよく知られる魔物モンスター――【スライム】だ。
ブヨブヨの粘液状の体を飛び跳ねさせて体当たりを仕掛けてくる【スライム】を、即座に解析する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ステータス:【スライム】
★Lv:1
★能力値:HP5/5 MP4/4
     筋力1 耐久力2 俊敏性2 器用1 魔力1 魔力耐性1
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弱過ぎる。これじゃあ、同レベルの【黒蜘蛛】の方がややましだ。獲得できそうなスキルもないし、《蜘蛛糸》の実験台にでもしよう。
《蜘蛛糸》を発動すると、僕の指から白い糸が網目状に出てスライムを拘束する。色々試してみたが糸は網目状にしか出せず、一時的な拘束程度にしか用途は思いつかない。
もっとも、これはスキルレベルがまだ1だからかもしれない。スキルレベルが上がり次第、もう一度試してみよう。
実験は終了した。とっとと倒してしまおう。銃剣【ルイン】を高速で横一文字にぎ払うと、【スライム】はただの液体へと返り、【紅石】だけが地面にポトンと落ちる。
【紅石】を回収し、再び草木を掻き分け進む。
その後も暫くは【スライム】にしかエンカウントせず、実に物足りなかった。
暫くして、周囲に雑草がなくなり、植生が藪から高い木々へと変わり、本格的な密林に変化する。
密林以降は、まるでゴキブリのように小鬼の魔物モンスター【ゴブリン】が集団で襲ってきた。
一応解析はしたが、レベル1でスキル、魔術ともになしだ。面倒なのでエンカウント次第、【ルイン】の魔弾で爆砕した。
人型なので【紅石】の回収には多少の嫌悪感が湧いたが、人間なんでも慣れるものである。すぐに何も感じなくなった。

密林を二時間ほど歩き、湿地帯に入る。
地面には数センチメートル、水が張っていて、僕の背丈ほどもある水草が生い茂っている。
ふと、僕の左方から水草を踏みつける音が聞こえた。さらに、何か重たいものを引きずる音。
【ルイン】の銃口を音のする方へ向け、いつでも後方へ退避できるように構える。
音は次第に大きくなり、地響きさえ伴うようになっていく。
そして、そいつは姿を現した――
僕をひと呑みにしてしまわんと、三メートルを楽に超える双頭の巨大わにが水草を踏み潰しながら高速で突進してくる。
地面を蹴ってバックステップする。視界が高速で流れ、たった一歩で数メートルの間合いを取ることに成功した。
巨大鰐の解析を開始する。もし今の僕の手に負えそうになければ即逃げだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ステータス:【魔双頭鰐まそう とう わに
★Lv:12
★能力値:HP400/400 MP100/100
     筋力140 耐久力135 俊敏性80 器用130 魔力100 魔力耐性50
★スキル:《爆裂の炎》
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

僕より1レベル上だが、【ルイン】の効果分、僕の方がステータスは上だ。スキル《爆裂の炎》に注意すれば丁度いい相手かもしれない。
戦闘の意思を持つと同時に銃口を巨大鰐に向け、ありったけの魔弾をお見舞いする。
計六発の魔弾に双頭のうちの一つと胴体の半分を吹き飛ばされながらも、巨大鰐は僕に肉薄。直角に横っ飛びして巨大なあごを避けた僕は、銃口を残った頭に向けてさらに魔弾をぶちかます。
魔弾は全弾命中し、粉々の肉片がまるで桜吹雪さくらふぶきのように地面へ舞い落ちる。
直後、ダンプカーと正面衝突したかのような凄まじい衝撃を左半身に受け、僕の視界で地面と夜空が何度も移り変わる。息ができず、体中が激痛という名の絶叫を上げ、目に映る世界が明滅する。
腕輪から【HP回復薬ポーション】を取り出し、震える手で瓶のコルクを抜いて赤い液体を口に含む。
喉が鳴るごとに痛みが引いていき、やがてなんとか立ち上がれるほどにまで回復した。周囲を警戒しつつ、二本目の【HP回復薬ポーション】を飲んでHPを全快にしておく。
危なかった。まさか双頭を潰されても尻尾だけで反撃してくるとは夢にも思わなかった。
この負傷は完全に僕の油断だ。僕のような虚弱野郎は気を抜けば即死亡。雑魚共を倒し、少々いい気になってそんな基本的なことも忘れていた。今のうちにそれを思い出せてよかった。
警戒を怠ることなく気を配りながら【紅石】をナイフで取り出し、解析する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【紅石】
魔物モンスターの魂が結晶化したもの。魔物モンスターを存在させる核。魔力との親和性が極めて高く、様々な武具や
魔術道具マジックアイテムの材料となる。
★ランク:J
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

これまでとは違い、ランクがJ。レベルの高さの違いからだろう。
【紅石】を無限収納道具箱アイテムボックスに入れてから、鰐の肉片を口に含む。
体の中心が発火し、軽い眩暈めまいがする。《創造魔術クリエイトマジック》が発動したようだ。
当面はこの湿地帯でレベル上げをするべきだ。これ以上先へ進むと、さらに強力な魔物モンスターが出る可能性が高い。
――こうして僕は、この命がけの鍛錬たんれんに熱中していく。

   ◆◆◆

夜もけたので仮眠を取るべく、【万能の腕輪】の転移で屋敷へ戻り、翌朝時雨先生に電話する。
風邪で終業式を休むと告げると「今はよく休んで、考え抜け」と激励げきれいされた。時雨先生には僕の仮病などバレバレのようだ。
とはいえ、これで先生の正式な了承ももらえた。あとは鍛錬のみ!
それから二日間、僕は広大な湿地帯で我武者羅にレベル上げに専念した。
湿地帯に生息する魔物モンスターには【水大蛇みずおろち】と【水猿みずざる】がいたが、どれもレベル6がせいぜいであり、今の鍛錬の相手としてはふさわしくない。
そこで、【魔双頭鰐】をメインに、屠ることを繰り返す。
レベルが20を超えると、再び上昇しにくくなった。この湿地帯もそろそろ、終了の頃合だ。先に進むとしよう。
その前に改めて、この二日間の成果を確認してみる。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ステータス:【楠恭弥】
★Lv:26
★能力値:HP790/790 MP250/800
     筋力262 耐久力264 俊敏性263 器用264
     魔力265 魔力耐性260
★スキル:《進化Lv3(640/1000)》《蜘蛛糸Lv6(――)》《爆裂の炎Lv6(――)》
★魔術:《創造魔術クリエイトマジック
★EXP:1800/8000
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ステータスの平均値は、レベル1のときの約一三〇倍だ。かなりの強さといえよう。
各スキルも見ていこう。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《進化》
必要経験値・スキルポイントが五〇分の一に、獲得経験値・スキルポイントが八倍になる。
★Lv3:(640/1000)
★ランク:至高スプレマシー
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

本当に反則的だ。本来なら数年かかって到達するこのレベルに僅か二日で到達したのは、このスキルがあったからこそで間違いない。

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《蜘蛛糸》
体から丈夫な糸を発生させる。糸の強さは発動者の器用に依存する。
◎《可変糸》:単糸から網目状まで自由に選択でき、かつ自在に伸長・操作できる。
◎《変硬糸》:弾力性がある状態から、鋼鉄さえも容易に引き裂くほどにまで硬さを調整できる。
★Lv6:(――)
★ランク:一般ノーマル
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《蜘蛛糸》はレベルが上昇するごとに使い勝手がよくなり、今では糸で簡単な文字も書ける。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《爆裂の炎》
対象物を燃焼させる。
◎《視認爆炎》:視認した一定の範囲に爆炎を発生させる。
★Lv6:(――)
★ランク:一般ノーマル
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【水大蛇】と【水猿】は魔術もスキルも所持しておらず、新たな獲得はできなかった。
二日間の成果はこんなところだ。先に進もう。

   ◆◆◆

湿地を抜けると再び密林で、【スライム】【ゴブリン】の楽園となった。
そのうち、初めて人間らしき団体さんと出くわした。巨大な盾と全身甲冑を装備する大男や、皮のジャケットにミニスカートという軽装で耳がとんがっているお姉さん、巨大な斧を肩に担いだ、背は低くとも屈強な髭面ひげづらの男など、どの角度から見てもコスプレをしている風にしか見えない。
(あのお姉さん、もしかしてエルフ? とすると、背の低いおじさんはドワーフってやつ? まさにゲームや小説の世界だ。魔物モンスターしかいないから冥界かもと思ってたけど、どうやら違う。きっと、未確認の異世界だ)
興奮気味で無遠慮な僕の視線に気を悪くしたらしく、団体さんは鋭い刃物のような視線を僕に向けてきた。ここで揉めてもいいことはない。視線を外して先へ進む。
すれ違う人の数はさらに増え、さらに三〇分ほど歩くと森が終わり、草原となった。
心地よい微風そよかぜが僕の顔をでる。あまりに気持ちがいいので、地面に横になって雲一つない青空を暫く眺めていた。
行き来する人の数からして、近くに街か村か、とにかくある程度の規模の集落があるのは確実だ。森から出てくる冒険者風のパーティの後をついていけば、そこに辿り着けるはず。
都合よくカップルとおぼしき男女のパーティが森から出てきたので、彼らの十数メートル後を黙ってついていく。
数十分で、巨大な城壁が視界に入ってきた。もう案内は必要ない。
僕の存在に気づいたカップルは、何度も振り返って不審感たっぷりの視線をたびたび向けてきており、これ以上彼らの後についていくと揉め事に発展しそうな予感がしていたところだ。
石に座って暫し休憩し、カップルの姿が小さくなってから再び歩き始める。

城門前に到着すると、人や馬車が長蛇の列を作っていた。
最後尾に並ぶが、当分順番は来そうもない。そこで周囲の話に耳を傾けていると、結構な量の情報を得ることができた。その話を整理するとこうだ。
まずここは、冒険者の聖地――グラム。冒険者を統括する組織である冒険者組合の本部が置かれ、いずれの国にも属さない独立した街だそうだ。
北地区には冒険者組合本部と各国の大使館などの公的施設があり、西地区は商業地区。東地区は宿屋などの宿泊施設、飲食店、一流の冒険者の住居が立ち並び、南地区には娼館や奴隷市場、貧民街があるという。
次に、グラム周辺にある四つのダンジョンについて。
東に《終焉の迷宮》北に《死者の都》西に《永遠の森》南に《裁きバベルの塔》。これらは全て約七〇年ほど前に忽然こつぜんと出現したもので、いずれも強力な魔物モンスター跳梁跋扈ちょうりょう ばっ こしているらしい。
最後に、この世界について。
グラムの遥か北方にはオルト帝国、西方にはエルフ国ミュー、ドワーフ国ドォルブ、獣人国ガルの三か国、南方にはフリューン王国と小国家、東方にワ国と竜人国となっている。
特に、オルト帝国はエルフ国ミューと獣人国ガルに宣戦布告して戦争状態に突入しており、現在帝国が優位らしい。
まだまだ知りたいことは山ほどがあるが、僕はこの世界で暮らす気はない。あくまで武者修行のようなものだ。この程度で十分かもしれない。

列に並ぶこと約二時間、やっとのことで僕の順番が来る。
鉄製のライトアーマーを装着した兵士風の青年は、僕を一瞥すると強い口調で指示してきた。
「身分証を呈示しろ」
「僕はフリューン王国の小さな村の出身なので、身分証がありません」
これは四組ほど前に並んでいた冒険者志望の青年の真似をしたのだ。すると予想通り、兵士は鉄のカードを放り投げてくる。
「そのカードは仮の身分証だ。すぐに冒険者組合第一館で冒険者の登録をしろ。冒険者カードが次回からの身分証となる」
「ありがとうございます」
頭をペコリと下げると、早く行けと親指で促される。

城門を抜けると、そこは西地区の巨大商業区。現在が正午ということもあり、メインストリートは活気で満ち溢れていた。威勢のいい掛け声が耳に飛び込み、香ばしい肉の匂いが嗅覚を刺激する。
歩いているだけでよだれが出そうだが、今は金がない。
きっと【紅石】はそれなりの値段で売れる。昼飯を食べるだけの金銭を得られるはずだ。
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