虚弱高校生が世界最強となるまでの異世界武者修行日誌

力水

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第2章 地球活動編

第103話 魂砕き

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 その恰幅かっぷくの良い姿とは裏腹にアドバンはこの王座の間を縦横無尽に駛走し、針鼠のように全身から延ばした幾多もの緑色の触手を拘束でカリヤに向けて伸ばす。
 カリヤは殺到する冗談のような数の触手を避けつつも、黒と白の煌びやか装飾がなされた銃により叩き落とす。銃口から発せられた白と黒の閃光はアドバンの伸ばす触手を爆砕させるにとどまらず、その身体に幾つもの風穴を開ける。しかしアドバンの身体に開いた無数の穴に周囲から緑色の液体が侵食し即座にその穴を塞いでしまう。

 スリーの見立てでは俊敏性を初めとするステータスはカリヤとアドバンでほぼ互角。戦闘技術は刈谷の方が、生命力はアドバンが他を圧倒している。こんなところだろう。
 カリヤは《妖精の森スピリットフォーレスト》の近衛師団長であり、しかも白銀の魔力を持つ。あるじ以外の人間では敵なしだろう。まああるじがそもそも人間なのかについては甚だ疑問ではあるのだが。
 しかしカリヤと相対している敵は魔族最強の種族――悪魔なのだ。しかも爵位を持つ大悪魔だろう。悪魔と人間では生物としての潜在能力の強度が違う。本来人間である限り、どうあがいても勝利するなどあり得ない。これがほぼ互角の様相を示している。これがどれほど狂った事態は想像するに容易い。
 しかも均衡も徐々に敗れつつある。

(カリヤが押し始めている……)

 カリヤの放つ黒と白の閃光は自動誘導機能でもあるのだろう。
 閃光は地面すれすれに、上空から垂直に落下し、急カーブの曲線を描きながら疾駆するアドバンに次々に着弾する。着弾した閃光はアドバンに増殖する暇すら与えず、ジワジワとその身体を抉り取って行く。

「くっ! 下僕達よ、加勢せよ」

 神妙な顔で二柱ふたりの戦闘を見ていた周囲の大臣達に命を飛ばすアドバン。

「「「「「御意、主よ!」」」」」

 大臣達は恭しく一礼すると目が紅に光らせ、四つん這いになる。全身がバキバキ、ゴキガギと生理的嫌悪が湧く音を上げながらも、その身体は変形していく。
 体躯は球状に膨張し、体毛が生え、そこからは三対の長い脚が新たに生える。ぎょろっと六つの眼球が露出し、鋭い牙が生える。あっという間に、無数の八本脚で歩く蜘蛛の化け物が出来上がっていた。
 殺到する数匹の蜘蛛の化け物共。
 カリヤの全身からから凄まじい白銀の光が溢れ出し、それが渦を為し竜巻のごとく天井に巻き上がる。
 白銀の光に触れた蜘蛛の化け物の身体はドロッと真夏の炎天下に放置されたアイスのように溶解し、ギィギィと悲鳴を上げる。
 カリヤは残りの蜘蛛の化け物共にグルリと見渡し、両手をだらりと下げる。

(《終の銃術》――レベル4《散弾魔銃召喚》)

 カリヤの周囲に数百、いや千にも及ぶ様々な形の銃口が出現すると同時に、蜘蛛の化け物共の八本の脚の一部とアドバンの全身が赤く点滅する。
 空に浮かぶ無数の銃の撃鉄がガチリと起こされる。

「っ!!?」

 アドバンは後方へ退避し、自身の前方に巨大で厚い緑色の壁を造り出す。
 
発射ファイアー

 カリヤの静かな声が玉座の間に響き、赤、青、白、黒、黄、青、緑、橙、色とりどりの閃光が銃口から光速で発射され蜘蛛共の八本の脚を塵に変える。同時に、アドバンに向かった数百の閃光はその緑の盾を次々に食い破り、その右半身を粉々の液状まで粉砕する。

「ぎぎぎぃいいぃぃ!」

 蜘蛛共の悲鳴と絶叫が至るところから上がる。
 
「人間――風情がぁ!」

 額にすごい青筋をむくむく這わせながら、無事な左腕を天高く掲げるアドバン。

「《猛毒津波》」

 アドバンから緑色の液体が大量に湧き出ると、津波のごとき速さと強さをもって王座の間の隅々に侵食していく。
 緑色の液体はカリヤに破壊された脚をカサカサと未だに動かしている蜘蛛の化け物を頭ら呑み込み、瞬きをする間もなくその身体を骨も残さず溶解する。
 この緑色のドロドロは虚無九階梯のスキルにより発現されたもの。ならば虚無十一階梯以下のあらゆる攻撃を遮断する《絶対防御》のスキルを有するスリーにはそもそも効果はない。 
 そしてそれは王座に踏ん反り返っているアルコーンとかいう悪魔と白銀の魔力を有するカリヤも同じ。
 緑色の液体はアルコーンの周囲の球状の膜に触れるとジュッと蒸発し、カリヤの身体を覆う白銀の魔力により分解され塵となる。

「ちっ、効果すらないか……」

 自身の禿頭とくとうを復活した右手で摩りながらも吐き捨てるように言葉を紡ぐアドバン。

(己に付き従うものを平気で犠牲にする。この配下を駒にすら考えぬ外道な所業、悪魔はいつの世も変わらぬか……)

 闘争には決して犯してはならぬ禁じ手というものがある。
 この禁じ手の定義には武人各々の持つ信念により差があるが、変わらぬ不変なものもまた存在する。その最たるものは――仲間や部下、眷属の命を理由もなく奪わない事。
 仮にそれがどんなに果敢な猛将であったとしても、幾多の偉業を成し遂げた勇者であったとしても共に武器をとった仲間や部下、眷属に刃を向けた瞬間、その者は武人の資格を失う。そう。例えそれが見るに堪えない化け物だったとしても。

「やはり的中か……」

 カリヤはボソリと呟く。途端、カリヤの様子は一変する。
 その無表情だった顔には途轍もない憤激の色が漲る。それはまさに悪鬼羅刹のごとし。
 厳重に何十にも施錠された猛獣の鋼鉄の檻の鍵が次々に開かれる。そしてその猛獣は檻の扉を突き破り、外界へと片足を踏み出す。そんな身もふたもないイメージだろうか。

「~っ!? こ、こやつ――」

 突如変貌したカリヤに頬をヒクヒク痙攣させるアドバン。

「貴様らの存在自体がマスターの教育上良くない。ここで完全に駆逐する」

「何を訳のわからんことをぉ!」

 アドバンの周囲に幾つもの緑色の球体が生じ、それらの球体の一つ、一つからさらに触手が生じ、高速でカリヤに殺到する。
 しかし、カリヤが周囲に展開している白銀色の魔力の膜に触れると即座に霧散する。
 アドバンに美しい装飾がなされた白と黒の銃の銃口を向け、カリヤから濃密で膨大な白銀色の魔力が溢れ出し銃口先へ集中し渦を為していく。
 集まった濃縮された白銀色の魔力は銃口から発射される。発射されたスリーから見ても非常識なほど高圧濃縮された白銀を纏った白と黒の二つの閃光は混じり合い、王座の間の大理石の床をドロドロに溶解させ、消し飛ばしながらもアドバンに突き進む。
 舌を打ちしつつも上空へ跳躍し数十の緑色の盾を形成するアドバン。
 光速で地を張っていた白と黒の光の柱は上空のアドバン目掛けて狙いを変えて、その盾をもまるでチョコレートのように破壊しその身体の中心に大穴を開ける。

「ぐぬっ!?」

 アドバンが驚愕に目を見開く。無理もない。つい先刻までは緑色の盾を形成すれば銃撃自体は防げていた。強度が段違いに増している。
 
 ドウンッ! ドウンッ!

 再度、重々しい銃声が二つ王座の間に反響する。
 白銀を纏い混じり合った黒と白の光の柱はアドバンに文字通り光速で襲いかかり、その下半身を粉々に弾けさせる。胸部に大穴を開け、上半身だけとなったアドバンが禿げた頭を蛸のように赤くして刈谷を睥睨する。

「おどれぇ! たかが下等な人間の分際でぇ、この私――ぐごぉ?」

 既にチャージしていた二発の白と黒が混じり合った光の銃弾がアドバンの顔面の半分と辛うじて残存していた胴体を貫き崩壊させる。

「貴様らには一切の情けはかけん」

 隆二が二丁の銃を接着させ銃口を原型すら失ったアドバンへ向けると、アドバンを中心に半径数メートルの白銀の膜が出現する。膜には金色の無数の幾何学文字が帯状に出現し絶えずその姿を変えている。

(あれは魔術か……?)

 サッカーボール程の隆二の白銀色の魔力がアドバンの身体の中心に出現し、その魔力の塊を核として大気中、建物にあるあらゆる魔力が吸い込まれていく。周囲にあるあらゆる魔力を無尽蔵にどん欲にくらい尽くし、白銀の球体は徐々に肥大化していく。
 幾多の戦場を生き抜いて来たスリーの武人としての本能が全力で警笛を鳴らす。
 間違いない。あの球体はおそらく禁術。しかもあの強度、一度あれに捕縛されればスリーとて一切の抵抗すら許されず消滅する。そんな気がしてならない。

「ぐおぉぉぉぉっ!!」

 悲鳴染みたアドバンの声を最後にカリヤは禁断の言葉を紡ぐ。

「【終の崩壊魔術Ω】――《魂砕き》」

 周囲の魔力を喰らって、アドバンを覆っていた膜まで肥大化した白銀の球体は回転していく。アドバンと共に回転する球体の速度はジワジワと上昇していき、アドバンの姿すら視認し得なくなる。
 
 それは僅か数秒にすぎまい。アドバンの肉体はおろか、魂すらもこの世から消滅した。

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