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ep5.
ep5. 『死と処女(おとめ)』 君の為の物語
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突然訪れたにも関わらず、夢野は嫌な顔一つせず俺を自宅に招き入れてくれた。
「今日はあたししかいないの。よかったら晩御飯、一緒に食べていかない?」
ママは夜勤で、レンはお友達の家でパジャマパーティですって、という夢野の言葉に俺は何処か息苦しさのようなものを感じていた。
屈託のない笑顔。
だけど、それはどこかぎこちなく思えた。
「そっか。ちょっと夢野の事が心配で来てみたんだ」
俺は嘘とも本当ともつかない言葉を適当に発した。
この時点で既に俺は自分の気持ちも、どうすればいいのかも完全に見失っていた。
頭の中はフワフワとした浮遊感のような感覚に包まれている。
夢野の部屋に通された俺は床に座った。
「ちょっと待っててね。晩御飯まで少し時間あるし」
お茶でも飲んで待ってて、と夢野はアイスティーの入ったコップをテーブルに置いてくれた。
土曜日にテーブルの上にあったいくつもの検査薬─────それらは全て無くなっていた。
「晩御飯、余ったもので簡単に済ませるつもりだったんだけど。何がいいかな?」
キッチンに行こうとする夢野の腕を思わず掴んでしまう。
「……っ!悪ィ。つい」
夢野は土曜に手首を切ったばかりだというのに、俺は何て事をしてしまったんだろう。
「えっ……ううん。大丈夫よ」
ゴメン。傷口、痛かったよな?と訊く俺に対し夢野は首を振った。
「平気よ。それよりどうしたの?」
リクエストがあるの?と夢野は不思議そうに俺の顔を覗き込む。
俺は夢野の顔を真っ直ぐに見た。
どうすればいい?
夢野が岬の新彼女の事を知ってしまうのは時間の問題だ。
夢野の身体は……時間が経てば経つほど取り返しがつかない事態になるんじゃないのか?
これは俺一人でどうにか出来る問題じゃない。
夢野が直接、母親なり父親なり保護者に打ち明けて相談せねばならない案件だろう。
夢野に事実─────岬の現状を告げ、もう待つ事は意味がないということを忠告するべきなんだ。
俺に出来るのはここまでだ。
でも。
俺にそれが言えるか?
夢野に告げるには残酷すぎる現実。
俺の中にいろんな思いが渦巻いていた。
錯綜し、シャッフルされる数人分の感情と言葉。
夢野くるみは─────岬や上野が言うような自己中心的で利己的な人物なんだろうか?
佐々木が示した可能性が事実だったとしたら?
或いは─────水森が言うような[特別な女の子]なんだろうか?
皆から見た、それぞれの『夢野くるみ』
じゃあ、俺から見た『夢野くるみ』は─────どんな存在だ?
俺はもう一度夢野に向き合った。
「佐藤君?」
夢野が小さく首を傾げる。
迷っていた俺は意を決して口を開いた。
「なあ夢野。めっちゃどうでもいい事なんだけどさ。ええと。心理テストなんだけど……」
もし神様が願いを一個だけ叶えてくれるならさ。なんて頼む?と俺は──────なんでもないようなノリで夢野に問いかけた。
「え?ずいぶん急だね?」
そう言うと夢野は少し笑った。
ええと、と夢野は少し間を置いてこう答えた。
「じゃああたし、ずっと子どものままで居たいな。神様に『大人にならずにすみますように』ってお願いしたい……」
夢野はそう言ってまた少し寂しそうに笑った。
「いつまでも子どものままで……パパとママとレンと……ずっとずっと一緒に暮らしてたい」
「………」
俺は黙った。
遠いどこかで、同じような事を言ってた奴っていたよな?
記憶は曖昧だが、誰かもそう言ってたっけ。
今思えば、夢野のこの言葉で俺の腹は決まったんだ。
「─────で、佐藤君?それだと心理テストってどんな結果?」
夢野はニコニコとしながら俺の顔を見ている。
俺は夢野の頭にそっと手を置いた。
「なあ夢野。お前の事は─────俺が絶対に助けるから」
「今日はあたししかいないの。よかったら晩御飯、一緒に食べていかない?」
ママは夜勤で、レンはお友達の家でパジャマパーティですって、という夢野の言葉に俺は何処か息苦しさのようなものを感じていた。
屈託のない笑顔。
だけど、それはどこかぎこちなく思えた。
「そっか。ちょっと夢野の事が心配で来てみたんだ」
俺は嘘とも本当ともつかない言葉を適当に発した。
この時点で既に俺は自分の気持ちも、どうすればいいのかも完全に見失っていた。
頭の中はフワフワとした浮遊感のような感覚に包まれている。
夢野の部屋に通された俺は床に座った。
「ちょっと待っててね。晩御飯まで少し時間あるし」
お茶でも飲んで待ってて、と夢野はアイスティーの入ったコップをテーブルに置いてくれた。
土曜日にテーブルの上にあったいくつもの検査薬─────それらは全て無くなっていた。
「晩御飯、余ったもので簡単に済ませるつもりだったんだけど。何がいいかな?」
キッチンに行こうとする夢野の腕を思わず掴んでしまう。
「……っ!悪ィ。つい」
夢野は土曜に手首を切ったばかりだというのに、俺は何て事をしてしまったんだろう。
「えっ……ううん。大丈夫よ」
ゴメン。傷口、痛かったよな?と訊く俺に対し夢野は首を振った。
「平気よ。それよりどうしたの?」
リクエストがあるの?と夢野は不思議そうに俺の顔を覗き込む。
俺は夢野の顔を真っ直ぐに見た。
どうすればいい?
夢野が岬の新彼女の事を知ってしまうのは時間の問題だ。
夢野の身体は……時間が経てば経つほど取り返しがつかない事態になるんじゃないのか?
これは俺一人でどうにか出来る問題じゃない。
夢野が直接、母親なり父親なり保護者に打ち明けて相談せねばならない案件だろう。
夢野に事実─────岬の現状を告げ、もう待つ事は意味がないということを忠告するべきなんだ。
俺に出来るのはここまでだ。
でも。
俺にそれが言えるか?
夢野に告げるには残酷すぎる現実。
俺の中にいろんな思いが渦巻いていた。
錯綜し、シャッフルされる数人分の感情と言葉。
夢野くるみは─────岬や上野が言うような自己中心的で利己的な人物なんだろうか?
佐々木が示した可能性が事実だったとしたら?
或いは─────水森が言うような[特別な女の子]なんだろうか?
皆から見た、それぞれの『夢野くるみ』
じゃあ、俺から見た『夢野くるみ』は─────どんな存在だ?
俺はもう一度夢野に向き合った。
「佐藤君?」
夢野が小さく首を傾げる。
迷っていた俺は意を決して口を開いた。
「なあ夢野。めっちゃどうでもいい事なんだけどさ。ええと。心理テストなんだけど……」
もし神様が願いを一個だけ叶えてくれるならさ。なんて頼む?と俺は──────なんでもないようなノリで夢野に問いかけた。
「え?ずいぶん急だね?」
そう言うと夢野は少し笑った。
ええと、と夢野は少し間を置いてこう答えた。
「じゃああたし、ずっと子どものままで居たいな。神様に『大人にならずにすみますように』ってお願いしたい……」
夢野はそう言ってまた少し寂しそうに笑った。
「いつまでも子どものままで……パパとママとレンと……ずっとずっと一緒に暮らしてたい」
「………」
俺は黙った。
遠いどこかで、同じような事を言ってた奴っていたよな?
記憶は曖昧だが、誰かもそう言ってたっけ。
今思えば、夢野のこの言葉で俺の腹は決まったんだ。
「─────で、佐藤君?それだと心理テストってどんな結果?」
夢野はニコニコとしながら俺の顔を見ている。
俺は夢野の頭にそっと手を置いた。
「なあ夢野。お前の事は─────俺が絶対に助けるから」
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