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ep6
ep6『さよなら小泉先生』 休むことを許されない子宮
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DVって─────────暴力を振るわれたり暴言を浴びせられるとか……そういうヤツのことだよな?
じゃあ多産って?
「……多産……DV?」
耳慣れない単語に対し、俺は反射的に聞き返す。
シンジは顔を上げないまま続けた。
「おれはまだ子どもだし……大人が誰も鏡花姉さんの現状を教えてくれなかったから盗み聞きしただけなんですけど───────」
そう前置きしながらシンジは続けた。
「避妊をしない、同意を得ずに無理に性行為を行うといったいったこともDVに含まれるって……」(※1)
妊娠や出産、育児に縛り付けてで相手を支配する、自由にさせないという意味もあるそうなんです、というシンジの言葉に俺は混乱した。(※2)
それって────無理矢理ヤられて妊娠させられたってことなのか?
あの小泉が?
そんなに連続して産んだら……いくら若くても身体が持たないんじゃないのか?(※3)
実家の両親に育児や家事でも手伝って貰えれば少しはいいだろうけど─────確か家族からは勘当されてるって言ってたよな?
ワンオペ育児って大変だと聞くし……ストレスも溜まるし心身はもうボロボロなのかもしれない。
「それで─────小泉さんは現状、人に会えるような健康状態ではないという……」
そういう意味ですか、と俺は震える声でシンジに確認した。
シンジは顔を真っ赤にしながら肩を震わせた。
そういえばコイツってなんかクソ真面目な堅物キャラって感じだったよな。
慕っていた小泉に関する話の中で────こんな性的な内容を口にするのはどんなに抵抗や葛藤があっただろう。
シンジの胸中を思うと俺も心臓が滅茶苦茶に苦しくなった。
いいえ、とシンジはやっとのことで首を振った。
「……そうじゃないんです」
シンジの目からボタボタと大粒の涙が溢れる。
「……鏡花姉さんは─────かつて教師を目指していたくらいに子どもが大好きなんです。ましてや、自分の人生を捨ててまで選んだ大切な我が子なんです」
鏡花姉さんも必死に育児と家事をこなしてたんです。だけど、とシンジは言葉を詰まらせた。
「慣れない育児……しかも度重なる出産で心身がボロボロになった状態で四人育てることは難しくて───────」
俺は息を呑んだ。
脳裏をよぎる嫌な予感が俺を支配する。
「鏡花姉さんの従姉妹……五月さんがアパートを訪れたときには─────産後鬱と育児ノイローゼでもう抜き差しならない状態だったそうなんです」
旦那となった人は殆ど家には帰らず────乳児以外の上の子ども二人は栄養失調だったらしくて、とシンジは絞り出すように続けた。
五月さん─────小泉が以前に言っていた『五月お姉ちゃん』という従姉妹のことだろうか。
「それで……五月さんが行政や関係各所に働きかけて─────子ども達全員、一時的に施設で預かって貰う事に……なったんです」
シンジの大粒の涙が銀色にキラキラ光っているようにも見えた。
俺は絶句した。
人生を捨ててまで守り抜こうとした自分の子ども─────────その子ども達と引き離されて暮らす事になったって事なのか。
あの古井戸の小屋で無邪気に笑っていた中学生の小泉の顔が一瞬、浮かんで消える。
なんて過酷な現状なんだろう。
子どもを手放さざるを得ない状況まで追い込まれた小泉の事を思うと─────俺の目からも涙が溢れていた。
泣こうと思って泣いてる訳でもなかった。
ただ、どうしようもなく……悲しくて苦しくて涙が止まらなかった。
しばらく二人の鼻をすする音だけが部屋に響いた。
二人とも言葉を発せず、ひとしきり泣いた後にようやくシンジが震える声でこう言った。
「今の鏡花姉さんはもう─────────現実が理解出来てないみたいんです」
※1
夫が妊娠・出産に関する妻の自己決定権を侵害し妻との性交渉に及ぶ際に避妊をせず、妻に妊娠を強要したり子供を何人も出産させたりすることを指す。
※2
多産DVをする男性は意識的・無意識的に妻を完全に支配し服従させたいと考えており妻に妊娠・出産を繰り返させることで結果として妻の自由な時間を奪うことを目的としているとされる。
※3
育休・産休などの制度的な理由、出産のリミットや各家庭での家族計画などの事情もある為、子沢山の家庭が必ずしも多産DVであるとは限らない。
じゃあ多産って?
「……多産……DV?」
耳慣れない単語に対し、俺は反射的に聞き返す。
シンジは顔を上げないまま続けた。
「おれはまだ子どもだし……大人が誰も鏡花姉さんの現状を教えてくれなかったから盗み聞きしただけなんですけど───────」
そう前置きしながらシンジは続けた。
「避妊をしない、同意を得ずに無理に性行為を行うといったいったこともDVに含まれるって……」(※1)
妊娠や出産、育児に縛り付けてで相手を支配する、自由にさせないという意味もあるそうなんです、というシンジの言葉に俺は混乱した。(※2)
それって────無理矢理ヤられて妊娠させられたってことなのか?
あの小泉が?
そんなに連続して産んだら……いくら若くても身体が持たないんじゃないのか?(※3)
実家の両親に育児や家事でも手伝って貰えれば少しはいいだろうけど─────確か家族からは勘当されてるって言ってたよな?
ワンオペ育児って大変だと聞くし……ストレスも溜まるし心身はもうボロボロなのかもしれない。
「それで─────小泉さんは現状、人に会えるような健康状態ではないという……」
そういう意味ですか、と俺は震える声でシンジに確認した。
シンジは顔を真っ赤にしながら肩を震わせた。
そういえばコイツってなんかクソ真面目な堅物キャラって感じだったよな。
慕っていた小泉に関する話の中で────こんな性的な内容を口にするのはどんなに抵抗や葛藤があっただろう。
シンジの胸中を思うと俺も心臓が滅茶苦茶に苦しくなった。
いいえ、とシンジはやっとのことで首を振った。
「……そうじゃないんです」
シンジの目からボタボタと大粒の涙が溢れる。
「……鏡花姉さんは─────かつて教師を目指していたくらいに子どもが大好きなんです。ましてや、自分の人生を捨ててまで選んだ大切な我が子なんです」
鏡花姉さんも必死に育児と家事をこなしてたんです。だけど、とシンジは言葉を詰まらせた。
「慣れない育児……しかも度重なる出産で心身がボロボロになった状態で四人育てることは難しくて───────」
俺は息を呑んだ。
脳裏をよぎる嫌な予感が俺を支配する。
「鏡花姉さんの従姉妹……五月さんがアパートを訪れたときには─────産後鬱と育児ノイローゼでもう抜き差しならない状態だったそうなんです」
旦那となった人は殆ど家には帰らず────乳児以外の上の子ども二人は栄養失調だったらしくて、とシンジは絞り出すように続けた。
五月さん─────小泉が以前に言っていた『五月お姉ちゃん』という従姉妹のことだろうか。
「それで……五月さんが行政や関係各所に働きかけて─────子ども達全員、一時的に施設で預かって貰う事に……なったんです」
シンジの大粒の涙が銀色にキラキラ光っているようにも見えた。
俺は絶句した。
人生を捨ててまで守り抜こうとした自分の子ども─────────その子ども達と引き離されて暮らす事になったって事なのか。
あの古井戸の小屋で無邪気に笑っていた中学生の小泉の顔が一瞬、浮かんで消える。
なんて過酷な現状なんだろう。
子どもを手放さざるを得ない状況まで追い込まれた小泉の事を思うと─────俺の目からも涙が溢れていた。
泣こうと思って泣いてる訳でもなかった。
ただ、どうしようもなく……悲しくて苦しくて涙が止まらなかった。
しばらく二人の鼻をすする音だけが部屋に響いた。
二人とも言葉を発せず、ひとしきり泣いた後にようやくシンジが震える声でこう言った。
「今の鏡花姉さんはもう─────────現実が理解出来てないみたいんです」
※1
夫が妊娠・出産に関する妻の自己決定権を侵害し妻との性交渉に及ぶ際に避妊をせず、妻に妊娠を強要したり子供を何人も出産させたりすることを指す。
※2
多産DVをする男性は意識的・無意識的に妻を完全に支配し服従させたいと考えており妻に妊娠・出産を繰り返させることで結果として妻の自由な時間を奪うことを目的としているとされる。
※3
育休・産休などの制度的な理由、出産のリミットや各家庭での家族計画などの事情もある為、子沢山の家庭が必ずしも多産DVであるとは限らない。
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