[200万PV達成]それを捨てるなんてとんでもない!〜童貞を捨てる度に過去に戻されてしまう件〜おまけに相手の記憶も都合よく消えてる!?

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ep6

ep6『さよなら小泉先生』 “気の触れた美しい姉”

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「鏡花姉さんの中では……『大好きな彼氏と結ばれて幸せな家庭で暮らしている』っていう認識みたいなんです─────」

俺はシンジの言葉の意味がすぐには理解出来なかった。

「鏡花姉さんがその世界の中で──────かわいい赤ちゃんに優しい夫……ささやかだけど幸せな生活を送っているっていうのなら……おれはこのままそっとしておいてあげたいんです……」

掠れた声でそう絞り出すとシンジはまた涙を流した。

小泉は気が触れてしまった。

そういうことなんだろう。

俺はその状況をようやく理解した。

俺の知っている小泉はもう居なくなってしまったのか。

この世界のどこにも──────小泉はもう居ないんだろう。

美しい夢の世界。

小泉はそこに─────自ら望んで囚われている。

それを自分で選んだんだんだろう。

「五月さんは鏡花姉さんをカウンセリングや治療に通わせて……4人の子ども達と暮らせるようにした方がいいんじゃないのかって考えらしいんです」

それは正しいことだと思うんです。だけど、とシンジは続けた。

「おれが思うに─────今の鏡花姉さんが現実に戻った時に……それを受け止められるだけの心がもう残っていないんじゃないかって」

シンジは項垂れたまま首を振った。

愛する夫と可愛い子どもとの幸せな結婚生活。

だけど現実は─────────

家に帰って来ない夫と家から消えた4人の子ども達。

目を覚ませば……夢の世界から地獄へと叩き落とされるのか。

「あなたは……その後の小泉さんと会われたのですか」

俺がそう訊ねると、シンジはハッとしたように顔を上げた。

「……そうです」

シンジは──────変わり果てた小泉の姿を見たのか。

「鏡花姉さんはもう既に─────おれのことがわからなくなっていました」

流れる涙を拭おうともせず、シンジは俺を見ながら絶望したように小さくこう続けた。

「その時おれは思ったんです。おれの知っている姉さんはとっくの昔に……もう死んでいたんだって────────」

死。

堅物で生真面目な性格のシンジから発せられた『死』という概念。

小学生男子が日常的に気軽に口にするその言葉の意味とは大きく異なるリアルな実感。

にわかには信じられない話に俺は暫く言葉を失っていた。

シンジに掛ける言葉も見つからない。

俺の動揺を悟ったかのようにシンジは口を開いた。

「……すいません。せっかく訪ねて来てくださったのにお見苦しい所を」

俺は慌てて首を振った。

「いえ、辛いことを無理に聞き出すような真似をして……こちらこそすいません」

……だから、とシンジは俺の顔を見た。

「これはおれの勝手な考えなんですけど──────あなたのお姉さんには……鏡花姉さんに会って欲しくないっていう気持ちが強くて」

おれにそれを止める権利なんて何もないんですけど、とシンジはまた泣きそうな表情を浮かべた。

「“中学時代の同級生”が今の小泉さんを訪ねて行くということは──────記憶を戻す要因になる可能性があると……」

そういう意味ですか、と俺は独り言のように呟いた。

シンジは静かに頷いた。

それは尤もな言い分だと俺は思った。

今の小泉の記憶や認識が戻ったとしたら──────現実を受け止められずに今度は本当に死んでしまうかもしれない。

シンジはそれを懸念しているんだろう。

「……辛いことを話して下さってありがとうございます」

俺は丁寧に礼を言い、立ち上がった。

気の触れた美しい世界か、現実の絶望か。

行くも地獄。戻るも地獄。

「……あなたもどうぞ、お元気で」







もう二度と戻らない。そう決意した俺は神社を後にした。

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