それでは明るくさようなら

金糸雀

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抱擁しました

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宮君が初めて見せた明るい笑顔は、不覚にもボクを泣かせようとしてきた。
なんだよその顔。
なんだってそんな、幸せそうな顔するの。
目を細めて、口元緩めて。
幸せそうに。
笑うの。



「葉海先輩。」



そんな愛おしそうにボクの名前、呼ぶの。



「宮君。」
だからボクも名前を呼んだ。
なっさけない顔のまま、やっぱり小さい声で。
そしたらさ、宮君。もっと目を細めてさ。掴んでたボクの手をね、撫でるの。そっと。撫でるの。
なんかもう、それだけでもうボク胸がぎゅうってなった。
ぎゅうって。
あぁあぁ。もう。
もうもう、ほんとにもう。
いつもの無表情さはどうした。あのこっわな艶やか綺麗すぎな顔は。何やら黒いオーラ出してたあの宮君はどうした。どこやっちゃったの。
こんな、柔らかい宮君。
見てるだけでもう堪らなくなって。
泣きそうになる。
こんな宮君、ほんとにやっぱり。
どこにかくれんぼしてたのさ。


ボクの肩を掴む力も弱まっていたのに気づいて、そっとボク。
宮君の両手を外して。
下から両腕を伸ばしてやっぱりそっと、宮君を抱きしめた。




宮君に突っ込まれて嬉しいとうっかり思ってしまうってそれもう宮君のこと好きなんじゃない?
こんな顔見て堪らない気持ちになるなんてさ。
抱きしめたくなるなんてさ。




宮君の問いかけから到達したのはものすっごく大事な物事の真理、ボクにとってこの上なく大事な。今この瞬間のホントのこと。




うん。好き。好きだねぇ、宮君。
ボクはそういう意味でキミのこと好きです。
好き。まだ口にはしないけどさ。



だからその代わりにそっと万丈の思いを込め抱きしめた身体は、ぴくりと大きく震えてそれから。
「…先輩。」
下から抱きしめたから。宮君のおっきな身体は上から伸し掛かるようにしてボクの身体に覆い被さってくるんだけど。
違うんだよ。
抱きしめるって行為自体は同じなのに、ちょっと前のあの骨折られそうな恐ろしいのと全然違うんだ。
優しい。これでもかってくらい、優しいんだ。
回された腕とか頬に擦り付けてくる顔のその、強さがさ。強いんだけど、がっちりしっかりボクを抱きしめてくるんだけど違うんだよ。
あんな、あんな殺しますみたいな恐ろしさでボクを締め付けてきたのに。
全然違う。
宮君、ねぇ宮君。
こんな、こんな優しい抱擁できるなんて。
切なくなるくらい。優しいなんて。
胸がぎゅうぅって痛すぎる。



「先輩。」
宮君がそっと。
ボクの耳に言葉を注ぐ。
「好きです。」
ぎゅって、あったかい両腕がボクを抱きしめて。
「好きです先輩。」
だからボクも。
言葉の代わりにこれでもかと愛を込めてぎゅって抱きしめ返したんだ。






あぁボクら。
今浸透しあった。
なんて。










…優しい抱擁に浸ってたのはボクだけでした、ねぇ。






「過去に、好きだったのは確かだったと仮定して。」





宮君が何やら話し出したのは、ボクから答えを引き出して優しい抱擁を交わして、わりとすぐだった。
だからボクらは抱きしめあったまま。
「ん?」
ボクからの言葉はまだだけども。
あれ?今さ、愛を交わしたばっかりだよね?
優しい抱擁、愛のハグ真っ最中だよね?
え?
そんな中での、それ?え、なんで?
ボク、ばしばし高速で瞬き。
え?
「宮君??」
「好きだったのは仕方なくも確かだったと仮定して。」
んん?
もう一度、ほとんど同じ言葉を繰り返す宮君。
いや繰り返すんじゃなくて、説明を。
え?
その内容はやたらと過去形でしかも、仮定?
仮定??
「宮君、過去は正しいけど。仮定って?」
どういうことだ?
仮定じゃなくてそれはさ紛う事なき真実です。
宮君の背中に回した手で、宮君の服を掴む。
ちょっと離してもらってね。お顔見て話したくて身体引き剥がそうとするんだけど。
「ん?」
首傾げた、みたいな動きを顔のすぐ横で感じるんだけど離れない。
「ん?じゃなくて。可愛いけどさ。ん?とか宮君、ちょっと顔をお見せ。」
首傾げるとか絶対可愛いくない?
見たいんだけど!二重にとにかく顔が見たくて服を引っ張る。本当はくっついてる身体の隙間に手を突っ込んで身体遠ざけたいんだけど、お胸とお胸がくっつくくらいがっつり宮君の両手、背中に回されてるからその動きはできなくて。
だから引っ張るんだけどびくともしやしない。
「宮君、宮君。ほらちょっと離れて。」
離れないから仕方なく今度はぺしぺし軽く叩いてみるけど。
「嫌ですけど。」
…なんか低い声がした。
あれー?
あの優しい明るい宮君どっか行っちゃった?!
思わず手が止まる。
「先輩。」
低いよ、低いよ宮君!
「仮定、して。」
「あーはい!はいはい仮定!しますしますから!ほらとにかくちょっと離れて。」
ボクは声を上げてひとまず肯定してみる。
…これ以上低い声はなんだか駄目な気がする。
昨日からのあれやこれやでボクには宮君に対する防御反応が備わったみたい。
そろそろりと、今度は背中を宥めるみたいに摩って。黒いオーラがでてこないよう、撫で撫で。
しばらくそうして撫でてたら宮君も落ち着いた?みたいで静かにボクから離れて顔を、見せてくれたんだけども。




「うわぁ…可愛くなかった…。」
また真っ黒お目めがボクガン見の、無表情。




「付き合ってました?」



そこからのそのセリフにボク、驚愕。

「え…えぇ?」
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