それでは明るくさようなら

金糸雀

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脱力しました

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「付き合ってました?」
宮君がもう一度同じこと、言うから。
ボク、後ろにひっくり返りながらお答えします。
「ましたねぇ。」
「性交渉無しで?」
「…突っ込むまでをそうと言うならば、性交渉は無しでしたねぇ?」
宮君の右眉が上がる。
仰け反るボクの真上から、見下ろしてくるその顔と言ったら。
怖いねぇ…でもそれ以上にボク、宮君の口からどんどこ出てくる言葉が予想外すぎてちょっと、うん。ちょっと、先ほどから脱力感に苛まれています。


ねぇ宮君、宮君。
想いが浸透しあってものすごいいい雰囲気でしたよね?
ほんのちょっと前のボクら。
宮君の可愛い笑顔にきゅんっとかなってね。
花とか舞っちゃいそうな。鐘とか聞こえちゃいそうな。
そんな明るい空気がね。
…霧消。
なんで?


「突っ込むまで??」
引っかかるのそこなんだぁ…。
「…でも性交渉云々はお付き合いに関係ないと思いますし、突っ込むだけが性交渉じゃないと思いまーー」
「つまりそれ以外はしていたと。」
脱力したまま世間一般的な事を言ってみれば。
がばっと被せてきた。
「…拒否権の行使を。」
「していたと?」
「…。」
「先輩。」
じわりじわりと、こう、真綿でゆっくり絞めてくるような言葉の数々。一気に絞めてこないの。確認する様に一言一言。
それでいて真っ黒お目めからものすごい圧、が。
なんでボク今、好きだって自覚した相手に元カレとのあれこれ追求されてんのかなぁ。
…泣きそう。
「ねぇ、先輩?」
「…。」
脱力感で無言を貫けば。
「先輩。」




一瞬だった。
 
真向かいで、だけどボクがひっくり返ってたから距離はあったはずだったのに。


うぇって声をあげる暇も無く、後頭部を鷲掴みされて顔はぴくりとも動かせない。視線だけあっちこっち逃げ場を探すけどないよね?知ってたぁ!!
「先輩。」
「してました、ねぇ…えぇぇ!!」
仕方なしに同意したらば、圧が!手力が!!
ちょっと今、メキッて、メキッて言ったよ後頭部!! 
「いだっ!ちょっ、手!頭!」
「え?それでどこら辺が初心者?先輩、初心者って意味知ってます?」
「ま、ちょっ、力入れすぎいだだだだ!!!」
「それ完全アウト、経験者の域です。」
「いだだだだだぁ!アウトって!ちょ、だって付き合ってたら触るでしょう?だから、いだっ。でも突っ込まれてないから初、いだ!いだだだ!!」
「仮定じゃなくて真実好きで付き合ってたと?」
尚もそんなこと重ねて言ってくる宮君にボクは。
「そうですね!!」
全力の肯定を!!
その大声に宮君の手が一瞬緩んだから、ボクは叩きつける様に声を上げる。宮君のお胸に手をついて、距離とか取ろうと画策しつつ!
「過去だの好きを仮定だの!なんの意味があるかちぃっともわっかんないけど!あんまり宮君怖いから仮定してっとか口先だけで同意しましたけども!!好きで付き合ってたの!過去に」


(雪とのお付き合いの愚痴とか、聞いてくれてたでしょ?)


ボクの声はとりあえず届きはした、みたいで。
宮君の手がびくって動いて。
目が、みるみるうちに見開いていく。
表情無いままに!
「先輩とアレが付き合って性交渉していると思っていたのに、初心者?してないならば、好きだった過去を仮定として付き合い自体が無かったのかもと思えば付き合ってた?」
宮君が早口で、しかも独り言みたいにぶつぶつ言うのほんと怖い!また瞳孔開いたみたいだし!!
こわっ!こっわ!


「えぇえ…?」


…怖い。宮君が怖いんだけど!
後頭部を掴む手がまたいつギリギリしてくるかもわからない怖さに、宮君の謎謎さにボク震えそう!!




(あれ…?)



…震えそう、なんだけども。
手をついた先、宮君のお胸が。
身体が、どくどく、脈打ってるの。
ものすごく速くどくどく、どくどく。
(なんでこんな)
興奮?怒ってる?それとももしや?



「それでも受け入れてくれたのは自分だけ。」



見開かれた真っ暗お目目には相変わらず何一つ表情は浮かんで無いけれど。ボクを呼ぶ声だって、平坦なんだけど。
ちょこっとだけ。ほんのちょっぴり声が、唇が震えてて。
それで。

宮君の口角が上がって。



(嬉しいの?)



どくどくどくどく速く脈打っちゃうくらい、宮君嬉しい??



そうかもしれないと思った途端、怖さは吹き飛んだ。
ボク、胸に当ててた手でぎゅって、宮君の服を掴む。
「宮君、宮君!雪も最初のアレを後悔しすぎてて上手くいかなかったから別の方法でいろいろしてたの!だからその他突っ込む以外のアレコレ!!」
恥も外聞もない。今はとりあえず必要ないから置いといて。
ちょっとこれだけはきっちりはっきり言っとかないとと謎の使命感に追い立てられたボク。
しようと前向きに。試していたこと隠さずに。
だけどできなかったことも。最後にちゃんと。
「股とか手とか口とか使ってだけど宮君のーーんぐぅっ!!」



だけど宮君は。宮君の時は直ぐにって、最後にちゃんとそう叫ばんと。



くわっと大きく開けた口はーー塞がれた。
正しくは、声を出すのを邪魔された、だ。
ボクの後頭部を鷲掴んでない方の宮君の手の指がボクの口にね。突っ込んできた。二本。しかもニ本!宮君の大きな手に似つかわしいそりゃぁもう長い指が躊躇なくボクの口に。ずぼりと。
あがっ、って口から変な声が。胃からもなんか上がってきそうで!目には生理的な涙まで浮かんで!!


なんでだ?!


ボク、心で叫ぶ。
物理的に口封じるにしたってふつーは他の方法!!
なんだって指!突っ込むの??!
指二本からの思わぬ圧迫感と息苦しさに眉根を寄せる。
じわわと浮かんだ水分で余計に息苦しさが増して、ボクは睨む様な顔で宮君を見てーー。



「…っ!!」



ボク今ものすごい苦しいんです。
口突っ込まれて、ボク。
涙でちゃってんのに。



「先輩…葉海先輩。もういい。」





そんな欲望どろどろの目、なのかなぁ?!!!






「先輩…葉海。ハル。」




指が抜かれる、代わりに舌が宮君の舌が。
強引に押し入ってきた宮君の分厚い舌が。
ボクの口内をめちゃっくちゃに這い回る。
 

「んんっ…ぐ、ぐうぅっ…。」


上顎の裏も下顎の裏も両頬の裏側も舌が。
性急な動きで舐めまわし、ボクの舌に絡みつき、喉の奥まで侵ってくる!
汚ったないくらい唾液が溢れて、宮君がそれをずずって音を立てて吸ってそれでも隙間から漏れ出して顎に首に落ちて。
重ねるなんて生温い。
口全部まるっと宮君の口の中に取り込まれた、その隙間から垂れる唾液を拭う暇も与えられず、宮君の舌は縦横無尽にボクを貪るその熱量といったら!ちょっとちょっと前のあの熱量よりもさらに加熱。どろどろ。どろっどろの。欲!
だけどもそこには欲望だけじゃなくって。
ボクを飲み込む、気持ちがあるの解っているから。



ぞくぞくっと背中を快感が駆け上る。




(やばい。気持ちいい。)
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