5 / 26
だいぶ昔の話
4
しおりを挟む
「枷つけたらやだっていうけどさ。ボクだってふつーにやだよ。ふつーに、回避するって」
帰宅すぐ。手洗いうがい着替えを終えて台所に立つ。
貯蔵庫にはじゃがいもと玉ねぎ。開けた冷蔵庫には昨日の残りの豚肉が少し。うん、献立は決まりだね。
コレステロールとか気にするところだから玉ねぎは多めに、小玉を2つ。嵩増しじゃがいもは大き目を2つ取り出して。
玉ねぎの皮剥いてたら、今日のあの、カナの言葉を突然思い出してしまって。
一瞬手が止まる。
…口輪ハメたのは、ほんのちょっとの好奇心。
ハメたあとに喜んじゃった、なんてことは全くない。心の躍動とか高揚感ももちろんない。
変な達成感はちょっとあったけど?
でもそれだけ。
「カナのおばかちゃん。枷なんてつけないよ」
泣きそうなカナの顔まで思い出しちゃって、ボクはぎゅっと眉根を寄せた。
おバカカナめ。
笑っててって言ったのに、泣きそうになってさ。
お願いしたのに。
あんな、顔。
(…そうさせた、ボクが1番バカだけど)
「”かせ”?」
不思議そうな響きを伴った声が突然、後ろから聞こえてきて。
ボクは玉ねぎ落っことした。
「あらあら、アオちゃん。玉ねぎ落としちゃって、大丈夫??」
いつもと同じ、少しゆっくりと紡がれる柔らかな声に、今度は心配そうな音が乗る。
ばっと、音が立つくらい勢いよく後ろを振り向けば、台所の入り口に女性が1人、ちょこんと立っている。
お、おばぁちゃん、いつのまにいたの?!
「アオちゃん??」
「だ、大丈夫ぅ」
ちょっとだけ。ちょっとだけ、小指が擦ったけど!大丈夫!枷の話より全然大丈夫ぅ!!
慌てて屈んで、床に転がった玉ねぎを拾う。
「ただいま!あのね、今日は肉じゃがだよ。裏のおじちゃんにもらったじゃがいも、食べたがってたでしょ?なんかちょっと赤いんだってさ。楽しみだねぇ!」
このまま忘れておばぁちゃん!!
わざと明るい声をだす。
忘れろ忘れてお願いだから!!
「そうなの?どんな赤みなのかしら?楽しみねぇアオちゃん。」
「ね!楽しみ!お味噌汁にも入れようかなぁ」
よしよし、晒せた成功だ!
ボクは再び皮を剥き始めーー
「で?枷ってなぁに?なんのお話?」
再び落としたの、ボク悪くない。
聞きたいわぁ。教えて?あら。お話ししてくれないの??
もうね、すごいの。邪気のない顔でね、可愛く小首とか傾げちゃってね。
うぅ。見ないように目を閉じて顔反らせても回避不可避。
おばぁちゃんのおねだりに基本弱いんだよ…。
そうして肉じゃが完成の後。
炊飯鍋でご飯が炊き上がる前に話す羽目になりまして。
おばぁちゃんが淹れてくれたお茶にふーふー息をかけながら今日の話を聞かせたのだった。
「まぁ。」
全部聴き終えたあと、おばぁちゃんは驚いた様な声を出して。口元に手を当てた。
しわくちゃだけど、白くて綺麗な手だ。
良いところのお嬢様だったおばぁちゃん。どれだけ苦労しても幾つ年を重ねても、その上品さとおっとり気質は変わらなかったって。
死んだおじぃちゃんが嬉しそうにいつも言ってた。
「アオちゃん。」
おばぁちゃんが、口元から手をどかすとボクをしっかり見て。
「私もカナちゃんと同じ気持ちよ。枷なんてダメ。めっ!」
お叱りだ。
「おばぁちゃん…ボク、枷なんてつけないよ」
完全なる誤解。つけないよ。つけたいなんて思ってないよ。本当に!!
「当たり前です。」
おばぁちゃんは愛用のお茶碗を左手で取って、こくりと一口。
それからふぅっと息を吐き、眼線を下にして。
静かに言った。
「アオちゃんには、自由でいて欲しいの。あの人と、あの子達がずっと願ってたんですもの。自由で、幸せで、笑っていて欲しいって。だから枷なんて、ダメよ。」
絶対にダメよ。
それからまたこくり。
ゆっくりお茶を飲む。
そしたら心に凪を。
…呼び込めるから。
「…おばぁちゃん。ボク、自由で幸せで、いつも笑ってるよ。知ってるでしょ?」
そっと、テーブルの向こうに座るおばぁちゃんの、膝に置かれたままの右手に触れる。
「ボクは、今。最高に幸せだよ。」
今はもう動かなくなった右手をちょっと握って、ボクはにぱっと笑った。
そのあと一緒に食べた肉じゃがもお味噌汁も炊き立てのご飯も素晴らしく美味しかったけども。笑顔の下で僕はすこぶり不満!でしたよね。本当に。
…あのね。そもそも欲しがってないから。いりません!枷なんて、断固お断り!!
一晩寝ても不満は消えなかったので。
いつものようにカナを背中に貼り付けたままとりあえず、開口一番アキに文句を一つ。
「面白さは別のベクトルでお願いします。」
帰宅すぐ。手洗いうがい着替えを終えて台所に立つ。
貯蔵庫にはじゃがいもと玉ねぎ。開けた冷蔵庫には昨日の残りの豚肉が少し。うん、献立は決まりだね。
コレステロールとか気にするところだから玉ねぎは多めに、小玉を2つ。嵩増しじゃがいもは大き目を2つ取り出して。
玉ねぎの皮剥いてたら、今日のあの、カナの言葉を突然思い出してしまって。
一瞬手が止まる。
…口輪ハメたのは、ほんのちょっとの好奇心。
ハメたあとに喜んじゃった、なんてことは全くない。心の躍動とか高揚感ももちろんない。
変な達成感はちょっとあったけど?
でもそれだけ。
「カナのおばかちゃん。枷なんてつけないよ」
泣きそうなカナの顔まで思い出しちゃって、ボクはぎゅっと眉根を寄せた。
おバカカナめ。
笑っててって言ったのに、泣きそうになってさ。
お願いしたのに。
あんな、顔。
(…そうさせた、ボクが1番バカだけど)
「”かせ”?」
不思議そうな響きを伴った声が突然、後ろから聞こえてきて。
ボクは玉ねぎ落っことした。
「あらあら、アオちゃん。玉ねぎ落としちゃって、大丈夫??」
いつもと同じ、少しゆっくりと紡がれる柔らかな声に、今度は心配そうな音が乗る。
ばっと、音が立つくらい勢いよく後ろを振り向けば、台所の入り口に女性が1人、ちょこんと立っている。
お、おばぁちゃん、いつのまにいたの?!
「アオちゃん??」
「だ、大丈夫ぅ」
ちょっとだけ。ちょっとだけ、小指が擦ったけど!大丈夫!枷の話より全然大丈夫ぅ!!
慌てて屈んで、床に転がった玉ねぎを拾う。
「ただいま!あのね、今日は肉じゃがだよ。裏のおじちゃんにもらったじゃがいも、食べたがってたでしょ?なんかちょっと赤いんだってさ。楽しみだねぇ!」
このまま忘れておばぁちゃん!!
わざと明るい声をだす。
忘れろ忘れてお願いだから!!
「そうなの?どんな赤みなのかしら?楽しみねぇアオちゃん。」
「ね!楽しみ!お味噌汁にも入れようかなぁ」
よしよし、晒せた成功だ!
ボクは再び皮を剥き始めーー
「で?枷ってなぁに?なんのお話?」
再び落としたの、ボク悪くない。
聞きたいわぁ。教えて?あら。お話ししてくれないの??
もうね、すごいの。邪気のない顔でね、可愛く小首とか傾げちゃってね。
うぅ。見ないように目を閉じて顔反らせても回避不可避。
おばぁちゃんのおねだりに基本弱いんだよ…。
そうして肉じゃが完成の後。
炊飯鍋でご飯が炊き上がる前に話す羽目になりまして。
おばぁちゃんが淹れてくれたお茶にふーふー息をかけながら今日の話を聞かせたのだった。
「まぁ。」
全部聴き終えたあと、おばぁちゃんは驚いた様な声を出して。口元に手を当てた。
しわくちゃだけど、白くて綺麗な手だ。
良いところのお嬢様だったおばぁちゃん。どれだけ苦労しても幾つ年を重ねても、その上品さとおっとり気質は変わらなかったって。
死んだおじぃちゃんが嬉しそうにいつも言ってた。
「アオちゃん。」
おばぁちゃんが、口元から手をどかすとボクをしっかり見て。
「私もカナちゃんと同じ気持ちよ。枷なんてダメ。めっ!」
お叱りだ。
「おばぁちゃん…ボク、枷なんてつけないよ」
完全なる誤解。つけないよ。つけたいなんて思ってないよ。本当に!!
「当たり前です。」
おばぁちゃんは愛用のお茶碗を左手で取って、こくりと一口。
それからふぅっと息を吐き、眼線を下にして。
静かに言った。
「アオちゃんには、自由でいて欲しいの。あの人と、あの子達がずっと願ってたんですもの。自由で、幸せで、笑っていて欲しいって。だから枷なんて、ダメよ。」
絶対にダメよ。
それからまたこくり。
ゆっくりお茶を飲む。
そしたら心に凪を。
…呼び込めるから。
「…おばぁちゃん。ボク、自由で幸せで、いつも笑ってるよ。知ってるでしょ?」
そっと、テーブルの向こうに座るおばぁちゃんの、膝に置かれたままの右手に触れる。
「ボクは、今。最高に幸せだよ。」
今はもう動かなくなった右手をちょっと握って、ボクはにぱっと笑った。
そのあと一緒に食べた肉じゃがもお味噌汁も炊き立てのご飯も素晴らしく美味しかったけども。笑顔の下で僕はすこぶり不満!でしたよね。本当に。
…あのね。そもそも欲しがってないから。いりません!枷なんて、断固お断り!!
一晩寝ても不満は消えなかったので。
いつものようにカナを背中に貼り付けたままとりあえず、開口一番アキに文句を一つ。
「面白さは別のベクトルでお願いします。」
0
あなたにおすすめの小説
俺の婚約者は小さな王子さま?!
大和 柊霞
BL
「私の婚約者になってくれますか?」
そう言い放ったのはこの国の王子さま?!
同性婚の認められるパミュロン王国で次期国王候補の第1王子アルミスから婚約を求められたのは、公爵家三男のカイルア。公爵家でありながら、長男のように頭脳明晰でもなければ次男のように多才でもないカイルアは自由気ままに生きてかれこれ22年。
今の暮らしは性に合っているし、何不自由ない!人生は穏やかに過ごすべきだ!と思っていたのに、まさか10歳の王子に婚約を申し込まれてしまったのだ。
「年の差12歳なんてありえない!」
初めはそんな事を考えていたカイルアだったがアルミス王子と過ごすうちに少しづつ考えが変わっていき……。
頑張り屋のアルミス王子と、諦め系自由人のカイルアが織り成す救済BL
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
愛と猛毒(仮)
万里
BL
オフィスビルの非常階段。冷え切った踊り場で煙草をくゆらせる水原七瀬(みずはらななせ)は、部下たちのやり取りを静かに見守っていた。 そこでは村上和弥(むらかみかずや)が、長年想い続けてきた和泉に別れを告げられていた。和泉は「ありがとう」と優しく微笑みながらも、決意をもって彼を突き放す。和弥は矜持を守ろうと、営業スマイルを貼り付けて必死に言葉を紡ぐが、その姿は痛々しいほどに惨めだった。
和泉が去った後、七瀬は姿を現し、冷徹な言葉で和弥を追い詰める。 「お前はただの予備だった」「純愛なんて綺麗な言葉で誤魔化してるだけだ」――七瀬の毒舌は、和弥の心を抉り、憎悪を引き出す。和弥は「嫌いだ」と叫び、七瀬を突き放して階段を駆け下りていく。
「……本当、バカだよな。お前も、俺も」
七瀬は独り言を漏らすと、和弥が触れた手首を愛おしそうに、そして自嘲気味に強く握りしめた。
その指先に残る熱は、嫌悪という仮面の下で燃え盛る執着の証だった。 毒を吐き続けることでしか伝えられない――「好きだ」という言葉を、七瀬は永遠に飲み込んだまま、胸の奥で腐らせていた。
『定時後の偶然が多すぎる』
こさ
BL
定時後に残業をするたび、
なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。
仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。
必要以上に踏み込まず、距離を保つ人――
それが、彼の上司だった。
ただの偶然。
そう思っていたはずなのに、
声をかけられる回数が増え、
視線が重なる時間が長くなっていく。
「無理はするな」
それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、
彼自身はまだ知らない。
これは、
気づかないふりをする上司と、
勘違いだと思い込もうとする部下が、
少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。
静かで、逃げ場のない溺愛が、
定時後から始まる。
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる