魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん

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第二章

31『変態の再来と乗り合い馬車』

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「嬢ちゃん……リーナ、やっと見つけたぜ」

 腋の下と腰に回った手で持ち上げられて、身動きの出来ないアンナリーナにさらに強く身を押しつけてくる。

「へ、変態男っ!
 離さないと……わかってるでしょ?」

 なるべく平静を装って、身体を捻じり顔だけ対峙して睨めつけてみたが、側から見ても子猫がじゃれついているようにしか見えない。
 グレイストにとっては誘われているようにしか感じられない。

「さっき言っただろう?
 ここはガラが悪いんだ。
 もう一軒の方は乗り合い馬車の連中が泊まるので……リーナは俺の家に来い」

「何でそうなるのよ!!」

 鳩尾に、思い切り肘打ちして、グレイストがたじろいだ間にその腕を振りほどいて、一目散に駆け出した。

「おい?ちょっと待て!」

 まったくの予備動作なしの肘打ちとはいえ身体強化をかけているアンナリーナである。
 痛みと衝撃にすぐに動き出せないグレイストを前に、彼女は宿屋の酒場(食堂)兼ホールを駆け抜け、飛び出していった。

「あ~あ、だから隊長あれほど言ったっす。
 リーナちゃん、もう絶対近くに寄り付かないっすよ」

 ガックリと崩れ落ちるグレイストとカウンターの中で大笑いしているサンドラス。
 若い兵士は何とも情けない顔で、アンナリーナを追うべく外に出て行った。



「ううっ……気持ちわる」

 村の中を突っ切って、門を通らずに森に入ったアンナリーナは、座り込んでえづいていた。

「どうして【悪意察知】に引っかからなかったんだろう」

「それは相手に悪意がなかったからですよ」

 久しぶりのナビの声が聞こえてきた。

「悪意がないって……」

 確かに、彼がアンナリーナに持っているのは純粋な好意であって、それが通り越して欲望になっているのだ。
 今でも思い出す、あの時アンナリーナの尻に当たっていた硬いものを。

 ぞぞぞ……っと鳥肌が立つ。
 そんな彼女を現実に戻してくれたのは、やはりナビだった。

「それで、どうなさいますか?
 もう、これからすぐにでもこの村を出ますか?
 それとも今夜はここで身を潜めて明日の朝、乗り合い馬車に乗りますか?」

 アンナリーナは迷った。

「少し時間をおいてから様子を見に戻ってみようか。
 多分、馬車には見張りの御者さんか誰かが付いているだろうから、明日の出発の時間を聞いてみよう」

「わかりました。それまで少し休憩なさっては?」

 汚されたわけではないが、汚された気がした。
 素早くツリーハウスを出すと、風呂の準備を始める。
 一刻も早く入浴して、全身を洗い清めたかった。

 異世界買物で購入した、某メーカーの薔薇の香りのシャンプーやコンディショナー、ボディシャンプー等のシリーズを使い、お気に入りの香りに包まれ気分が向上したアンナリーナは出掛ける準備を始める。

「ちょっと遅くなっちゃったね。
 まあ、目立たなくていいかもね」

「防御系統を常時発動状態にした方がよろしいようですね。
 少々お待ち下さい……どうぞ、確かめて下さい」

「ステータスオープン」

 常時発動状態
【防御】【気配察知】【危機察知】【悪意察知】

「うん、大丈夫みたい」

「これで多少は安心出来るのでは?
 少し暗くなってしまいましたが、そろそろ行きましょうか」

 アンナリーナは【飛行】で一度高く飛び、上空から【夜目】も使って馬車を探す。
 思った通り、普通の箱馬車と違って大型の乗り合い馬車は建物の中に入りきらず、馬だけは外して馬屋に入っていたが、宿屋の敷地内の空き地に停められていた。
 すぐ側では焚き火も見える。
 アンナリーナはぐるりと回り込んで降りて、正面から近づいた。

「こんばんは、ちょっとお尋ねしたいのですが」


 もう、暗闇がそこまで迫って来ている中、子供のような高い声が聞こえてきて、その御者は飛び上がらんばかりに驚いた。

「あの、この馬車は明朝に出発する乗り合い馬車ですよね?」

「ああ……」

 白っぽい姿が近づいてきて、それがクリーム色のローブを着た少女だと認識出来るまで、御者は懐のナイフから手を離せないでいた。

「私、この村で次の領都行きの乗り合い馬車を待っていたんですけど、この馬車の行き先は領都ですよね?
 乗せて頂くのは可能ですか?」

 何ともていねいなもの言いの少女だった。
 ひょっとしたら見かけ通りの年ではないのかもしれないと思う。

「ああ、お客さんでしたか。
 はい、終着は領都バルテレー、運賃は金貨2枚と銀貨6枚。ちと、高いが領都までは7日かかるんで勘弁して下さい」

「はい、問題ありません。
 では明日、お願いします。
 お支払いは今の方がいい?」

「いえ、明日の朝、乗り込む時で結構ですよ。お席はまだありますからね。
 ゆっくりと乗っていけますよ」

「よかった、どうもありがとう」

 何ともしっかりとした、見かけは少女な……目の前の女の子。
 ぼうっと見ているとまた話しかけてきた。

「ええっと、ひょっとしてお食事の邪魔をしてしまった?」

 少女が自信なさげに聞いてくるのは、その “ 食事 ”の粗末さゆえだろう。
 この乗り合い馬車の客全員が、アンナリーナがはじめに薦められていた宿屋に泊まることになり、てんてこ舞いの宿屋からこの御者はすっかり忘れられてしまったようだ。
 夕食の差し入れもなく、仕方なく道中の保存食を前倒しして食べようとしていた。
 それはカチカチの干し肉とカラカラの黒パン、そして皮袋に入った水だ。
 どうにか湯を沸かすつもりだったようだが。

「あの~、もし良かったら……私もこれから食べようと思っていたので、ご迷惑でなかったら一緒にいかがですか?」

 思ってもみなかった誘いに、御者はびっくりする。

「いいのかい?」

「はい、1人も2人も一緒だから」

 じゃあ、用意しますね、とローブの隙間から見えたものに御者はまたびっくりして目を剥いた。
 彼だとてそうそうお目にかかれない、黄色いバッグを持った少女……それが意味するのは。

「お嬢ちゃん、薬師様だったのか」

「あ、わかった?」

 わからないはずがない。
 黄色いアイテムバッグから鍋やら皿やらを出しはじめた少女を呆れ果てながら見つめる。
 一体どれだけ出すつもりなのか。
 御者はバスケットに入ったロールパンを見て、もうこれ以上驚くのは阿呆らしいと悟った。
 深めの木の皿に盛られた、大きめの具がゴロゴロ入ったスープは火にかけたわけでもないのに湯気が立っている。
 触れてみたパンも熱々の焼きたてで、厚いめに切り分けてくれたローストビーフには暖かいグレービーソースがかけられた。

「さあ、どうぞ。 召し上がれ」

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