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第二章
50『野営地、焚き火の前にて』
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しばらく、じっと立っていたアンナリーナが急に動き出した。
野外での休憩用の竃に近づき、アイテムバッグから薪を取り出す。
とりあえず二つの竃にそれを放り込み【ファイア】で着火させた。
再びアイテムバッグから大きめの鍋を取り出す。
そこに【ウォーター】で水を張り、玉ねぎをなるべく薄くスライスを入れ【時短】を使って煮る時間を短縮させる。
【異世界買物】で購入したコンソメのキューブを次々と投入していって味をみる。
これで即席のコンソメスープが出来上がった。
皆に提供するまでしばらく火に掛けておく。
次はパンだ。
フライパンにクッキングペーパーを敷き、2次発酵まで済んだ生地を詰め気味に入れ蓋をする。
そのまま、極弱火で焼いていって、焦げないように気をつけて、裏面も焼く。
だいたい30分くらいで簡単ちぎりパンの出来上がりだ。
ソーセージをボイルする為の湯をたっぷりと沸かし、自分たちが囲む焚き火にかける。
そうして少し待っているように言うと、竃にかけてあった即席コンソメスープの入った鍋とたっぷりのクルトンを持って乗客たちの焚き火に向かった。
「すみませーん」
焚き火を起こし、場を調えていたゲルトが、乗客をけん制するように横に立った。
「ちょっと具合の良くないマチルダさんをお預かりするので、こちらにも差し入れ持ってきました~」
ただ単に喜びを表して騒ぐ元鉱夫の二人組を尻目に、アンナリーナの言いたい事を理解しただろう、グスタフとキャサリン、ロバート夫妻はアンナリーナの方に了承の頷きを返してきた。
そう、聡い3人はすぐに気づいたのだ。
体調の良くない老婦人マチルダを特別扱いするのに、このスープを提供するからうるさい事を言うな、と。
元鉱夫のキンキとジンガが調子に乗ってやらかさない様、手綱を握る必要がある。グスタフとロバートが頷きあった。
「それと~ もし、何か言ってきてもあっちの馬車のひとには絶対にあげないでくださいね」
アンナリーナの、あの女に対する感情は一貫している。
それが例え罪のない、周りにいる御者や護衛たちを巻き込んだとしても、一切妥協しないのだ。
遅れて入ってきた箱馬車が一番奥の馬車止まりに落ち着いたころ、アンナリーナは本来の自分の居場所、ザルバたち乗り合い馬車の側の者たちと焚き火を囲んでいた。
マチルダの様子に気を遣いながら【解析】をかけてみる。
目立った病気はないが老齢による衰えと、心因性のものなのか衰弱が激しい。
今は皆と同じように地面に座り込んでいるが、アンナリーナは冷えを心配して椅子を出してやった。
座面には毛皮を敷いてやる。
「マチルダさん、ここに座って。
どうやら全身の血の巡りが鈍いみたい。温かいものを食べて、後で薬湯を煎じてあげる」
「ありがとう。
どうしてリーナさんはこんなに親切にして下さるの?」
マチルダにとっては至極真っ当な質問だったのだろう。
だが、それに対するアンナリーナの応えにそこにいる全員が絶句した。
「だって、このままじゃあと6日、保たないもの。
放っといたら死んじゃうよ?」
困るでしょ?と屈託なく言うアンナリーナに悪気はない。
心遣いがないだけだ。
「エコノミー症候群も心配だしなぁ……
今、ちょっと思いついたんだけど、馬車の旅で3時間ごとに休憩取るのって、ちゃんと意味があったんだね。
そのくらいの間隔で身体を動かしていたら、予防になるもの。
うんうん、上手いことできてる」
感心しきりのアンナリーナと何のことやらさっぱりの面々。
ザルバが代表して質問した。
「嬢ちゃん、その【えこのみーしょうこうぐん】って何だ?
「うーん、えっとね。
身体の中には血が流れてるっていうのはわかるよね?あれはね心臓と頭を巡っているの」
普段、獣や魔獣の解体をするザルバやゲルト、フランクには身近な話だ。
3人ともウンウンと頷いている。
「それがね、長い間動かなかったりすると、血の塊が出来ちゃったりするの、主に脚にね。
それが、急に身体を動かすと血の道を通って心臓や頭に行っちゃって、詰まってアウト…… わかる?」
「旅人が長旅の後にポックリっていうのはそれか?」
「可能性は高いね。
血の塊がすぐに動くんじゃなくて、数日後ってのもあり得る。
とにかく、ほんの少しでも歩いたり、マッサージするといいんだよ。
後でマチルダさん、教えてあげるからね」
この中でマチルダだけがアンナリーナの言っている事を理解できていなかった。だが当事者は彼女なのだ。
「とりあえず、食べようか。
フランクと約束しているボイルしたソーセージ。浮き上がってきたら食べられるからね」
まずは人数分投入して、マチルダのためのクリーミースープを出す。
先ほど竃で最後の仕上げ、ほぐしたパンを入れて煮込んできた。
そしてコンソメスープを各自の深皿に注ぎ入れ、ポテトサラダとほうれん草のバター炒めを出して、ひと息ついた。
ちぎりパンは食べ放題だ。
「やっぱり焼きたては格別だね。
これにバターをたっぷり……たまらない」
アンナリーナが一番に頬張ったのは焼きたてホカホカのちぎりパンだった。
野外での休憩用の竃に近づき、アイテムバッグから薪を取り出す。
とりあえず二つの竃にそれを放り込み【ファイア】で着火させた。
再びアイテムバッグから大きめの鍋を取り出す。
そこに【ウォーター】で水を張り、玉ねぎをなるべく薄くスライスを入れ【時短】を使って煮る時間を短縮させる。
【異世界買物】で購入したコンソメのキューブを次々と投入していって味をみる。
これで即席のコンソメスープが出来上がった。
皆に提供するまでしばらく火に掛けておく。
次はパンだ。
フライパンにクッキングペーパーを敷き、2次発酵まで済んだ生地を詰め気味に入れ蓋をする。
そのまま、極弱火で焼いていって、焦げないように気をつけて、裏面も焼く。
だいたい30分くらいで簡単ちぎりパンの出来上がりだ。
ソーセージをボイルする為の湯をたっぷりと沸かし、自分たちが囲む焚き火にかける。
そうして少し待っているように言うと、竃にかけてあった即席コンソメスープの入った鍋とたっぷりのクルトンを持って乗客たちの焚き火に向かった。
「すみませーん」
焚き火を起こし、場を調えていたゲルトが、乗客をけん制するように横に立った。
「ちょっと具合の良くないマチルダさんをお預かりするので、こちらにも差し入れ持ってきました~」
ただ単に喜びを表して騒ぐ元鉱夫の二人組を尻目に、アンナリーナの言いたい事を理解しただろう、グスタフとキャサリン、ロバート夫妻はアンナリーナの方に了承の頷きを返してきた。
そう、聡い3人はすぐに気づいたのだ。
体調の良くない老婦人マチルダを特別扱いするのに、このスープを提供するからうるさい事を言うな、と。
元鉱夫のキンキとジンガが調子に乗ってやらかさない様、手綱を握る必要がある。グスタフとロバートが頷きあった。
「それと~ もし、何か言ってきてもあっちの馬車のひとには絶対にあげないでくださいね」
アンナリーナの、あの女に対する感情は一貫している。
それが例え罪のない、周りにいる御者や護衛たちを巻き込んだとしても、一切妥協しないのだ。
遅れて入ってきた箱馬車が一番奥の馬車止まりに落ち着いたころ、アンナリーナは本来の自分の居場所、ザルバたち乗り合い馬車の側の者たちと焚き火を囲んでいた。
マチルダの様子に気を遣いながら【解析】をかけてみる。
目立った病気はないが老齢による衰えと、心因性のものなのか衰弱が激しい。
今は皆と同じように地面に座り込んでいるが、アンナリーナは冷えを心配して椅子を出してやった。
座面には毛皮を敷いてやる。
「マチルダさん、ここに座って。
どうやら全身の血の巡りが鈍いみたい。温かいものを食べて、後で薬湯を煎じてあげる」
「ありがとう。
どうしてリーナさんはこんなに親切にして下さるの?」
マチルダにとっては至極真っ当な質問だったのだろう。
だが、それに対するアンナリーナの応えにそこにいる全員が絶句した。
「だって、このままじゃあと6日、保たないもの。
放っといたら死んじゃうよ?」
困るでしょ?と屈託なく言うアンナリーナに悪気はない。
心遣いがないだけだ。
「エコノミー症候群も心配だしなぁ……
今、ちょっと思いついたんだけど、馬車の旅で3時間ごとに休憩取るのって、ちゃんと意味があったんだね。
そのくらいの間隔で身体を動かしていたら、予防になるもの。
うんうん、上手いことできてる」
感心しきりのアンナリーナと何のことやらさっぱりの面々。
ザルバが代表して質問した。
「嬢ちゃん、その【えこのみーしょうこうぐん】って何だ?
「うーん、えっとね。
身体の中には血が流れてるっていうのはわかるよね?あれはね心臓と頭を巡っているの」
普段、獣や魔獣の解体をするザルバやゲルト、フランクには身近な話だ。
3人ともウンウンと頷いている。
「それがね、長い間動かなかったりすると、血の塊が出来ちゃったりするの、主に脚にね。
それが、急に身体を動かすと血の道を通って心臓や頭に行っちゃって、詰まってアウト…… わかる?」
「旅人が長旅の後にポックリっていうのはそれか?」
「可能性は高いね。
血の塊がすぐに動くんじゃなくて、数日後ってのもあり得る。
とにかく、ほんの少しでも歩いたり、マッサージするといいんだよ。
後でマチルダさん、教えてあげるからね」
この中でマチルダだけがアンナリーナの言っている事を理解できていなかった。だが当事者は彼女なのだ。
「とりあえず、食べようか。
フランクと約束しているボイルしたソーセージ。浮き上がってきたら食べられるからね」
まずは人数分投入して、マチルダのためのクリーミースープを出す。
先ほど竃で最後の仕上げ、ほぐしたパンを入れて煮込んできた。
そしてコンソメスープを各自の深皿に注ぎ入れ、ポテトサラダとほうれん草のバター炒めを出して、ひと息ついた。
ちぎりパンは食べ放題だ。
「やっぱり焼きたては格別だね。
これにバターをたっぷり……たまらない」
アンナリーナが一番に頬張ったのは焼きたてホカホカのちぎりパンだった。
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