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第二章
51『お邪魔虫の横槍と寝支度』
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「美味い!
これなに? はじめて食べた!」
フランクは食べるのも喋るのにも忙しい。
「ほら、口のなかにものが入ってる間は話さない……フランク、そんなにがっつかなくても、誰も盗らないって」
フランクはソーセージだけでなく、ポテトサラダが大層お気に召したようだ。
大皿に盛って各自取り分ける形を取っているのだが、フランクの皿には山盛りになっている。
「マチルダさんも食べられるようなら好きなだけ召し上がって?」
彼女は先ほどからパンがゆを美味しそうに食べている。
「嬢ちゃん、この【粒マスタード】ってのをソーセージに付けて食ったら、たまらないな! 酒が欲しくなる」
ザルバの言葉にゲルトが頷いている。
「じゃあ、領都に着いたら飲み会しようか?
……私は飲めないけどさ」
「おっ! いいねぇ、乗った!」
そんなふうに盛り上がっていたところに水を差すものがいる。
それはまず、グスタフたちの方に絡みだした。
「私の食事はここ?
ちょっと、早く退きなさい」
あの女が、気分良く食事しているキャサリンとロバートに絡み出す。
「なにやってんだ!」
今までの和やかな雰囲気はどこに行ったのか。
ザルバが鬼のような顔をしてすっ飛んで行った。
アンナリーナの様子も剣呑になる。
ゲルトとフランクも剣を手に取って立ち上がった。
「うちとあんたらは別だって言ってるだろう!
うちの客に迷惑をかけないでくれ!」
なぜ、向こうの馬車の食事を用意しなければならないのか謎だ。
あちらの御者がすまなそうにこちらを窺っている。
「ちょっとお前ら、来い!」
ザルバが、女と話していても埒があかないと感じたのか御者と護衛を呼んだ。
まずは護衛に言う。
「お前ら、さっさと火を熾して支度しろ!
今日は初日なんだ、すぐに食えるものくらい持ってるだろう」
「私はここでいいわ」
「うるさい!ここでは食わせない!
さっさとこの女を連れてけ!」
ザルバがとうとう爆発した。
「俺たちはあんたらの顔も見たくないんだ。
大体、組合に押し付けられはしたが依頼として請け負ったわけじゃない。
やむを得ない場合は見捨てても良いと組合に確認してある」
厳しい事をポンポン言い始めたザルバを前に、御者や護衛は最早、青いを通り越し真っ白な顔色となっている。
「お客も迷惑してるんだ。
あんたらがエイケナールに到着するのを待つのに一泊余計に宿泊したんだぞ。
今は俺が立て替えてる宿泊費、今すぐここで支払って貰おうか?!」
金の話をし始めると途端に大人しくなる。
これは、エイケナール村での買い物の様子から、女はあまり金の持ち合わせがないのではないかと思われているからだ。事あるごとにこちらにたかろうとするのも、そういう事なのだろう。
実際、この想像は当たっていて、当初貴金属を金に替えようとしていた女の目論見は外れ、現金が乏しくなっていた。
女が御者に突かれて自分たちの場所に戻っていく。
これで明日の朝まで顔を見せることはないだろう。
その後ろで、護衛たちが恨めしそうにこちらを見ていた。
楽しい食事を途中で邪魔されて、すっかり白けた雰囲気の中、食べ終わったものから片付けてピットの中に入っていく。
乗客は全員ピットで寝て、ゲルトとフランクは焚き火の前で交代で睡眠を取りながら夜番をする。
ザルバは馬車の中だ。
「あの~ 私、ちょっと調合したいから自前のテントで寝ていいかな?
その前にピットに行って、マチルダさんの寝床の準備を手伝って来るけど」
「まあ、しょうがないな。
なるべく近くにテント、張れよ」
ゲルトの了承に気を良くしたように、アンナリーナはスキップしてマチルダの後を追った。
「へえ、ピットの中ってこんなふうなんだ」
シンプルな板敷きの床。
家具は何もない。ただ、男女を分けるためだろう、カーテンで間仕切り出来るようになっている。
ここでも床にゴロ寝するようだ。
「女の人だけでも何とかしたいよね……登山用品に何かいいの、あったかな」
幸い冬ではないのでさほど防寒に気を使う事はない。
だが床の硬さは何とかしてあげたかった。
「マチルダさん、ちょっと薬湯を調合して来るので少し休んでいてもらえます? 靴も脱いでゆっくりしていてね」
ピットから飛び出して、少し離れた林との境にテントを出した。
すぐに結界を張って安全を確保し【異世界買物】の登山用品のリストを出して情報を漁り始める。
「どちらにしても、目についたら異端な物体よね。
まだ低反発マットレスのほうがマシかな……
これを毛布で包んだら誤魔化せるかしらね」
ブツブツ言いながらカートに放り込んでいく。
魔力値での精算が終わるとすぐに、例の段ボール箱に入って届いた。
「これを速攻で毛布に包んで四方を縫い付けて……と」
あっという間にマチルダと、それからキャサリンの分を縫いあげて、2枚を担ぎ上げた。
そんなアンナリーナの、テントから出て来た姿を見てフランクが目を丸くしている。
これなに? はじめて食べた!」
フランクは食べるのも喋るのにも忙しい。
「ほら、口のなかにものが入ってる間は話さない……フランク、そんなにがっつかなくても、誰も盗らないって」
フランクはソーセージだけでなく、ポテトサラダが大層お気に召したようだ。
大皿に盛って各自取り分ける形を取っているのだが、フランクの皿には山盛りになっている。
「マチルダさんも食べられるようなら好きなだけ召し上がって?」
彼女は先ほどからパンがゆを美味しそうに食べている。
「嬢ちゃん、この【粒マスタード】ってのをソーセージに付けて食ったら、たまらないな! 酒が欲しくなる」
ザルバの言葉にゲルトが頷いている。
「じゃあ、領都に着いたら飲み会しようか?
……私は飲めないけどさ」
「おっ! いいねぇ、乗った!」
そんなふうに盛り上がっていたところに水を差すものがいる。
それはまず、グスタフたちの方に絡みだした。
「私の食事はここ?
ちょっと、早く退きなさい」
あの女が、気分良く食事しているキャサリンとロバートに絡み出す。
「なにやってんだ!」
今までの和やかな雰囲気はどこに行ったのか。
ザルバが鬼のような顔をしてすっ飛んで行った。
アンナリーナの様子も剣呑になる。
ゲルトとフランクも剣を手に取って立ち上がった。
「うちとあんたらは別だって言ってるだろう!
うちの客に迷惑をかけないでくれ!」
なぜ、向こうの馬車の食事を用意しなければならないのか謎だ。
あちらの御者がすまなそうにこちらを窺っている。
「ちょっとお前ら、来い!」
ザルバが、女と話していても埒があかないと感じたのか御者と護衛を呼んだ。
まずは護衛に言う。
「お前ら、さっさと火を熾して支度しろ!
今日は初日なんだ、すぐに食えるものくらい持ってるだろう」
「私はここでいいわ」
「うるさい!ここでは食わせない!
さっさとこの女を連れてけ!」
ザルバがとうとう爆発した。
「俺たちはあんたらの顔も見たくないんだ。
大体、組合に押し付けられはしたが依頼として請け負ったわけじゃない。
やむを得ない場合は見捨てても良いと組合に確認してある」
厳しい事をポンポン言い始めたザルバを前に、御者や護衛は最早、青いを通り越し真っ白な顔色となっている。
「お客も迷惑してるんだ。
あんたらがエイケナールに到着するのを待つのに一泊余計に宿泊したんだぞ。
今は俺が立て替えてる宿泊費、今すぐここで支払って貰おうか?!」
金の話をし始めると途端に大人しくなる。
これは、エイケナール村での買い物の様子から、女はあまり金の持ち合わせがないのではないかと思われているからだ。事あるごとにこちらにたかろうとするのも、そういう事なのだろう。
実際、この想像は当たっていて、当初貴金属を金に替えようとしていた女の目論見は外れ、現金が乏しくなっていた。
女が御者に突かれて自分たちの場所に戻っていく。
これで明日の朝まで顔を見せることはないだろう。
その後ろで、護衛たちが恨めしそうにこちらを見ていた。
楽しい食事を途中で邪魔されて、すっかり白けた雰囲気の中、食べ終わったものから片付けてピットの中に入っていく。
乗客は全員ピットで寝て、ゲルトとフランクは焚き火の前で交代で睡眠を取りながら夜番をする。
ザルバは馬車の中だ。
「あの~ 私、ちょっと調合したいから自前のテントで寝ていいかな?
その前にピットに行って、マチルダさんの寝床の準備を手伝って来るけど」
「まあ、しょうがないな。
なるべく近くにテント、張れよ」
ゲルトの了承に気を良くしたように、アンナリーナはスキップしてマチルダの後を追った。
「へえ、ピットの中ってこんなふうなんだ」
シンプルな板敷きの床。
家具は何もない。ただ、男女を分けるためだろう、カーテンで間仕切り出来るようになっている。
ここでも床にゴロ寝するようだ。
「女の人だけでも何とかしたいよね……登山用品に何かいいの、あったかな」
幸い冬ではないのでさほど防寒に気を使う事はない。
だが床の硬さは何とかしてあげたかった。
「マチルダさん、ちょっと薬湯を調合して来るので少し休んでいてもらえます? 靴も脱いでゆっくりしていてね」
ピットから飛び出して、少し離れた林との境にテントを出した。
すぐに結界を張って安全を確保し【異世界買物】の登山用品のリストを出して情報を漁り始める。
「どちらにしても、目についたら異端な物体よね。
まだ低反発マットレスのほうがマシかな……
これを毛布で包んだら誤魔化せるかしらね」
ブツブツ言いながらカートに放り込んでいく。
魔力値での精算が終わるとすぐに、例の段ボール箱に入って届いた。
「これを速攻で毛布に包んで四方を縫い付けて……と」
あっという間にマチルダと、それからキャサリンの分を縫いあげて、2枚を担ぎ上げた。
そんなアンナリーナの、テントから出て来た姿を見てフランクが目を丸くしている。
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