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第二章

86『領都に到着』

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結局、2ヶ月近くかかって国境を2つ越えたアンナリーナたちはようやく、ハルメトリア国のギィ辺境伯領、領都ハンネケイナの中央門を前にしていた。

 山賊たちの本拠地である洞窟を後にして、採取や魔獣を狩ったりしてゆっくりと進んできたアンナリーナたちは、途中立ち寄った湖で攻撃魔法の練習などをして充実した日々を過ごしてきた。
 その、良い意味での副産物として湖の魚が手に入った事は嬉しい誤算だった。
 特に鯉に似た魚や鱒に似た魚、岩魚のお化けのような魚に、しゃこに似た甲殻類も嬉しい。
 そして水性魔獣……雷魔法の中でも比較的使いやすいサンダーアローを放ったところ、巨大な蛙や蟹、水馬や水蛇がプッカリと浮き上がって来て、アンナリーナは小躍りしそうになった。

 セトには最近になって風魔法と雷魔法を供与した。
 本来の体長も3mを超して、成獣に近づいている。

 アマルは少しづつ成長させている。
 今はスキルを供与せず、体力値と魔力値の底上げに力を入れている。
 セトの時のように急激な供与は脆弱なクラゲの体には耐えられないだろうからだ。
 その代わり、意外な事を発見した。
 ……アンナリーナは常々頭を悩ましていたが、良案が浮かばなかったこと。
 初めは前世のラノベよろしく、スライムを思い浮かべた。だが、ナビに検索させてもこの世界にスライムはいなくて諦めていたのだが、ある日サラダを作っていて、空になったマヨネーズのボトルを机に置いたその時、フヨフヨと漂っていたアマルが触手を伸ばしてきて取り上げ、食べたのだ。

「ああ? アマル?」

 ぼんやりとそのさまを目撃したアンナリーナは、試しに菓子の入っていたプラスチック容器を取り出し、渡す。
 喜んで受け取ったアマルは嬉しそうに食べ始める。

「やったー!!
 前世で読んだ、某小説に出てくるスライムみたいに異世界ゴミを食べてくれたよ……アマル、いーっぱいあるからいくらでも食べてね」

 アマルが嬉しそうにフルフルと体を揺らす。そろーっと伸ばしてきた触手はもっとくれと言わんばかりに揺れている。
 この事があって、アンナリーナのインベントリに死蔵されていた異世界ゴミはどんどん減っていった。


「へぇ~ 立派な門だね。
 この、外壁も随分頑丈みたい」

 思わず、といったように呟かれた言葉に、ナビが応えた。

『辺境伯の領都ですからね。王都の次に大きな街ですよ』

 アンナリーナたちは今、検問を受ける為に並んでいるのだ。
 さすがに今まで滞在した村とは桁違いに、列ができるほど人が並んでいた。

「それにしても……うん、すごいひと」

 これはきっと、アンナリーナがこの世界に生を受けてから、一番たくさんの人を見たのではないだろうか。
 すでに、アンナリーナの後ろにも長蛇の列が出来上がっている。

「嬢ちゃんは、領都は初めてかい?」

 アンナリーナの後ろに並んでいた壮年の男が声をかけてきた。
 それとなく誘導して情報を仕入れてみる。
 退屈していた彼は最後に、閉門までにこの列が解消出来ない時はこの門の前で野営になる、ということを教えてくれた。

「それも面白そうだけど……」


「次の者!」

 門番の兵士が大きな声で呼ばう。
 進み出たアンナリーナを見て、彼は首を捻った。

「あ~
 両親か付き添いはどこに行った?
 所用か?」

 兵士の胸にも届かない身長のアンナリーナは、十分子供に見える。

「付き添いはいません。
 私は1人でここに来ました」

 胡乱げな目がアンナリーナを見下ろしている。少し警戒度が上がったようだ。

「じゃあ、何か身分証を見せてもらえるか?お嬢ちゃん」

「ごめんなさい。
 私、つい最近まで育ての親と森の中で暮らしていたんです。
 それで初めて森を出たので、身分証は……持ってません」

 今回、一からギルドで登録するつもりなので、モロッタイヤ村でもらった身分証は使わないつもりだ。

「じゃあ……悪いがこっちに来てくれ。簡単な調査をさせてもらう」

 門の横の扉を開けると小部屋があり、机と椅子が置いてある。どうやらここで質問を受けるようだ。

「そこに座って楽にしてくれ」

 アンナリーナはその言葉に従ってフードを下ろした。
 ちなみに今日は、いつものクリーム色のローブは目立つので、無難な茶色のローブを着ている。

「すまないな。
 これは辺境伯領では決まっていて、例外はないんだ」

 見覚えのある水晶が運ばれて来て、アンナリーナの前に置かれる。
 これに触れればモロッタイヤ村の時のように情報が羅列されるのだろう。
 ちなみに、隠蔽は完璧だ。

「これに手を乗せてくれ」

 言われた通りに手を乗せて兵士を見ると、一瞬で顔色が変わる。

「っ!! 薬師殿!?」
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