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第三章

111『お好み焼きっ!』

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 ふわふわとかつお節が踊るのは別として、はっきり言ってあまり見栄えの良い食べ物ではない。
 色合いは地味だし、見たところ特別な食品を使っているわけでもない。

 3人は、アンナリーナに勧められるまま、お好み焼きを口に運んだ。

「!! 美味いっ!」

 男たちが一気にガツガツと食べ始めたのを見て、アンナリーナも久々のお好み焼きを口にした。


 昨夜の間に作っておいたお好み焼きのタネは基本の、小麦粉を出し汁でといた液とキャベツのみじん切りの他に、玉子、それとおつまみなどとして食する事の多い【い○天】を粉々に潰したものを入れて、隠し味にマヨネーズを少々。あと山芋もすりおろして入れてある。
 それをざっくりと混ぜ、すぐにアイテムバッグにしまっていた。

 この世界に生まれて、初めてのお好み焼きだ。
 元々前世では、いわゆる粉物と言うジャンルのものが大好きだった。

「うん、美味しい……」

 じ~んと感動する暇もなく、次を仕上げなくてはならない。
 先ほどと同じようにひっくり返して、再びフォークを手にした途端、視線を感じてテオドールを見た。

「……」

 言いたい事はよくわかった。
 目は口ほどに物を言う、とはよく出来た言葉だなと思いながら、アイテムバッグから瓶ビールを取り出す。
 それを見て、わかりやすく表情を崩して喜ぶテオドールに続けてジョッキを3つ渡すと、後は自分たちでやってもらうとする。

 そりゃあ、お好み焼きにはビールが美味いだろう。
 アンナリーナだってこんな時でなければ、たとえグラス一杯でも頂きたい。
 だが、そもそもこんな時にお好み焼きパーティーをするアンナリーナに問題があると思うのだが。


 アンナリーナがペロリと2枚平らげたものを、男たちが同じ量で満足するはずがない。
 ビールとともに熱々のお好み焼きを次々と食している彼らは、つかの間外の厳しい状況を忘れていられたのだ。

 その体格に見合った食欲を持つテオドールが、ようやく満足した時、アンナリーナは軽い疲れに襲われていた。

「熊さん、よく食べたね~」

 ダージェとボリスはとっくにリタイヤして、ゲームテーブルにてパズルに挑戦している。
 今は2人で53㎝×38㎝の500ピースに向かっているが、この後テオドールもそれに加わるのだろう。

『今夜は早めに休ませてもらおう』

 アンナリーナは使わなくなったボウルや食器を【洗浄】して、片付け始めた。

「熊さん、今夜はちょっと疲れたからあっち(アンナリーナが普段使っているテント、ここならテオドールも出入りできる)で寝るよ。
 何かあったら声かけてね。
 それからあまり飲みすぎないように」

 もう次の酒……ブランデーに気持ちが行っているテオドールに一言、声をかけていつものテントに向かった。


「リーナ様、お疲れ様です。
 ……少し、お顔の色がすぐれませんが」

 アンナリーナが戻ってきたのを感じて、一番にアラーニェがやって来た。
 だが、すぐに怪訝な表情をする。

「うん、ちょっと疲れちゃった。
 ごめんけど、お風呂にお湯を溜めてくれる?」

 すぐにアマルが呼ばれ、入浴の準備が始まる。
 アラーニェはアンナリーナを抱き上げて、まず寝室のソファーに運んでいく。
 実は従魔たちは、この事態を懸念していた。
 ……元々アンナリーナは丈夫な身体を持っていないのだ。
 それなのにここ数日の魔力の消費は半端ではない。
 今、展開している【結界】の為の消費量だけでも膨大なはずなのだ。

「リーナ様、お疲れでしたらもうお休み下さい。
 このアラーニェにお任せ下されば、清めて差し上げますので」

「うん、じゃあお願いしようかな。
 もう、眠くて……目を開けてることが、できない」

 目を閉じて、瞬時に眠りに落ちてしまったアンナリーナの手は冷たい。

「はい、はい、承りました」

 アラーニェの目が潤んでくる。

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