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第三章
124『国境』
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川を渡る手前にある、自国側の出入国管理関所の前でアンナリーナたちは、出国の許可を待っていた。
実は許可自体は出ている。
出ているのだが、受け入れ側の彼方の関所が閉鎖されているのだ。
「これって、いつまで待たされるんでしょうね」
「この国境はたまにあるんだよ。
まさか今回、それに当たるとは思わなかったが……まあ、待つしかないね」
ダージェは諦めきっている。
国境が閉鎖される理由は色々あるが、多くは交代人員のいない警備兵の休憩のためだと言う。
冬の時期は出入国者の数がぐっと減るため、隣国ではこのようなシステムが取られているそうだ。
「忘れた頃に関所を開け、入国を受け付けるから、ここから動く事が出来ないんですよ」
ボリスが口を尖らせている。
「まあ、しょうがないんじゃないか?
リーナ、少し寝るか?」
実は昨夜、あの討伐の後、猛りきった身体は興奮を抑える事が出来ず、その身を差し出したアンナリーナを朝まで貪っていた。
アンナリーナは寝不足の上に疲労困憊のはずなのだが、今見た目はシャンとしているのが不思議だ。
アンナリーナとしては治癒魔法【回復】と試作品として作っていた上級ポーションを飲んで、ようやく凌いでいたのだが。
「そう? じゃ、そうさせてもらおうかな」
ダージェは気を遣って外に出てくれたようだ。
通行がいつになるかわからないが、インベントリから小型のジグソーパズルを取り出して渡しておいた。
これで暇を潰すことが出来るだろう。
「じゃあ、ちょっとの間おやすみなさい」
ガタンと馬車が揺れ、喧騒が聞こえてきた。
馬たちのいななきが聞こえ、人の話し声がする。
アンナリーナが身を起こして毛布をたたんでいると、パズルを乗せた板を持ったダージェが乗り込んできた。
「ああ、リーナちゃん。起きていたんだね」
「はい、たった今。
よければそれ、お預かりします」
板を受け取って、インベントリに仕舞う。
そして、ゆっくりと動き出した馬車は、橋の上を走り出した。
「熊さんは?」
「俺はここだぞ~」
馬車を外からゴンゴンと叩いてくる。
今日は余計なトラブルを招かないように、イジはツリーハウスに残している。
とりあえず【アグボンラオール】に入国してしまうまで、テオドール一人で護衛しているのだ。
橋を渡り終わって、アグボンラオール側の関所に着き、馬車を止めると警備兵に話しかけられた。
ダージェが馬車から降りて対応する。
「遅くなって申し訳ない。
入国まで、あと少しお時間を頂きたい」
思いの外、腰の低い兵に自分たちの身分証とテオドール、アンナリーナのギルドカードを差し出した。
「王都まで行かれるのですね。
ここ数日、天候は安定していますよ。
……こちらのギルドカードの方は薬師殿ですか?」
ひょこりと顔を出したアンナリーナを見て、兵士はギョッとしている。
その彼にアンナリーナが話しかける。
「そこにも書いてある通り、わたしには従魔がいるのですが、今申請した方がいいですか?」
「いえ、次の町のギルドで申請して下さい。
それと、一応荷物を拝見したいのですが」
それを聞いたダージェが、懐から一枚の書類を取り出し、それを兵士に見せている。
「わかりました。
では検査は免除致します。
長い間、お付き合い頂き、ありがとうございます」
どこまでもていねいな兵士に会釈し、ダージェが乗り込んだ馬車は動き出したが、いくらも進まないうちに、ゆっくりと止まった。
「あれ? どうしたのかな?」
ダージェが御者台に通じる小窓を開けるとボリスが振り向いた。
「旦那様、今日はもう陽が暮れてきましたし、このあたりで野営はいかがでしょうか?
関所からも近くて、馬留場もありますし」
今日はもう時間切れのようだ。
アンナリーナたちは今夜はここで野営する事に決め、準備に入る。
たったひと山、たった川ひとつ越えただけなのに、肌に触れる空気が違う。
暖かい、というわけではないが寒くもない。
もう今夜は結界だけで、ストーブはいらないだろう。
アンナリーナはいつものようにテントを出し、焚き火を焚いて夕食の準備を始めた。
実は許可自体は出ている。
出ているのだが、受け入れ側の彼方の関所が閉鎖されているのだ。
「これって、いつまで待たされるんでしょうね」
「この国境はたまにあるんだよ。
まさか今回、それに当たるとは思わなかったが……まあ、待つしかないね」
ダージェは諦めきっている。
国境が閉鎖される理由は色々あるが、多くは交代人員のいない警備兵の休憩のためだと言う。
冬の時期は出入国者の数がぐっと減るため、隣国ではこのようなシステムが取られているそうだ。
「忘れた頃に関所を開け、入国を受け付けるから、ここから動く事が出来ないんですよ」
ボリスが口を尖らせている。
「まあ、しょうがないんじゃないか?
リーナ、少し寝るか?」
実は昨夜、あの討伐の後、猛りきった身体は興奮を抑える事が出来ず、その身を差し出したアンナリーナを朝まで貪っていた。
アンナリーナは寝不足の上に疲労困憊のはずなのだが、今見た目はシャンとしているのが不思議だ。
アンナリーナとしては治癒魔法【回復】と試作品として作っていた上級ポーションを飲んで、ようやく凌いでいたのだが。
「そう? じゃ、そうさせてもらおうかな」
ダージェは気を遣って外に出てくれたようだ。
通行がいつになるかわからないが、インベントリから小型のジグソーパズルを取り出して渡しておいた。
これで暇を潰すことが出来るだろう。
「じゃあ、ちょっとの間おやすみなさい」
ガタンと馬車が揺れ、喧騒が聞こえてきた。
馬たちのいななきが聞こえ、人の話し声がする。
アンナリーナが身を起こして毛布をたたんでいると、パズルを乗せた板を持ったダージェが乗り込んできた。
「ああ、リーナちゃん。起きていたんだね」
「はい、たった今。
よければそれ、お預かりします」
板を受け取って、インベントリに仕舞う。
そして、ゆっくりと動き出した馬車は、橋の上を走り出した。
「熊さんは?」
「俺はここだぞ~」
馬車を外からゴンゴンと叩いてくる。
今日は余計なトラブルを招かないように、イジはツリーハウスに残している。
とりあえず【アグボンラオール】に入国してしまうまで、テオドール一人で護衛しているのだ。
橋を渡り終わって、アグボンラオール側の関所に着き、馬車を止めると警備兵に話しかけられた。
ダージェが馬車から降りて対応する。
「遅くなって申し訳ない。
入国まで、あと少しお時間を頂きたい」
思いの外、腰の低い兵に自分たちの身分証とテオドール、アンナリーナのギルドカードを差し出した。
「王都まで行かれるのですね。
ここ数日、天候は安定していますよ。
……こちらのギルドカードの方は薬師殿ですか?」
ひょこりと顔を出したアンナリーナを見て、兵士はギョッとしている。
その彼にアンナリーナが話しかける。
「そこにも書いてある通り、わたしには従魔がいるのですが、今申請した方がいいですか?」
「いえ、次の町のギルドで申請して下さい。
それと、一応荷物を拝見したいのですが」
それを聞いたダージェが、懐から一枚の書類を取り出し、それを兵士に見せている。
「わかりました。
では検査は免除致します。
長い間、お付き合い頂き、ありがとうございます」
どこまでもていねいな兵士に会釈し、ダージェが乗り込んだ馬車は動き出したが、いくらも進まないうちに、ゆっくりと止まった。
「あれ? どうしたのかな?」
ダージェが御者台に通じる小窓を開けるとボリスが振り向いた。
「旦那様、今日はもう陽が暮れてきましたし、このあたりで野営はいかがでしょうか?
関所からも近くて、馬留場もありますし」
今日はもう時間切れのようだ。
アンナリーナたちは今夜はここで野営する事に決め、準備に入る。
たったひと山、たった川ひとつ越えただけなのに、肌に触れる空気が違う。
暖かい、というわけではないが寒くもない。
もう今夜は結界だけで、ストーブはいらないだろう。
アンナリーナはいつものようにテントを出し、焚き火を焚いて夕食の準備を始めた。
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