上 下
278 / 577
第四章

38『焼肉丼っ!』

しおりを挟む
 ノームと言う魔獣は、場所によっては亜人(この世界ではドアーフやエルフがそれにあたる)に分類される生物で、元々は土霊から派生したと言われている。
 彼らも人に混じって暮らす事がないわけではないが、元々戦闘能力を持たない弱い種族のため、滅多に見ない存在だった。
 それはノームのあまりにも脆弱な見た目からもわかる通り、身長はアンナリーナよりも低い1mそこそこ、手足はひょろりと細長く、とても得物を持てるとは思えないが、アンソニーは包丁の使い方だけは絶品であった。

 そのアンソニーがアンナリーナの前に姿を現した。
 以前はノームらしく、黒髪黒目でベージュの肌だったのが、今は身長からして2m近く、鈍色の髪に山鳩色の瞳、褐色の肌をコックコートで包み、髪は綺麗に撫で付けられて首の後ろでまとめられている。
 アンソニー……彼はアンナリーナに体力値、魔力値共に供与され【トロール】に進化していたのだ。

「主人様の差配通り、漬け込んでおいたミノタウロス肉、持って参りました。あと、塩胡椒で食べられるよう、ロースの霜降りの按配のよい部位を取り分けてあります」

「ありがとう。
 皆で焼いて食べようか」


 小さな村の宿屋だが土地だけはたっぷりある。
 厩と隣り合った駐馬車場に、今宵は2台……いや3台の馬車が停められていた。
 その前で今、焼肉パーティが行われている。
 今日の肉はミノタウロス、それとアンナリーナの秘蔵のエイケナール産ウインナーだ。
 焼き上がった肉を、ふんだんに用意されたサニーレタスに包み、食べる。
 今夜は【異世界買物】で買ったキムチも共に包んで、アンナリーナは舌鼓を打った。

「キムチ久しぶり~ 美味いっ!!」

「ご主人様、これは何と言うか……辛いのに癖になる味ですな」

「白ご飯が欲しい……」

「そう思って用意してあります。
 多分 “ ドンブリ ”にして食されると思って炊いておきました」

 素早く動いたアンソニーが、魔導炊飯器のまま、丼鉢や焼肉のタレなどと一緒に持ってきた。
 まずはご飯、炊きたてのご飯をよそってアンナリーナに渡した。

「う~ 夢にまで見た、キムチとご飯。いっただきま~す!」

 スーパーなどで売っている、有名メーカーのキムチ。
 アンナリーナはこの辛さの中に甘さがあるキムチが大好きだった。
 まさか今世でまた味わえるとは……目尻に涙が滲む。

「さて、今度は焼肉ものせるよ」

 程よく焼けたカルビ部位をご飯にのせて、タレをかける。
 そしてキムチをのせ、白髪ねぎをのせて出来上がり。

「あああ! 野菜のっけるの、忘れた~ もう、いいか」

 アイテムバッグから、マイ箸を取り出して、食べる。

「あ~ 幸せ……」


 セトやイジも真似をして焼肉丼に舌鼓を打ち、テオドールを除いた家族全員がなごんでいた時、それを邪魔するものが現れた。

「何と香ばしい匂いなんだ」

 宿屋の母屋の方から現れたのは、タイニスと従者の男だ。

「タイニスさん、どうかなさいました?」

 それとなくアンナリーナを庇うように立つのはアラーニェだ。

「いや、あなたと少々お話したいことがあって」

「申し訳ないですが、一応テオドールを通してもらえませんか?」

 食事を邪魔されて、アンナリーナは機嫌が悪い。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界のんびり散歩旅

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,436pt お気に入り:745

初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35,918pt お気に入り:6,943

転移無双・猫又と歩む冒険者生活

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:170

処理中です...