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第四章
146『揉め事』
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アンナリーナたちの乗った乗り合い馬車は、順調に進んでいた。
一日置きのスケジュールで、宿に宿泊と野営を繰り返し、大きな都市の直前の村を出発したその夜、到着が遅れ、あたりが暗闇に包まれたなか、ダマスクたちは忙しく立ち動いていた。
宿泊用のテントを行商人たちも協力して設営している。
アンナリーナは焚き火を熾す役を頼まれ、慣れた手つきで石を並べ、薪を組んで火を点けた。
薬缶に水を入れて火にかける。
この時、ちょっとズルをして【加温】して時間の短縮を図った……皆には内緒である。
「あの、ちょっとよいかしら?」
アンナリーナが薪を足して火勢の調節をしていると、あの少女が声をかけてきた。
アンナリーナはチラリと視線を向けると、すぐに焚き火の方に戻してしまう。
「あの……あちらの乗客のテントのことなんだけど」
アンナリーナが無視しているというのに、彼女は勝手に話し始めたようだ。
「あそこって、私以外皆男の人でしょ? 居づらくって……
ねえ、あなたのテントにお邪魔させてもらえないかしら」
彼女はアンナリーナの見た目で、自分よりも年下だと思っているため、どこまでも上から目線を含んだもの言いだ。
「……悪いけど、あのテントに他人を入れるつもりはないの。
あちらで、さっさと夕食を済ませて寝たら?」
けんもほろろに断られて、少女は顔を真っ赤にしている。
それは羞恥なのか怒りなのか、どちらにしてもアンナリーナには関係ない事だが。
「同じ女じゃない。わかるでしょ?」
厚顔無恥な少女は、それでもまだ食い下がる。
「もういい加減にして。
私は、あなたを、テントに入れる気は、ないの!!」
アンナリーナにはっきりと拒絶されて、少女はその場を離れた。
それを、途中から気づいて様子を窺っていたテオドールの視線が追っている。
「リーナ」
「ちょっと危険かもね。
気をつけていた方が良さそう」
ふたりは頷きあった。
夕刻には、中南部でも指折りの大都市に到着するというそんななか、アンナリーナは一心にかぎ針を動かしていた。
前世で得意であったレース編みで、パイナップル編みのドイリーを編んでいる。
糸はアラーニェに紡いでもらったアラクネ絹製で、目の覚めるような純白だ。
その糸を、華奢な金属製のかぎ針を操って、見事な模様に仕上げていく。
「ねえ、それは何を作っているの?」
音もなく近づいて来ていた少女が、もうそれなりの形に編み上がっているドイリーに触れようと、手を伸ばしてきた。
アンナリーナはドイリーを引き寄せ、少女を睨みつける。
「汚れた手で触ろうとしないで。
あなた、昼食の後、手を清めてないでしょう?」
あまりに露骨な言いように、少女はまた顔を赤くしたが、まだ引き下がらないようだ。
「ごめんなさい。
でも、すごく珍しいものだから……
よければ作りかたを教えてもらえないかしら」
「あのね」
アンナリーナは、一般人に対して普段は温和に接している。
だが今回、この少女はしつこくしすぎたのだ。
「はっきり言わせていただくけど、迷惑なの。
私はあなたと関わりたくない。
もう、話しかけないでいただけるかしら」
ピシャリと言われて、少女も返す言葉がないようだ。
すごすごと自分の席に戻っていき、傷ついた様子で俯いている。
そんな2人の遣り取りを、ひやひやしながら窺っていた乗客たちは、ホッとしたかのように溜息を吐いた。
一日置きのスケジュールで、宿に宿泊と野営を繰り返し、大きな都市の直前の村を出発したその夜、到着が遅れ、あたりが暗闇に包まれたなか、ダマスクたちは忙しく立ち動いていた。
宿泊用のテントを行商人たちも協力して設営している。
アンナリーナは焚き火を熾す役を頼まれ、慣れた手つきで石を並べ、薪を組んで火を点けた。
薬缶に水を入れて火にかける。
この時、ちょっとズルをして【加温】して時間の短縮を図った……皆には内緒である。
「あの、ちょっとよいかしら?」
アンナリーナが薪を足して火勢の調節をしていると、あの少女が声をかけてきた。
アンナリーナはチラリと視線を向けると、すぐに焚き火の方に戻してしまう。
「あの……あちらの乗客のテントのことなんだけど」
アンナリーナが無視しているというのに、彼女は勝手に話し始めたようだ。
「あそこって、私以外皆男の人でしょ? 居づらくって……
ねえ、あなたのテントにお邪魔させてもらえないかしら」
彼女はアンナリーナの見た目で、自分よりも年下だと思っているため、どこまでも上から目線を含んだもの言いだ。
「……悪いけど、あのテントに他人を入れるつもりはないの。
あちらで、さっさと夕食を済ませて寝たら?」
けんもほろろに断られて、少女は顔を真っ赤にしている。
それは羞恥なのか怒りなのか、どちらにしてもアンナリーナには関係ない事だが。
「同じ女じゃない。わかるでしょ?」
厚顔無恥な少女は、それでもまだ食い下がる。
「もういい加減にして。
私は、あなたを、テントに入れる気は、ないの!!」
アンナリーナにはっきりと拒絶されて、少女はその場を離れた。
それを、途中から気づいて様子を窺っていたテオドールの視線が追っている。
「リーナ」
「ちょっと危険かもね。
気をつけていた方が良さそう」
ふたりは頷きあった。
夕刻には、中南部でも指折りの大都市に到着するというそんななか、アンナリーナは一心にかぎ針を動かしていた。
前世で得意であったレース編みで、パイナップル編みのドイリーを編んでいる。
糸はアラーニェに紡いでもらったアラクネ絹製で、目の覚めるような純白だ。
その糸を、華奢な金属製のかぎ針を操って、見事な模様に仕上げていく。
「ねえ、それは何を作っているの?」
音もなく近づいて来ていた少女が、もうそれなりの形に編み上がっているドイリーに触れようと、手を伸ばしてきた。
アンナリーナはドイリーを引き寄せ、少女を睨みつける。
「汚れた手で触ろうとしないで。
あなた、昼食の後、手を清めてないでしょう?」
あまりに露骨な言いように、少女はまた顔を赤くしたが、まだ引き下がらないようだ。
「ごめんなさい。
でも、すごく珍しいものだから……
よければ作りかたを教えてもらえないかしら」
「あのね」
アンナリーナは、一般人に対して普段は温和に接している。
だが今回、この少女はしつこくしすぎたのだ。
「はっきり言わせていただくけど、迷惑なの。
私はあなたと関わりたくない。
もう、話しかけないでいただけるかしら」
ピシャリと言われて、少女も返す言葉がないようだ。
すごすごと自分の席に戻っていき、傷ついた様子で俯いている。
そんな2人の遣り取りを、ひやひやしながら窺っていた乗客たちは、ホッとしたかのように溜息を吐いた。
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