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第四章

298『ダンジョンの死霊』

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「私がツリーハウスに戻る前に探査した時にはあんなのは……ヒトにしろアンデッドにしてもいなかった。
 どっから出てきたの?
 ……下の階から上がってきたのかしら」

 着替えて戻ってきたアンナリーナがテオドールたちに守られながら、珍客の様子を伺っていた。
 “ それ ”は一見してはアンデッドには見えない程度の、だが生気のない表情と濁った瞳、何よりも意思の疎通ができない事からテオドールたちは異常を感知した。
 今 “ それ ”は結界に張り付き、爪を立て引っ掻いている。

「これは……ドロドロのアンデッドじゃないだけマシなんでしょうけど、一体どうなってるの?」

 一目見て冒険者とわかる装備をつけた男は、死んでそれほど経ってないように思える。
 だがこのダンジョンで今までアンデッドは見たことがないアンナリーナは、これもダンジョンの特性なのかと思っていた。

「アンデッドはあのひと1人?
 1人みたいだね」

 アンナリーナは探査を62階層全体に広げてていねいに見ていく。
 他は普通の魔獣だと確認して、さてどうしようと思う。

「何人か残して休みましょう」

 屠ってしまうのは簡単だが、始末に困る。
 これは一度ギルドに持ち帰り、相談した方が良さそうだ。
 そう思ってテオドールと話していると、アンナリーナたちの目の前でそのアンデッドが地面に吸い込まれるようにして姿を消した。

「わっ、何っ!?」

「こいつは……」


 ダンジョンの中で命を失ったものは一定の時間が経過すると、ダンジョンに吸収される。
 これはヒトも魔獣も変わりなく、ダンジョン内で遺体などが発見出来ない理由となっていた。
 ただ、ダンジョン産のアンデッドに関しては謎が多く、その成り立ちは解明されていなかった。
 今回のこの状況は、その謎の解明につながるかもしれない。


「こんなの初めてだけど、他の階層でもあり得るのかしら」

 アンナリーナやネロの眷属のアンデッドたちは意思を持ち、やりとりができる。彼らはまるで生きていた頃のように動き回る。
 だが今回のアンデッドは動きは緩慢であまり気持ちの良いものではない。

「とりあえず……
 休憩や野営の時は気をつけていきましょう。
 特に野営は結界を十分に展開する」

 翌朝、皆で話し合った結果、一度地上に戻ることにしたアンナリーナは最後にもう一度探査してみた。

「昨夜の、ちょっと変わった気配のアンデッド。
 今は見当たらないね」

 ひょっとして夜限定なのだろうか。
 アンナリーナは今夜もここに戻ってくることにする。

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