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花散る
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久光は何も考えず、うとうとと眠りについていた。
(あぁ、もう、五月蝿い。)
外がガヤガヤと五月蝿く、落ち着きを無くした彼は、「誰かある!」と人を呼ぶ。
「何でしょうか、若君。」
すぐさま乳母が駆けつけてきたので、彼は口を開いた。
「五月蝿いよ、こんな夜中に。何か、あったのかい?」
乳母は、何も存じませんよ、と首を振った。
「何も無いなら、下がってよろしい。しかし、この騒ぎは気になる。何かあったならば、すぐさま知らせる様に。」
乳母にそう言いつけけ、乳母が下がると、彼は溜め息をついた。
その頃、姫君はぐっすりと眠っていた。
-ガタン。
(何かしら、今の音。誰か、調度でも倒したの?)
いきなり鳴った、その音に気を取られ、起きてしまった。
帳台から起き上がって、外を見回してみたが、倒れた調度など、無かった。
(変ね。なら、何だったのかしら。今のは…………)
彼女は、気のせいね、と帳台に戻った。
-ガタン、ガタン。
音も大きくなり、「姫様!」と、珠寿が飛び込んできた。
「何なのよ、これ。」
姫君は、オドオドとしていて、落ち着きがない。
「大変です、姫様、珠寿様!」
女童が、珠寿の元へ落ち着きもなく、走ってやって来た。
「どうかしたの?何?さっきから、不審な音がするわ。」
女童は、酷く怯えながら、「あのですね」と震えた声を出した。
「何?」
「盗人らしき者が、このお邸に入って来て………珠寿様。他の女房方もですが、一度、姫様をお連れして、お逃げになって下さい。」
女童の言葉に、姫君と珠寿は顔を顰めた。
「ええぃ、気のせいではないようだ。この音は、何なんだ。」
久光は乳母をまた呼びつけていた。
「存じません。」
と、断じて口を開かない。
「失礼致します!」
女童がたいそう怯えて入って来たので、久光は顔を顰めた。
「何事か、あったのか……………」
「ひえぇっ!」
珠寿が間抜けな声をあげた。普段なら、そんなことはしない、教養ある娘であるが。
「助けてください、神様、仏様、観音様!」
珠寿は命乞いを始めてしまった。
(ええぃ、姫様が助かるならば、私なんか、どうだって良いのだから!)
そう思えども、震えはなかなか止まってはくれない。
(私の震え、止まって……………)
姫君達は逃げることも出来ず、邸の奥で息を潜めていた。
-見つかるのも、時間の問題。
(お父様、お母様、御無事かしら……………!!)
「何?盗人がこの邸に入り込んだだと?どういう事だ!門番は、何をしている!」
「申し訳ございません!私共も、存じませんわ!」
(なんてこったい………………)
久光は眠かったが、その衝撃的な事件で、すっかり目を覚ました。
「若君様。もう、逃げましょう!ね?今逃げても、誰も咎めやしませんって。」
乳母は焦りながらもそう言ったが、久光は断じて首を縦には振らない。
「琴乃の姫君やその女房達が心配だ。婆や、僕は行ってくるよ。」
「おやめになさいまし!危のうございます!」
乳母は久光の袖を掴んだが、彼はそれを振り切って駆け出す。
「珠寿!」
待ちきれなくなった姫君がついに、奥から飛び出してきてしまった。
「姫様!」
珠寿は鳴き声でそう叫んだ。もう、心細かった。
「お願いよ、珠寿や、女房達に怪我させないで!」
姫君が吠える様に叫ぶと、乱入して来た相手はケラケラと笑う。
(黙りなさい、というか、口を慎め、畏れ多くも姫様の御前で、何を申すのやら!)
(姫様………………………お願いだ、何も起こっていないでくれ!)
久光は、渡り廊下をバタバタと駆けて行く。寝間着のままだったが、それさえ気にしなかった。
「姫様!」
駆け込んだ彼の目に映ったのは、互いを庇う様に抱き合う、姫君と珠寿だった。
「久光!駄目よ!」
泣き声がかった姫君は、久光に向かって吠えるように叫ぶ。
「何をする!此処を何処だと思っているのだ!?姫様方に、何をするつもりだ!?」
久光は姫君の前に飛び出した。
「久光、おやめなさい!」
チッ、と一人が舌打ちして、ピュン、と風を切る音がした。
-紅い血が、散って舞って、迸る。
「嫌ァ!」
姫君と珠寿が叫び始めて、血の匂いがして、と隣人が気が付き始めた。
仕方が無く、盗人等は、一目散に逃げていく。
「久光!ひ、さみ……………」
姫君は久光の肩を掴んで身体を揺らしている。
「あ”ぁ………………」
流れる血で、姫君の手や衣は紅く染められていく。
「姫様、止血をしないと、失血死してしまいます。」
と、珠寿が慌てて言ったので、姫君は衵の裾を破り、珠寿に渡した。
「姫様……………僕は、良いですって。それよりも、早く、お逃げなさい。」
切られた刃傷を押さえて、震えながらに忠告した。
「嫌よ、私を遺して、逝かないで、逝っては、駄目よ。私が、私が許さなくてよ…………だから、久光、気を確かになさい!」
「嗚呼………………駄目だ、姫様。僕は…………」
「生きて。人は、生きているから、懸命に生きているから美しいのよ!だから、自分から死なんて、考えては駄目!馬鹿!」
「ひ、姫様…………………」
-ドクン。
(痛い……………あ、駄目…………血が…………)
はあ、はあ、と息苦しそうに横になっている。姫君は、そんな久光に膝を貸してやった。
「死なないで。死んでは、駄目よ。私が、許さないわ。」
(ごめんなさい。僕、貴女のお願い、叶えられない。)
「はぁ、はぁ。」
死なないで、死なないで、と久光の肩を抱いて、姫君は叫んでいる。
「久光……………………」
スッと大きく息を吸って、ストン、と姫君にもたれ掛かる。
「やだ、嫌よ!久光!久光!」
(あぁ、もう、五月蝿い。)
外がガヤガヤと五月蝿く、落ち着きを無くした彼は、「誰かある!」と人を呼ぶ。
「何でしょうか、若君。」
すぐさま乳母が駆けつけてきたので、彼は口を開いた。
「五月蝿いよ、こんな夜中に。何か、あったのかい?」
乳母は、何も存じませんよ、と首を振った。
「何も無いなら、下がってよろしい。しかし、この騒ぎは気になる。何かあったならば、すぐさま知らせる様に。」
乳母にそう言いつけけ、乳母が下がると、彼は溜め息をついた。
その頃、姫君はぐっすりと眠っていた。
-ガタン。
(何かしら、今の音。誰か、調度でも倒したの?)
いきなり鳴った、その音に気を取られ、起きてしまった。
帳台から起き上がって、外を見回してみたが、倒れた調度など、無かった。
(変ね。なら、何だったのかしら。今のは…………)
彼女は、気のせいね、と帳台に戻った。
-ガタン、ガタン。
音も大きくなり、「姫様!」と、珠寿が飛び込んできた。
「何なのよ、これ。」
姫君は、オドオドとしていて、落ち着きがない。
「大変です、姫様、珠寿様!」
女童が、珠寿の元へ落ち着きもなく、走ってやって来た。
「どうかしたの?何?さっきから、不審な音がするわ。」
女童は、酷く怯えながら、「あのですね」と震えた声を出した。
「何?」
「盗人らしき者が、このお邸に入って来て………珠寿様。他の女房方もですが、一度、姫様をお連れして、お逃げになって下さい。」
女童の言葉に、姫君と珠寿は顔を顰めた。
「ええぃ、気のせいではないようだ。この音は、何なんだ。」
久光は乳母をまた呼びつけていた。
「存じません。」
と、断じて口を開かない。
「失礼致します!」
女童がたいそう怯えて入って来たので、久光は顔を顰めた。
「何事か、あったのか……………」
「ひえぇっ!」
珠寿が間抜けな声をあげた。普段なら、そんなことはしない、教養ある娘であるが。
「助けてください、神様、仏様、観音様!」
珠寿は命乞いを始めてしまった。
(ええぃ、姫様が助かるならば、私なんか、どうだって良いのだから!)
そう思えども、震えはなかなか止まってはくれない。
(私の震え、止まって……………)
姫君達は逃げることも出来ず、邸の奥で息を潜めていた。
-見つかるのも、時間の問題。
(お父様、お母様、御無事かしら……………!!)
「何?盗人がこの邸に入り込んだだと?どういう事だ!門番は、何をしている!」
「申し訳ございません!私共も、存じませんわ!」
(なんてこったい………………)
久光は眠かったが、その衝撃的な事件で、すっかり目を覚ました。
「若君様。もう、逃げましょう!ね?今逃げても、誰も咎めやしませんって。」
乳母は焦りながらもそう言ったが、久光は断じて首を縦には振らない。
「琴乃の姫君やその女房達が心配だ。婆や、僕は行ってくるよ。」
「おやめになさいまし!危のうございます!」
乳母は久光の袖を掴んだが、彼はそれを振り切って駆け出す。
「珠寿!」
待ちきれなくなった姫君がついに、奥から飛び出してきてしまった。
「姫様!」
珠寿は鳴き声でそう叫んだ。もう、心細かった。
「お願いよ、珠寿や、女房達に怪我させないで!」
姫君が吠える様に叫ぶと、乱入して来た相手はケラケラと笑う。
(黙りなさい、というか、口を慎め、畏れ多くも姫様の御前で、何を申すのやら!)
(姫様………………………お願いだ、何も起こっていないでくれ!)
久光は、渡り廊下をバタバタと駆けて行く。寝間着のままだったが、それさえ気にしなかった。
「姫様!」
駆け込んだ彼の目に映ったのは、互いを庇う様に抱き合う、姫君と珠寿だった。
「久光!駄目よ!」
泣き声がかった姫君は、久光に向かって吠えるように叫ぶ。
「何をする!此処を何処だと思っているのだ!?姫様方に、何をするつもりだ!?」
久光は姫君の前に飛び出した。
「久光、おやめなさい!」
チッ、と一人が舌打ちして、ピュン、と風を切る音がした。
-紅い血が、散って舞って、迸る。
「嫌ァ!」
姫君と珠寿が叫び始めて、血の匂いがして、と隣人が気が付き始めた。
仕方が無く、盗人等は、一目散に逃げていく。
「久光!ひ、さみ……………」
姫君は久光の肩を掴んで身体を揺らしている。
「あ”ぁ………………」
流れる血で、姫君の手や衣は紅く染められていく。
「姫様、止血をしないと、失血死してしまいます。」
と、珠寿が慌てて言ったので、姫君は衵の裾を破り、珠寿に渡した。
「姫様……………僕は、良いですって。それよりも、早く、お逃げなさい。」
切られた刃傷を押さえて、震えながらに忠告した。
「嫌よ、私を遺して、逝かないで、逝っては、駄目よ。私が、私が許さなくてよ…………だから、久光、気を確かになさい!」
「嗚呼………………駄目だ、姫様。僕は…………」
「生きて。人は、生きているから、懸命に生きているから美しいのよ!だから、自分から死なんて、考えては駄目!馬鹿!」
「ひ、姫様…………………」
-ドクン。
(痛い……………あ、駄目…………血が…………)
はあ、はあ、と息苦しそうに横になっている。姫君は、そんな久光に膝を貸してやった。
「死なないで。死んでは、駄目よ。私が、許さないわ。」
(ごめんなさい。僕、貴女のお願い、叶えられない。)
「はぁ、はぁ。」
死なないで、死なないで、と久光の肩を抱いて、姫君は叫んでいる。
「久光……………………」
スッと大きく息を吸って、ストン、と姫君にもたれ掛かる。
「やだ、嫌よ!久光!久光!」
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