曼珠沙華 -御伽噺は永遠に-

乙人

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大君

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 大君は、自分の部屋で、溜め息をつきながら絵巻物をいじくっていた。
(従姉かぁ…………来て欲しくないのに。)
 大君にとって姫君は、眼の上のたんこぶなのだ。
(喪があけたら来るって…………お父様、何て勝手なことをなさるの?あたしは、彼処の娘は、大っ嫌いなのに。そんなのも御存知ないのかしら。)
 大君が姫君を嫌っている理由は、客観的に見れば下らないものだった。
(あたしよりも良いとこの嬢さんですって………考えられないわ。)
 聞いていて、あまり意味の分からない理由だが、大君は自分が一番だと思っていたので、辛かったのだ。
 大君はふと、自分の着ている物を見てみた。袿に、単に……と、あまり高価ではないが、華やかな物を着ていた。 
 しかし、随分と前に見た姫君は、もっと素晴らしい衣を着ていたはずだ。
 それを思い出すと、また、劣等感に襲われる。
 その様なことを大君が考えているとは、姫君は知らない。

「ねぇ、知っている?」
「何?」
「大君様の従姉の姫君様が、喪があけたら此処にいらすそうよ。」
「あらまぁ、琴姫様(琴乃の姫君)ね。」
 大君つきの女房達は、縫い物をしながら賑やかに喋っていた。
「わたくし、其方にお仕え出来るか、お方様を説得せねば。」
「少し子供らしいところもおありらしいけれど、年相応だったわ。穏やかな姫君ですわ。」
「私も、其方がいいわ。大君様は、お仕えしづらいもの。」
「そうよねェ~。大君様はすぐに癇癪起こしてしまうし、物は大切になさらないしね。」
「御両親と私達の苦労と言ったら、はぁ、大君様には、分からないわよね。」
 仕える大君の愚痴を零しては、クスクスと笑う。
 彼女達が縫っているのは、大君が乱暴して、破いてしまった物だ。
 暴れん坊な大君よりも、優しい姫君の方に仕えたい、という女房の意見も尤もであろう。
「早く、いらっしゃらないかしら、琴乃の姫君様は。」
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