夢源郷

序

『私を赦してね。』
　母は剣を首に振るった。
　紅い血が、床を染めていく。着ていた衣も鮮やかに。
　ぎゃあぎゃあと泣いた。何も分からなかった。
　青い服を着た、青年に抱かれ、市井へ連れてゆかれた。

　母の名は、顕光大長公主。享年三十二。永寧大長公主と呼ばれ、東宮でもあった。珞燁と諱を持つ。
　父の名前は知らない。だが、公主と呼ばれるならば、帝なのだろう。

　同じ罪を、生まれ落ちた瞬間から背負い続けた母は、何故、そんな愚かな選択をしてしまったのだろう、そう、疑問に思った。


　これも、因果と思う。
　恋こいて………初めて愛したのは、母の敵の甥だった。