夢源郷

乙人

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櫞葉

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 一つ、昔話をしよう。

 十数年前に、一人の大長公主がいた。何処か翳りのある美しい女だったが、顔の頬に一筋の傷があった。
 大長公主は、兄の娘として育てられた。母が不貞を働いたからである。彼女は、十に満たない頃、それを知った。
 義理の姉の太后には疎まれ、下女の真似事なぞ、させられた。珞燁らくゆうと云った。
 大長公主は二十を超えるも、一つも縁談がなかった。やっと二十三になって嗅ぎつけた縁談は、相手が自害したことで解消された。大恥をかいた。
 大長公主は弟-本当は甥-を吾子の様に可愛がり、護った。
 二十六の頃、十八で彼が位を受け継いだ時、伴って東宮の位についた。
 大長公主は甥の秘密、そして太后の秘密を知った。気がついてしまった。そして、大長公主、東宮の位を剥奪され、約二十年ぶりに、また、下女として扱われた。母である淑妃に切られた腕の筋、太后に切られた脚の腱。左半身は麻痺し、歩くことさえ出来なくなった。
 大長公主は甥と父に助けられ、大長公主の位を取り戻した。
 毎日のように、太后は大長公主に刺客を送り続けた。
 太后の実家、魖家が、謀反を起こした。
 太后は殺された。
 魖家の者は滅された。
 大長公主は自由を初めて手に入れた。三十路になってからのことである。
 大長公主は後宮に住み続けた。廃妃魖氏を除き、四夫人は二人いた。更に妃は多くいたが、一番愛されていたのは、大長公主であった。
 三十二。大長公主は女御子を生み落とし、自害した。
 大長公主の名は永寧大長公主。後に、顕光大長公主と贈られた。
 生まれ落ちた公主は、大長公主の母の実家である櫖家に引き取られ、匿われた。

 思い出せば思い出す程、下らない。
 櫞葉えんようはそう思った。
 生まれ落ちた公主が自分のことであり、顕光大長公主が母であること、そして、その甥である帝が父であること。
 本当に下らない。
 今上には、三人の公主がいる。貴妃の女、霛塋れいえい公主、賢妃の女、明媛めいえん公主。賢妃は徳妃だったが、降格したそうだ。その従姉妹が男御子を産んでいる。
 櫞葉は、母を隠されているが、この中で一番身分高い、顕光大長公主だ。
 ある意味、櫞葉が一番生まれの確りとした公主であり、また、一番影のある生まれの公主である。
(何の因果だろうか。)
 母も不義の娘。また、己も不義の娘。
 母は罪作りだ。
「本当に寝覚めの悪い。」
 櫞葉公主はため息をついた。
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