恋情を乞う

乙人

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『吾國では、帝の五代の御子孫までを皇族とす。例外として、紅い瞳を持つ者も、その血縁に限り皇族とす。』
 この国には、そんな決まりがあった。

東宮旲瑓は太后の子ではないのではないか。』
 そんな噂が立ったことがあった。
『違うわ、そんなはずない。』
 その時庇ってくれたのは、我が姉、いや、我が叔母の永寧大長公主だ。
『この子は太后の子。』
 悲しそうに言っていた。
 本当のことを知っているのだろうか。

 二十年近く前のことである。
 いつぞやの帝の五代の孫に当たる方がいた。そして、その方には、一人の息子がいた。
 茶毛に紅い瞳の、愛らしい赤子だった。
 しかし、父は悔やんだ。この子は皇族に含まれないと。そして、紅い瞳を持つ者は皇族の血縁に限り、皇族に含まれなくても宗室に入れると知り、人を遣った。その日の夜、赤子は姿を消した。
 その頃、心を病んだ女人がいた。足元には、紅い血で染まった、塊があった。肉塊、が正しいのだろう。
 女が持っていたのは、女御子だった。身分が高くない女としては、最後の砦であるものは作れなかった。
 女のお付が、何かを抱えてやって来た。茶毛の、紅い瞳の赤子で、男御子だった。
『可愛い子。今日から私の子よ。』
 女は言って、赤子を抱きしめた。
 足元では、五月蝿い無能な肉塊が泣き喚いていた。

 この国には、有名な昔語りがあった。
 誰でも知っている話を思い出していた。

 昔。中原の國に、孤児の少女がいた。その少女は茶毛に紅い瞳で、それがきっかけで村の人々から避けられていた。少女は路頭に迷った。そして、女に拾われた。その女は腕の良い占い師だった。
 やがて、少女も占い師となり、都で評判となった。
 ある高貴な御方が少女に未来を尋ねた。少女は、それをぴたりと当てた。当たり過ぎる占い師は、やがて人々の恐怖となった。
 そして、少女はある時、高官の謀反を予想した。まさかと人は笑ったが、その通りになってしまった。
 少女は宮殿に呼ばれた。何かと思った。
 少女は牢に繋がれた。謀反を引き起こしたのが、少女だと言うのだ。
 当たり過ぎる占いの能力は、仇となった。
 少女は身寄りを既に無くしていた。そして、変わった見た目。
 少女は刑死した。凌遅にされた。見世物として。
 不幸な少女は死後、天に登り、天上の國を承った。それがこの國だ。
 皇族の印は、この國を建てた少女の特徴である茶毛、紅い瞳。
 例え皇族を名乗れない程下っていても、それを持っていれば、宗室に入ることが出来た。

 永寧大長公主は笑った。
 そして、何も言えずに肉塊となった姪を憐れんだ。
 太后が永寧大長公主を殺したい理由に、そのことが含まれているのだと、知っている。
 太后と旲瑓の関係。そして、旲瑓の正体を。
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