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明媛公主
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少女は空に憧れた。そして、その妹は、愛を求めた。
霛塋公主の妹に、明媛公主がいた。母は圓寳闐。名門の圓家を後ろ楯に持っており、将来も安泰だ。
寳闐は、すやすやと眠っている娘を眺めていた。
(私は、こんなのが、欲しかったわけじゃ、ない。)
寳闐にとって、好きでもない旲瑓の娘である明媛は、お荷物だった。政治的な駒であることだけは、同情していたが。ただ、それ以上の感情は、持てなかった。
寳闐の想い人、俐才人の兄である丁理が死んでから、どれだけ経ったのだろうと、感傷に浸る。
従姉妹である稜鸞は、璙寍皇子の母になった。同じ圓氏が男御子を産んだ。もう、役目は終わったのだろうと、安堵した。
(後宮を去りたい。)
どうせ名ばかりの妃なのだから、こんな窮屈な身分は捨ててしまいたい。
だが、後宮というのは、自由に出る事が出来ない。
宗室の人間以外は、定められた時にしか後宮を出られない。それは、親等に不幸があった場合、また、下賜される場合、重病を患った場合に限られる。
(まぁ、無理でしょうね。)
身内も己も、至って健康である。下賜は恐らくありえない。
勝手に出奔してしまえば、罪となり、一族郎党、道連れだ。
(別に、圓家に執着しているわけでもないけれど。)
寧ろ、潰されてしまえば良いのに、とまで考えてしまう。
母は七寚郡主と云ったが、父に殺されてしまった。服毒自殺だと思われていたが、真実とは異なる。それをひた隠しにしていただけなのだ。
運命なのだと、思ってしまった。
七は、切腹した人間から剥き出しに垂れた腸を示す文字なのだ。母は殺される直前、不貞を疑われたが、腹を切ることで疑いを晴らそうとした。しかし、その前に毒殺された。
大事な人を、失った。後に出会った丁理は、寳闐のぽっかりと空いた心を埋めてくれた。そして、また、失った。喪った。
報われただろうか。生きていて、一度は報われただろうか。否、報われることはない。圓寳闐として生を受け、死せるまで、恒久に。
「お前は、きっと私を、恨むのでしょうね。」
明媛に近づき、水分を含む綿で、喉を潤わせる。その行動自体には、不可解な点は、ない。だが、問題は飲ませた物だった。
何かと問われれば、毒。
死なぬよう、ほんの少しずつ飲ませた。
(私の幸せを食い潰してまで生まれてきた罰よ。お前は、幸せには、なれないわ。)
感情は消えてしまったらしい。
明媛公主はぐったりと、怠そうにしていた。それを見ても、何も思わなかった。
少女は愛を知らずに育った。
少女は愛を求め、そして、夢を叶えた。其処に、踏み躙られた、徒花を、微塵も知らずに。
霛塋公主の妹に、明媛公主がいた。母は圓寳闐。名門の圓家を後ろ楯に持っており、将来も安泰だ。
寳闐は、すやすやと眠っている娘を眺めていた。
(私は、こんなのが、欲しかったわけじゃ、ない。)
寳闐にとって、好きでもない旲瑓の娘である明媛は、お荷物だった。政治的な駒であることだけは、同情していたが。ただ、それ以上の感情は、持てなかった。
寳闐の想い人、俐才人の兄である丁理が死んでから、どれだけ経ったのだろうと、感傷に浸る。
従姉妹である稜鸞は、璙寍皇子の母になった。同じ圓氏が男御子を産んだ。もう、役目は終わったのだろうと、安堵した。
(後宮を去りたい。)
どうせ名ばかりの妃なのだから、こんな窮屈な身分は捨ててしまいたい。
だが、後宮というのは、自由に出る事が出来ない。
宗室の人間以外は、定められた時にしか後宮を出られない。それは、親等に不幸があった場合、また、下賜される場合、重病を患った場合に限られる。
(まぁ、無理でしょうね。)
身内も己も、至って健康である。下賜は恐らくありえない。
勝手に出奔してしまえば、罪となり、一族郎党、道連れだ。
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寧ろ、潰されてしまえば良いのに、とまで考えてしまう。
母は七寚郡主と云ったが、父に殺されてしまった。服毒自殺だと思われていたが、真実とは異なる。それをひた隠しにしていただけなのだ。
運命なのだと、思ってしまった。
七は、切腹した人間から剥き出しに垂れた腸を示す文字なのだ。母は殺される直前、不貞を疑われたが、腹を切ることで疑いを晴らそうとした。しかし、その前に毒殺された。
大事な人を、失った。後に出会った丁理は、寳闐のぽっかりと空いた心を埋めてくれた。そして、また、失った。喪った。
報われただろうか。生きていて、一度は報われただろうか。否、報われることはない。圓寳闐として生を受け、死せるまで、恒久に。
「お前は、きっと私を、恨むのでしょうね。」
明媛に近づき、水分を含む綿で、喉を潤わせる。その行動自体には、不可解な点は、ない。だが、問題は飲ませた物だった。
何かと問われれば、毒。
死なぬよう、ほんの少しずつ飲ませた。
(私の幸せを食い潰してまで生まれてきた罰よ。お前は、幸せには、なれないわ。)
感情は消えてしまったらしい。
明媛公主はぐったりと、怠そうにしていた。それを見ても、何も思わなかった。
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