恋情を乞う

乙人

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愛 参

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『此処は何処か、知らないのね。』
 女は笑った。

「此処は、天上の国。そうではありませんか。だから、私達が住んでいた世界を、下界と呼ぶのでしょう?」
「そうね。それは当たり。」
「ただ、この国は、下界よりも不自由ですね。」
 永寧は黙った。
「唯一平等なのは、死。でも、それさえもこの国では、不平等。」
 懐から、小瓶を取り出した。
「これを飲めば、私達は死ぬ。でも、貴方方は死なない。」
 そう言って取り出されたのは、あの廃后があおったのと同じ、砒素。
「そうね。私達はそんな物じゃ死なないわ。何故かは、分かる?」
 今度は凌氏が黙る。
「この国は、単なる天上の国ではないわよ。お前は勘違いしている様だけれどね。」
 凌氏は首を傾げる。

「此処は、死者の楽園なのよ。」

「ねぇ、凌。お前が妾を嫌っているのに、縁談をつけてきたのが、やっと、分かったわ。お前、妾を処分したかったんでしょう?いて欲しくなかったのでしょう?」
 凌氏は笑う。どうやら、正解らしい。
「良かったわね。妾がいない世界に逝けて。せいせいしたでしょう?それなのに、何故態々此処に来たのか、分からないわ。」
「それは私の勝手じゃないの。」
「妾を苦しめるためだけに、地獄から上がって来たの?それなら、無意味だわ。妾はとっくに不幸よ。」
 二人の顔は変わらない。
「貴人。」
 後ろから、永寧が口を挟む。
「お前が此処に来たのは、貴妃への報復以外にも、訳があるのではないかしら。」

「変な夢。」
 霛塋は目を覚ます。
(私が下界に落とされる?そして、凌氏おばあさまに会うの?)
 そのお祖母様は死んでいるわけだが。彼女は、凌氏の生まれ変わりに会うこととなる。十数年後に。
「どうして?」
 霛塋は頭を抱える。
「どうして、こんな夢を、見たの?」

「死者の楽園。この国のことよ。」
 それを前提として、永寧は話を始める。
「この国の建国者は、死人だった。死人が創った、死人のための国なのよ。だから、この国の民は、死人か、その子孫にあたるわ。」
 榮氏は前者、永寧や旲瑓、霛塋等は後者になる。
「生きていれば、報われないことだって、多々ある。そして、死後、此処に来られた人間は、下界に出来なかったことをするの。」
 榮氏は長くは生きられなかった。たった十七で命を枯らしてしまった。人の魂を喰らってまで生き返ろうとするその姿に、彼女は、この国に来ることを許されたのだろう。
 そして、地獄にいた凌氏や懍懍もまた、榮氏への報復の念が強かったがために、此処に来ることが出来た。
 因みに、懍懍の父も榮氏に殺されたが、彼は無限地獄を彷徨う羽目になるだろう。更に、榮氏への関心がほぼ皆無に等しかったために、今でも奈落の底へ真っ逆さまだ。
「平等?おふざけはやめてくれる?」
 凌氏は反論しようとする。
「ならば、どうして懍懍と同じ様に榮貴妃を可愛がってやらなかったの?それは、平等と言えるのかしら。無理よね。矛盾しているわ。」
 凌氏の言動は、一致しないことも多く、曖昧なのだ。
「お前は、哀れな人間ね。」
 永寧は凌氏を憐れ見る。
「誰かに愛されていないと、生きてゆけないのね。」
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