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夢
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『本当に、何も知らないのね。』
女は涙した。
(嶷煢郡主の存在を知られてしまったということは、全てが終わってしまう日も、近いのかもしれない。)
今すぐ、彼の記憶から、その名を消してしまいたい。そして、書庫に足を運び、嶷煢郡主についての文献を、抹消してしまいたい。
(許されることなのかしら。)
腹に手をあてて、考える。胸にもやもやとした感情が芽吹いている。
(私の寿命も、もうすぐ尽きてしまう。)
そして、あの日から、もうすぐ十月なのだったと溜息をついた。
「大長公主様~。」
小明が永寧に駆け寄る。
「榮貴妃様に、注意なさってくださいね。女の勘を、舐めたらいけませんよ。」
女の勘。根拠はないが、それよりも恐ろしい物はないかもしれない。
「そうよね。榮貴妃に、ね。」
榮莉鸞貴妃と云う女は、とても嫉妬深い。彼女のものに手を出したと知られれば、癇癪を起こされてしまう。
「避けたいわね、それは。」
榮氏は人間の魂を欲す化物だ。そんなのが、後宮には居るのだ。
(旲瑓が、危ない。)
ひっそりと、誰にも気が付かれることなく、事を済ませなければならない。
(私の離宮に、そんな、口の堅い侍女や従者はいたかしら。)
場合によっては、離宮にいる関係者を全員殺す、なんてことをしなければならないかもしれない。かつて、彼の、廃后がやった様に。
『いいの?』
消えたと思っていたのに。嗚呼、また、あの女の声だ。
「五月蠅い。」
耳を塞ぐ。
『永寧大長公主が何かしてるみたいよ?』
凌氏は、淑景北宮に幽閉されている。榮氏は冷宮に幽閉することを望んだが、建物自体が古かったので、それは却下された。
「何も言うな。」
『まぁ、いいわ。明日、書庫にでも行きなさい。面白いことも分かるかもよ。』
先程から、物音がする。おかしい。此処は、普段、人が足を踏み入れることが少ないはずなのに。
(誰よ?)
榮氏は息を殺す。そして、なんとなく、落ちていた枝を握り締めている。
「誰!」
ガシャン、と大きな音がした。慌てていたのだろうか。
床には、木簡や書物が散らばっている。かなり古そうだった。
「何よこれ。」
榮氏は散らばった書物を拾う。誰ぞ知らないが、人物に対する情報だろう。
「『嶷煢郡主』?誰なのよ。聞いたことないわ。」
隣に落ちていた巻物は、肖像画であった。淡い紫の裙を着た、紅い瞳の女だった。
(誰かに似ている?)
もう一枚、少し新しい巻物があり、それを広げる。それは、旲瑓の肖像画だった。
(あ、やはり。)
誰かに似ていたと思ったら、それは旲瑓らしい。
(同じ絵師が描いたから似ている、だなんてこと、ないのかしら。)
でも、筆使い等、微妙に違う。描いたのは、きっと、別人だ。
(郡主様ってことは、血の繋がっているはず。似ていても、おかしくはないはず。)
それなのに、如何してなのだろう。
手が震えている。冷や汗が流れる。動揺している。
背後から、禍々しい気配がする。振り返ろうとしたら、その瞬間、床に何か金属の物が掠る音がした。
それ以降、何も覚えていない、
女は涙した。
(嶷煢郡主の存在を知られてしまったということは、全てが終わってしまう日も、近いのかもしれない。)
今すぐ、彼の記憶から、その名を消してしまいたい。そして、書庫に足を運び、嶷煢郡主についての文献を、抹消してしまいたい。
(許されることなのかしら。)
腹に手をあてて、考える。胸にもやもやとした感情が芽吹いている。
(私の寿命も、もうすぐ尽きてしまう。)
そして、あの日から、もうすぐ十月なのだったと溜息をついた。
「大長公主様~。」
小明が永寧に駆け寄る。
「榮貴妃様に、注意なさってくださいね。女の勘を、舐めたらいけませんよ。」
女の勘。根拠はないが、それよりも恐ろしい物はないかもしれない。
「そうよね。榮貴妃に、ね。」
榮莉鸞貴妃と云う女は、とても嫉妬深い。彼女のものに手を出したと知られれば、癇癪を起こされてしまう。
「避けたいわね、それは。」
榮氏は人間の魂を欲す化物だ。そんなのが、後宮には居るのだ。
(旲瑓が、危ない。)
ひっそりと、誰にも気が付かれることなく、事を済ませなければならない。
(私の離宮に、そんな、口の堅い侍女や従者はいたかしら。)
場合によっては、離宮にいる関係者を全員殺す、なんてことをしなければならないかもしれない。かつて、彼の、廃后がやった様に。
『いいの?』
消えたと思っていたのに。嗚呼、また、あの女の声だ。
「五月蠅い。」
耳を塞ぐ。
『永寧大長公主が何かしてるみたいよ?』
凌氏は、淑景北宮に幽閉されている。榮氏は冷宮に幽閉することを望んだが、建物自体が古かったので、それは却下された。
「何も言うな。」
『まぁ、いいわ。明日、書庫にでも行きなさい。面白いことも分かるかもよ。』
先程から、物音がする。おかしい。此処は、普段、人が足を踏み入れることが少ないはずなのに。
(誰よ?)
榮氏は息を殺す。そして、なんとなく、落ちていた枝を握り締めている。
「誰!」
ガシャン、と大きな音がした。慌てていたのだろうか。
床には、木簡や書物が散らばっている。かなり古そうだった。
「何よこれ。」
榮氏は散らばった書物を拾う。誰ぞ知らないが、人物に対する情報だろう。
「『嶷煢郡主』?誰なのよ。聞いたことないわ。」
隣に落ちていた巻物は、肖像画であった。淡い紫の裙を着た、紅い瞳の女だった。
(誰かに似ている?)
もう一枚、少し新しい巻物があり、それを広げる。それは、旲瑓の肖像画だった。
(あ、やはり。)
誰かに似ていたと思ったら、それは旲瑓らしい。
(同じ絵師が描いたから似ている、だなんてこと、ないのかしら。)
でも、筆使い等、微妙に違う。描いたのは、きっと、別人だ。
(郡主様ってことは、血の繋がっているはず。似ていても、おかしくはないはず。)
それなのに、如何してなのだろう。
手が震えている。冷や汗が流れる。動揺している。
背後から、禍々しい気配がする。振り返ろうとしたら、その瞬間、床に何か金属の物が掠る音がした。
それ以降、何も覚えていない、
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