異世界人生ニューゲーム

ナアザ

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村での子供人生

死の儀

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中年太りの男と龍人の女は家の中でじっと机に座っていた
我が子が生まれてまだ一週間しか経っていないのだが親の顔は異様に暗い
何かに怯えるような、そんな雰囲気を醸し出していた
コンコンコン、と扉がノックされる音が部屋に響く
その音に反応してか、はたまた別の理由があるのか、2人してビクッと体を震わした

「ヨルムだ、……ナナシをもらいに来た」

渡したくない、
だがやらなければならない、やらなければ間違いなく

我が子は間違いなく『死ぬ』のだから
中年太りの男は震える体でナナシを揺りかごから抱き上げると龍人の大柄な女が駆け寄り共にギュッと抱きしめてやる
何も知らない無邪気なナナシは眠りながら親の手を離れた、その手にはミサンガが見て取れる

「……これで最後だな」
その言葉を紡ぐヨルムの顔は明らかに暗い影を落としていた

この魔法がある異常な世界で生まれ育ったこの国の人間には現代日本では考えられない変わった習慣があった

生まれて間もない赤ん坊の体に異常がないか調べて毒を塗りたくるというものだ

馬鹿げていると思うだろう
しかし、これにはちゃんとした理由がある、この世界は古代より魔法という力が発展した

魔法を使えないものなど世界を探してもそういないだろう

そんな世界で誰が科学を研究しようなどと思うだろうか?
もちろん全くいないわけではない、時折現れる偏った知識や才能を持つ人間が科学を飛躍的に
進めた

間違いなく、悪い方向に

彼らは自分の気に入った土地に自分の知識とその技術を伝えた

その土地だけに、天才達が統治していた土地は急激に力をつけ
それ以外の土地は消えて行く

魔法は万能であるが万能になるには並大抵の努力では足りない

死人を蘇らせるのには、歳を若返らせるにはそれこそおとぎ話の世界レベルである

流行病、衛生問題、現代日本ですら克服出来ていないものを魔法に頼る世界が解決できるわけもなく、

重い病気にかかったら魔法?薬?安置?

なってしまったら魔法の学もない貧相層は死んでしまう
特にこの国は酷く、国の一部を輸入に頼っている食糧の為、間引くことが大きな理由であった

§

険しい、険しすぎる山の中で何十人もの若い男達は息を切らしながら山岳をしていた、男達が運んでいる複数の神輿のような物の中からは人間の赤児特有の泣くような叫ぶようなそんな声がうるさいほどに耳に響く

息を異常なほどに切らす中年太りの男は先頭を歩く一番若い男に声をかける
「ハァ、ハァ、ハァ、ヨルムさん後どれぐらいです、か?」

「あと少しだ、気張れ落とすなよ」

中年太りの男は神輿を落とさぬように肩の奥側に神輿を乗せて激しい息遣いのままヨルムの後をついて行く

少しと言うには遠すぎる、少なくとも中年太りの男にとっては遠過ぎる目的地に着いたのは汗をダラダラかき今にも崩れ落ちそうな時だった

険しい山岳が終われば人工的に作られた雲に続く石畳階段、それをいれなくともその前にいくつか山を越えている、間違いなく通常の人間より異常といってもいいほどの運動能力を有していた

「ヨムルさん、毎年こんな山登ってるんですか?」

地面に膝と手をつきながら荒い息遣いでヨルムに声をかける

彼は村の長の血をひく者、簡単に言えば村長の息子である

「いや、冒険者になる前までで今年久々に登った」

そんな軽口を叩きながらもその手は慌ただしく動いていた

しばらくしてヨルムは赤児一人と背負い袋を持ってその場にいる全員に声を出す

「みんな、自分の子供と荷物を持ってやしろに向かうぞ」

流石元冒険者と言うべきかヨルムはいつも通りのペースで息一つ乱していない

ヨルムの声で皆が動くなか、中年男性だけがその場に膝をついている

「ドゥル、もう行くぞ」

ドゥルと呼ばれた中年男性はふらふらとその太った体に鞭を打ち自分の子と背負い袋を持って雲に続く階段に足をかけた

「いや~、懐かしいな」
「ガキの頃に一回来た時は雲に乗れると思ってはしゃいでたんだけどな」

これから自分の子供が死ぬかもしれないなかで男達は軽口を叩く

これの理由は簡単
シンプルな答えで血統と言うものである

この国は昔から軍事力に強い力を入れている
当時、まだ多くの国が基盤を固められず発展途上のなかでこの国は四国の敵国と海に面する国であった

他国よりも輸出品が多く海に面していたため遠くの当時大国であった国と貿易を盛んにすることで敵四カ国よりも頭一つ抜け出た国となった

経済的優位に立った国は遂に敵国に攻め込むための準備を始めようとしていた

そんな時、4カ国中の一国が戦争勃発、当時は平原に死体の山と名が付くほどだったらしい

その国は人種差別のない国を謳っていた王国

獣人であろうと龍人であろうと魔族であっても人種による差別をしなかったのである

それだけであれば良かった、その思想は他国をも巻き込んだ、周辺諸国に自分達の思想の創立者を神と崇め布教し始めたのだ

王国と大きく面していた大国てあった皇国は人がその国に流れていることを知り、国を混乱させたと戦争を始めた

王国は獣人や龍人などの身体能力や魔力の強い人種が多く皇国と一進一退の戦いを巻き起こしていた

しかし、数年の戦争により王国はその力を疲弊していき大敗した

あとは掃討戦に移行するだけだ

それを見計らい難民、移民の受け入れを開始したのがこの国、グラン帝国である

グラン帝国は王国全土に情報を送った

様式美を取り除けば、
難民、移民を受け入れる、ただし国としての線引きをさせてもらう

その下に項目はずらりと並んでおり、目を通して簡単に言えば優秀な人材が欲しいと書いてあった、これだけならば他の隣国に逃げ延びた者が多かっただろう

難民、移民など所詮よそ者、更には亜人が多いい他国ならもっと酷い差別を受けるだろう

ならばとグラン帝国から遠くに住む住人であっても優秀な人材は危険を分かった上でグラン帝国に逃げた

入国できた場合、手厚い手当てで迎える

その内容は異様なものであった

決して裕福で幸せな生活ではないが、難民、移民としては破格であった

あとは簡単だ、自分の実力を信じ皇国の手から逃れてグラン帝国に入るのだ

それまでに多くの命が失われたがグラン帝国にはどうでもいい、優秀な人材が手に入ったのだから

この時からグラン帝国には多少の揉め事が起きたが人種差別の意識が少しずつ減っていった

そして、またしても問題が起きた流行病だ

この病は大人には余り影響を与えず、悪くて高熱程度であった

問題は赤子だ、他国には難民の受け入れと言っているが本心では兵などの労働力的人口増加のための受け入れが、おそらく不衛生な戦地からの人口増加が原因だろうと考えられる

どうすれば、そんな考えは当時の王、グラン4世が解決させた

赤子に毒を塗れ、王の言葉が国中に広まった

赤子に毒を塗る、この行為は当時の状況下でも非難されていたが、やむおえない形でこの国は子供に毒を塗っていた

赤子の死亡率は高く、ただでさえ多くなかった赤子が更に減ったのだ、これを原因に国の一部で反乱が起きたのだが国がそれを抑圧、そんな反乱が昔と揶揄される頃にやっと赤子の生存率が徐々にではあるが上がっていったのである

結果論ではあるものの国の政策は功を奏し今ではその死亡率は決して高くはない

何故なら抗体がもはや体の中にあるのだから

そう、
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