推しよ、ここはBLゲームの世界です!〜属性:腐女子のモブは、推しも世界も救いたい〜

はちよ

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13話 師匠

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「うっっっっわ……」

 約束の1時間が近づき、覚悟を決めて外に出たアンだったが、目の前の光景に思わず言葉が漏れた。

 町の中心部にある噴水広場には多くの女性が集まっており、どうやらルーカスはその中心に居るらしい。

「(何あれ……アイドルじゃん……)」

 ルーカスは嫌な顔ひとつせず一人一人と言葉を交わしては何かを女性から受け取って握手を交わしている。

「(何だこのデジャヴ……あれだ、アイドルの握手会)」

 関わりたくない。

 そう強く思えど、無視をする訳にもいかない。
 自分の行いで未来がズレてしまったのだとしたら、修正できるのは正規ルートを知っている自分だけなのだ。

 アンは逃げ出したい衝動を堪え、ルーカスに向かう。

「(美形ならエルヴィンで多少体制はついてるはず……! そもそもゲームのスチルなら穴が空くほど見た!! さっきは不意打ちだったから狼狽えただけ!!)」

 ルーカスもアンにすぐに気がついたようで、にこやかに話しつつアンに向けて手を挙げる。
 ルーカスは名残惜しそうな女性たちに手を振りながら、その長い脚であっという間にアンの元へたどり着いた。

「アンちゃん、お待たせ」

 ルーカスはアンに視線を合わせるように腰を折り、アンの手を取る。

「僕の我儘を聞いてくれてありがとう」

 王子様がお姫様にダンスをお願いするようにルーカスはアンの手の甲に唇を落とし、アンの脳内からは全ての言語が消し飛んだ。


 ◇◇◇


 ルーカスは挙動不審なアンの様子を体調不良と解釈したらしい。
 甲斐甲斐しくアンの身体を労り、家まで送り届け、そしてアンの家に上がった。

「(舐めてた……! ルーカスのお顔だってゲームで見なれてると思ってたけど二次元と三次元は全く別!! 別物!!!! いい匂いがするしもう無理すぎるもう帰りたい……帰ってきたけど!!)」

 アンの脳内はずっと大忙しでこれからのことはノープランだ。
 その場の流れで家の中に招き入れたものの、よくよく考えればアンはエルヴィン以外の男性を家に入れたことがない。

 時間稼ぎに入れたお茶を出してから、アンは纏まらない思考のままおずおずと口を開いた。

「あの……私になんの御用でしょうか……」

 視線を合わせようとしないアンにもルーカスは王子様然とした表情を崩さずに微笑みかける。

「アンちゃんのこと、前から気になっていたんだよね」
「はぁ……えっと、どなたから……」
「エルヴィンから。僕のこと、エルヴィンから聞いてない?」

 エルヴィンは驚いたような表情でアンを見るが、アンは本当に聞いていないのだ。
 想像は着いていたとはいえ、エルヴィンとルーカスの繋がりなんて検討もつかずアンは首を振る。

「……そう。僕、こう見えて魔法使いなんだよね。結構優秀って言われてるんだけど」
「(結構どころか国内一どころか歴代一位と言われていますよね……)」
「で、エルヴィンの師匠」
「………………はい?」

 予想外すぎる答えにアンは固まった。
 あんなに視線を逸らしていたルーカスをきょとんとした目で見つめる。
 そんなアンにくすりと笑い、ルーカスは言葉を続けた。

「アイツも可愛いやつだよね。僕みたいになりたい、って押しかけてきてさ。もう……5年くらい前かな」
「えっ!?  ちょっ、えぇ!?」
「そんなに驚く?」
「驚きます!!!!」

 エルヴィンが誰かと親しくしているという話は聞いたことがなかった。
 それも、ゲームでは特別親しくもなかったルーカスが相手で、5年も前からだなんて。

「そっか、秘密にしてたのかな。悪いことをしちゃった」
「(全然悪いことをしたなんて思ってもないくせに……!)」

 ルーカスは楽しそうに笑っていた。
 きっと、今この状況を楽しんでいるに違いない。
 エルヴィンが秘密にしていたことを敢えてアンに告げ、反応を楽しんでいるのだ。

 でも。

「エルヴィンとの出会いから教えて貰っていいですか!?!?!?」

 推しのことはなんでも知りたいものなのだ。
 例えそれが罠であったとしても。


 ◇◇◇


「ってこともあったんだよね」
「え~~~~何それすっっっごく見たかったです……!」

 どのくらい時間が経っただろうか。
 初めにあった緊張感はどこかへ消え、アンとルーカスはすっかり打ち解けたように言葉を交わすようになっていた。

「(かっこよくなりたいってルーカスの所に行ってたとかエルヴィン可愛すぎない!?!?)」

 ルーカスから聞くエルヴィンの姿はアンにとって初めて知るエルヴィンの姿ばかりだった。

 確かにエルヴィンが垢抜け出したのは5年くらい前からだった。
 ルーカスはゲーム1のモテ男である。ルーカスに弟子入りをした結果と言われれば、エルヴィンの垢抜けにも納得がいく。
 きっとアンをやたら口説くようになったのもルーカスの影響なのだろう。

 アンは「美咲」だった時も弟が高校生になってから一気に垢抜けた記憶があった。5年前のエルヴィンは17歳。やはり、そういう年頃なのだろう。

 満足気に頷くアンの手を、軽やかにルーカスが握る。

「アンちゃんってば……そろそろ心の距離も縮まってきたし、敬語はやめない?」
「え……?」

 その時、アンの家の扉が乱暴に開かれた。

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