俺、勇者として召喚されたのに詰みました。〜これブチ切れ案件じゃないっすか?〜

なこ。

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第四話〜出会いを運ぶ鳥〜

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エミリの急な裏切りを味わった俺は近くの使われていない小屋に入り、雨風を凌いでいた。


「はぁ…こんなくよくよしててもよくねぇよな…。」


あれからずっと俺の頭にはエミリとの思い出が駆け巡っていた。


この世界に来た時のことや

王宮でのこと、

依頼での出来事。



どれも演技だとは思えなかった。
けど、本当は俺を利用してたと思うと…。



「…いかんいかん!これじゃ未練タラタラ男じゃないか。そろそろどうするか考えなきゃだな。」


いまは一文無しで武器も装備も…卵もない。
俺の卵は孵化したみたいだがそれを見逃したせいでエミリに盗まれてしまった。




「…俺…龍勇者の力あったんだな…。」



だけど、もう手元には何も無い…



「はぁ…どうすんだよ…これじゃ詰んでんじゃん。」



ドサッと俺は藁に倒れ込んだ。




小屋の天井には大きな穴が空いていて、雲がかかった月が見えた。



「もう、、これは、、、どうしようもな…ぃ…」



色々ありすぎたせいで疲れでどんどん意識が遠のき、眠りについてしまった。








・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・









チュンチュン




「…ぅん…んん…」



鳥の鳴き声と朝の日の照りで俺は目覚めた。
目を開けると黄色でいっぱいだった。




黄色?



ぴよぴよっ!!!




「んはぁん!?!?」


キモさMAXの声を出しながら俺は目を見開いた。
つか、なんちゅー声出してんだ。俺は。


目の前には小さいひよこが覗き込んでいた。

なおかつ俺の眉間目掛けて啄いてきた。


「いっでぇ…!こいつ、、、!!!」



啄かれた恨みを込めて目の前の黄色い鳥を掴む。


「ぴきゃーーーー!!!!ぴきゃぴきゃぴぴ!」


手の中にいる鳥は鳥にしては珍しい鳴き方をしていた。



「てめぇ、焼き鳥にしてやる…」

「ぴみょおおおおお!ぴみょっ」

「いで!いででで!こら!噛むな!」


激しく抵抗する鳥を必死に押さえつける。


「ぴみょぉおお…」

「お前どっから来たんだよ。」

「ぴみょぴょ!」

「てかなんで俺の頭にいたんだよ」

「ぴぴぴ!」

「…お前やっぱ焼き鳥にするか。」


「ぴきょおおおおお!!!ぴぴぃ!」



自信満々にぴぴぴと鳴く姿に殺意がまたぶり返してしまった。



にしてもこの鳥、俺の言葉…。


「お前もしかして言葉理解してんのか…?」

「ぴ~?ぴぃ!」



まさかと思って聞いてみたが、目の前の鳥は手を上げて返事した気がした。いや、きがするだけか?



「…」

「ぴぃ?」

「いや、こんな毛玉が言葉わかるはずなんてないか!」

「んぴぃいいい!!!」


鳥は激しく怒ってる感じがあったがもう気にしないようにした。





チャリッ

「ん?」



ポケットから何かが落ちた。


落ちたものを拾い上げると冒険者ギルドで得たプレートだった。


「…あ。そういえば依頼…まだ達成してないな…」

昨日は4匹討伐したがエミリにタンポポネズミの素材を持たせたままだからこれじゃ討伐数カウントが出来ない。

ということはまだ1からか。


俺はプレートを握りオープンスキルを唱えた
すると目の前にスキルウィンドウが浮かび上がる


・堀井    春風/Lv02    /役職:龍勇者


昨日の戦闘でレベルが上がってる…。そして役職に龍勇者が新しく追加されてる!
俺の龍勇者としての証明はこれで取れるってことか。
…ん…でもたしか…


「これって他の人に見れないんだっけか。」


これじゃ証明にもならないな…


「…はぁ…。」


とりあえず依頼をしに行くか…

たしか小屋に来た時に武器として良さそうなもみがあったな。

「あ、あったあった。……って、結構ボロいな…。」


夜見つけた時は暗くて分からなかったが、こうして明るい時に見ると…なかなか…ボロボロだな…。


「まぁ無いよりはマシか。」


ウエストポーチに、上手くひっかけて持ち運ぶことにした。




「…んぴぃ…」


「…なんだよピヨ助。」

「ぴぃ…ぴぃ…」

「…もしかしてついてきたいのか?」

「ぴみょ!!!ぴみょ!」

「……」

「ぴぃー…」

「…………はぁ。わかったよ。邪魔すんなよ?」

「ぴみょーーーっ!」


ピヨ助は嬉しそうに鳴くと、俺の頭によじ登ってきた。


「…意外に重いな」

「んぴ!」


なんで胸張ってんだよ。





・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・


-スレイ原っぱ-






「でや!!!とりゃっ!」


ちゅーーー!




レベルが上がったおかげか昨日よりタンポポネズミを倒すのは難しくないが、ボロい籾のせいで長時間戦うのは宜しくないかもしれない…。


「オープンスキル」


堀井   春風/Lv04   /役職:龍勇者(New)スキルアップ


レベルも上がったな。
…ん?スキルアップ?


「もしかして龍勇者としてスキルが何か開放されたのか?」


でも確認の仕方がわからないな…
どうみれば…。






悶々と考え込んでいる俺の背後から影が差した。


「なんか暗い…?」

ゆっくり振り向くと




「ぐおおお」



そこには熊のような見た目の魔獣が居た。



「うぇええええ!?なんだこいつ!?」


熊のような見た目の魔獣は鋭利な爪で俺の脳天目掛けて振り下ろしてきたがそれを間一髪で籾で防ぐ。

「あっぶね、、、」

「ぐぉおおお!!!!!」

熊はそれで済まず、2発、3発と追撃を繰り出してきた。



バギィッ!!!


「おいおいおい。まじかよ。」


これまでダメージを防いできた籾は耐えきれず真っ二つに割れた。


割れた。



われた。




「これ…あかぁん。」



「ぴぃ…ぴぃ」

俺が2つになった籾を見て青ざめているのをピヨ助は不安そうに見つめていた。



「ぐおおお…ぐおおおおおおおお!!!」


いまだ、といわんばかりに熊は距離を詰めてくる。



「くそぉ…」

俺はゆっくり後ろに後退するしかなかった。


お互いの距離は近くも遠くもなく、一定に保たれていた。



しかし、俺の足がこれ以上下がることがなかった。


いや、後ろに下がれなかった。


「くそ、、、壁かよ…」

なぜなら後ろには山壁があったから。





「ぐおおおおっ!」


熊は一気に距離を詰め、爪を立てて腕を振り上げた。
その手を俺はギリギリで避けるが、完全には避けきれなかったらしく左腕には大きな切り傷が出来ていた。



「ぅうっ…くそ…こうなったら…!」


「ぴぃ!ぴぃぴぃ!」


「ピヨ助!捕まっとけよ!」


俺は熊に背を向け全速力で茂みに入っていった。
恐らく熊も俺のことを追って来ていると思うがお構い無しに我武者羅に進む。



走り続けた先は…。



「おいおい、壁の次は…崖かよ…」


スレイ原っぱを夢中で走り抜けたせいか、スレイ原っぱのだいぶ端まで来てしまったようだ。

ここまで続くのか。おれの不運は。


「ぴみょ…」

「ピヨ助。お前だけでも逃げろ」

「ぴぃ!?ぴぃぴぃぴぃ!」

「俺の事を心配しているのか?大丈夫だ。」

「ぴぃ…」

「さ、行くんだ。」

「ぴぃ…。ぴぃいい!!!」



ピヨ助は非力な鳥だ。ここで俺と一緒に死ななくていい。
せめてでもあいつだけでも俺は逃がしてやりたかった。

ピヨ助は羽ばたいた。


何度もこっちを振り返りながら飛んでいくピヨ助を見つめ。
生前にせめてでも1ついいことが出来てよかったなぁ。とぼんやり思った。





そんなことを考えている間にまだ遠くにいた熊はもう近くまで迫っていた。


「この籾の柄の部分で戦うしかないのか…。」


籾の先端部分は逃げてる最中にどっかに落っことしてしまったようだ。


「グウウウウ」



熊はジリジリにじり寄ってくる。



「こうなりゃ、いくしかねぇ!!!」

俺は柄の部分を振り上げ熊の頭に振り下ろす


ポカッ



やや力抜けた音しか鳴らなかったが、この微妙な衝撃に熊は少しよろける。


「まだまだぁ!!!」

ポカッ

ポカッ


まだ更に1発、もう1発!


全身全霊の力を込めて殴る




「グウウウウグオオ」



「…おい。これ効いてるのか?効いてるでいいのか!?」



熊は毛をブルブルと振り俺に向き直った。
心做しか熊は…少し…激怒してるような…。


「ガアアアアアア」


「怒ってる!これ、絶対怒ってる!!!!」




熊は後ろ足に力を込め、俺めがけ飛びかかった。



「あ。これ。おわっt──────」





「────氷球弾アイスショット






「………?なにが…?」



俺に飛びかかった熊に何かが貫いた。

氷のような…?



少しづつ目を開けると


「ぴぃ!!!!」

「!?ピヨ助!!!」

ピヨ助と女の子がいた。




「………。」


女の子は無表情でこちらを見つめていた。


「…え、えっと…助けてくれた…のか?」

「…」

「その、、ありがとう」

「…」

「……あの…もしもーし」

「…」


あれ?俺の声届いてない?


「耳悪いのか…?」

「聞こえてるわよ。」

「うぉ!?なんだよ!反応しろよ!」

「…ふん。弱者に興味なんてないわ。」


なんだこいつ!!?くっそ性格悪いな!!


「ぴぃ!」

「てか!ピヨ助!!!なんでお前この女の子と一緒にいるんだ?」

「…ピヨ助じゃないわよ。ちゃむよ。」

「へ?ちゃむ?」

「私の愛鳥よ。少し目を離してる間にどっかさんの所に行ってたみたいだけど。」

女の子はちゃむを撫でながらチラッと俺を見た


「あー、こいつ俺の所にいたぞ。」

「そう。まぁしってるわよ。急に私の元に帰ってきたと思ったら急かしてくるんだもの。…まぁ私のちゃむを良くしてたみたいね。」

「まぁ、いいってことよ。」

「何調子のってるのよ。危機から助けてあげたんだから、これでチャラでしょ。」

「…あ、はい。そうっすね。」


俺こいつ苦手だわ





「てかこの熊一体なんなんだよ。」

「…アングリーベアよ。」

「なんだそりゃ。きいたことねぇな…」

「それもそのはずよ。アングリーベアはキャットベアの突然変異だからね。」

「へ。キャットベア…?」

それって英語でパンダじゃないのか…?
パンダの変異種が熊…?

「この世界の動物ってどうなってんだよ…。」


「この世界…?」

「あ、いや、なんでもない。」

「…ま、いいけど。」


この子凄いクールだな。

「あのさ、名を名乗ってなかったな。俺は春風。君の名前はなんだ?」

「…あんたに名乗ってなんの得があるの?」

「いや、命の恩人の名前ぐらい聞いとかないと、て思ってさ!」

「…シェナ・リルドナール。」

「シェナか!」

「ふん。」

「ぴぃ!!!」





俺はこの詰んだ運命を変える

出会いをした。
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