名ばかり聖女はかぼちゃパンツ陛下をからかいたい!

ハラペコWASABI

文字の大きさ
1 / 27

1かぼ!名ばかり聖女

しおりを挟む
「全魔力と引き換えに召喚したのに力が使えないなんて詐欺だっ、僕の魔力を返せ!」

 25歳の私に向かい、わーわーと声を張り上げ必死な形相で怒鳴ってくるのは見た目2~3歳のお子様である。

「断りもなく人を呼び出しておいて、その言い草はないと思うんですけど」

 嫌味っぽい笑顔で返すと、お子様は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「最後の望みだったのに……まさか肩書きだけの名ばかり聖女が来るなんて……」

「名ばかり聖女とか、わけもわからず呼ばれた私に対して失礼すぎない?この、かぼちゃパンツ陛下っ!」

 悔しそうな表情のお子様にわたくし斉藤奈那サイトウナナはしっかりと言い返す。

 本当のお子様なら優しく接するけど、目の前にいるホワイトブロンドヘアに碧眼、赤い立派なかぼちゃパンツを履いたお子ちゃまは外見こそ2~3歳だが、中身は私と同じ25歳。しかも国王陛下だ。

「かっ、かぼちゃパンツ?王に向かって何を言う!」

「だって……王って言われてもねぇ」

 憐れみを含んだ瞳で見つめると、ミニ陛下の宝石のような青い瞳が大きく広がった。

「な、なんだその顔は!小さいから王に見えないとでも言うつもりか?」

「その通り」

「やっぱりそうなのか……」

 自分で聞いてきたくせに、ミニ陛下は口を思い切りへの字にして、青い瞳を潤ませた。

 この表情に私の内心はきゅんとなる。

 はあっ、中身25歳なのになんて子供らしい表情をするの?この泣きそうな表情、たまらなく可愛い。ツンと突き出したへの字口がヤバすぎる。

 あまりの可愛さにホクホクしていると、ガックリと項垂れたミニ陛下。泣きそうな表情は可愛いけど、本当に泣かせたい訳ではない。

 目線を合わせるように屈んでいた私は急いで手を伸ばし、拗ねた子供をあやすようにミニ陛下を抱き上げる。

「冗談だよ、泣かないで」

「なっ、なっ、なっ……抱っこするなぁああ!下せ!おーろーせー!ラン、僕を助けろ!」

 ミニ陛下は瞬時に頬を真っ赤に染め、慌てて従者に助けを求めた。
 しかし私達のやりとりを見守っていた従者であるランは、堪えきれず大爆笑している。

 従者としてそれで良いのかとツッコミたくなるがこの世界では許されているのかもしれない。

「ランは笑うのに忙しくて助けてくれそうにないね。ふふ、真っ赤になってトマトみたい」

 人差し指でツンツンと頬を突っつくと、ミニ陛下は紅葉もみじのようなちいさな手で頬を押さえ耳まで赤くした。

「も、もう嫌だっ!なんで僕はこんな名ばかり聖女を召喚してしまったんだぁ!」

 光り輝く不思議な濃霧に包まれた部屋にミニ陛下の声が響き渡る——



 そうなのだ。私はつい1時間ほど前にこの世界に召喚されたばかり。

 仕事帰りに歩いていたら突如地面に穴が空き落下。心臓に毛が生えていると評判だった私が死を覚悟して神に祈ってしまう程のスリルを味わい、気付いたらここだった。いや、ほんと召喚の仕方から有り得ない。

 わけが分からずキョロキョロしていたら、赤いかぼちゃパンツ、赤ジャケット姿に金色の王冠を被ったやたらと可愛い幼児が現れたのだ。

 こんな場所にコスプレした幼子が1人でいるのはおかしいと思った私はしゃがんで優しく声を掛けた。 

「こっちにおいで。僕も穴に落ちちゃったの?お父さんかお母さんは一緒にいる?」

「穴?言いたい事は分かるが僕は子供じゃないから心配ない」

「えーと、君は子供だよ?」

「本当に子供じゃないんだ!その事でお願いがある。聖女よ、聖なる力で僕に掛かっている魔法——呪いを解いてくれないか」

 聖女と呪い。この2つのパワーワードでピンときた。

「あれだ、ラノベ!」

「ラノべ?よく分からないがお願いする!聖女よ、僕を大人の姿に戻してほしい!」

 なるほど、胸に手を当て必死な面持ちで懇願してくるところを見るに、どうやら私は聖女でこの子供の本来の姿は大人。
 この子の呪いを解く為にここに召喚されてしまったらしい。

 ここまで必死なのだから役目は果たさなければいけないとは思う。
 でもどうやって大人に戻せばいいのか見当もつかない。

 考えていると霧の中から銀髪おかっぱ頭の、私と同じ歳くらいの美青年が現れた。何やらアニメに出て来そうな見た目だ。

 スラっとした体型で紺地に金の刺繍が入った詰襟服がよく似合っている。
 切れ長一重でクールな感じのイケメン。白百合を持たせたら凄く似合いそう。

 そんな彼は私に小さく一礼すると、子供に向き直り口を開いた。

「陛下、聖女様とお呼びしないと失礼ですよ」

「いやしかし我がマンドローレ国の聖女じゃないからな」

 子供が生意気そうな顔でおかっぱ頭に向かって言った。

 はい、ちょっと待った。私は聖女らしいと言う事は理解。でも陛下とか我がマンドローレ国?の聖女じゃないってどうゆう事?!なんだか普通の聖女と違うような……

「そこのおかっぱ頭の……白百合の君、私に分かりやすく説明して頂けると嬉しいのですが」

 右手を上げて問いかけると、白百合の君は無表情で目を細めた。

「もしかして、おかっぱ頭の白百合の君とは私の事ですか?」

「あ、そうです」

 頷くと白百合の君は乾いた笑いを漏らし、自己紹介してくれた。

「斉藤奈那様、突然お呼び出しして申し訳ありません。私の名前はラン・アルバニールと申します。お気軽にランとお呼び下さい。そして、こちらにいらっしゃるのは我がマンドローレ国の気高き王、アダム・スチュワート・マンドローレ国王陛下にございます。今はこうやって子供の姿になっておりますが本当のお姿は——」

 そう言って私の名前を知っていたランは、ミニ陛下に起こった出来事を淡々と話し始めたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...